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追放された俺のやり方、なぜか世界中で禁止され始める  作者: 七瀬ミコト


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第5話 三十日という戦場

 会議は、その日のうちに閉会した。

 だが、誰一人として「終わった」とは思っていなかった。


 世界協定再編会議――その名の通りなら、今日は“再編”の初日だったはずだ。

 実際に始まったのは、三十日間の猶予という名の戦争だった。


 官邸に戻る車内で、ミハイルは一言も喋らなかった。

 窓の外を流れる街灯が、彼の顔を断続的に照らす。若いが、今は完全に“当事者の顔”だ。


「……首相」


 ようやく、彼が口を開いた。


「さっきの交渉、本当に正解だったんでしょうか」


 私は即答しなかった。

 正解かどうかは、未来にしかない。


「正解かどうかは分かりません」


 私は正直に言った。


「ただ、やらなかった場合の結果は、分かっていました」


「……」


「人質は死に、キャンプは焼かれ、

 各国は“遺憾”を表明し、

 協定外圏は、また一段深く地獄になる」


 ミハイルは唇を噛んだ。


「でも……テロリストと話すなんて……」


「話さない方が、楽です」


 私は続ける。


「話さない理由はいくらでもある。

 正義、規範、前例、世論。

 ――どれも、正しい」


 私は窓の外に視線を向けた。


「でも、話さなかった結果は、誰が引き受けますか」


 ミハイルは答えなかった。

 答えられなかった。


 官邸に着くと、すでに非常対応室が立ち上がっていた。

 小国の官邸にしては異例の規模だ。

 だが、三十日間で世界の矛盾を一身に引き受けるなら、足りないくらいだ。


「無名地帯対応タスクフォース、暫定設置完了です」


 報告に来た官僚の声は震えていた。

 恐怖ではない。覚悟だ。


「各国の“非公式支援”をどう扱いますか?」


「すべて、議事録に残す形で管理します」


 私は即答した。


「善意も、裏取引も、同じ扱いで。

 光に出した瞬間、武器ではなくなります」


「……各国、嫌がります」


「嫌がるでしょうね」


 だが、それでいい。


 世界は、“見えないところでやる善行”に慣れすぎた。

 だから、責任が育たなかった。


 深夜。

 官邸の一室で、私は一人、資料を読んでいた。


 無名地帯。

 協定外圏。

 地図上では、白く塗られた空白。


 だが、その白は“何もない”のではない。

 書かなかった歴史だ。


 端末が震える。

 非公式回線。発信元は――レオナード。


『……起きてるか』


「ええ。そちらも」


『ああ。君のせいでな』


 彼の声には、いつもの軽さがない。


『正直に言う。

 アークレイン国内は荒れている。

 “なぜ小国の首相が世界を動かしている”ってな』


「それは、私が動かしたのではありません」


『分かってる。

 ――君が“止まらなかった”だけだ』


 短い沈黙。


『……三十日後、どうするつもりだ』


「三十日で終わらせるつもりはありません」


『だろうな』


 彼は苦笑した。


『だが、覚えておけ。

 君が今やっていることは、

 世界の保険を一つ外したのと同じだ』


「保険?」


『“誰も責任を取らない”という保険だ。

 それがあるから、皆、好き勝手できた』


 私はゆっくり頷いた。


「だから、外しました」


『……命知らずだ』


「ええ」


 通信が切れる直前、彼が言った。


『それでも――

 今夜、君の名前を悪く言えない人間が、

 うちに一人増えた』


 それだけで、十分だった。


 翌朝。

 世界は、少しだけ変わっていた。


 各国メディアが、一斉に報じる。


 《協定外圏、事実上の管理開始》

 《小国リュミエル、異例の責任引き受け》

 《前例なき交渉、波紋広がる》


 賛否は真っ二つだった。

 称賛と批判。

 だが、そのどちらにも共通点がある。


 無視できないという点だ。


 ミハイルが、端末を持って駆け込んでくる。


「首相!

 各国から、非公式な問い合わせが殺到しています!」


「内容は?」


「……“自国の問題も、同じ枠で扱えるか”と」


 私は、少しだけ笑った。


「来ましたね」


「え?」


「責任は、放っておくと嫌われます。

 でも、誰かが引き受けると――

 自分も預けたくなる」


 机の上に、三十日間のカレンダーを広げる。

 まだ、一日目だ。


 だが、すでに分かっている。


 この三十日は、

 リュミエル小邦の戦争ではない。


 世界が、責任と向き合うための戦場だ。


 そして私は、

 その最前線に、

 ただ立っているだけだ。


 逃げずに。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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