第33話 切断判断の外側
会議は、予定通りに始まった。
案件は三つ。
いずれも小規模。
いずれも切断が妥当とされる。
説明文は整っている。
署名欄も問題ない。
世界は、
迷わず進める準備ができていた。
「――では、本件について」
議長が、
いつもの調子で言葉を継ぐ。
その途中で、
男が、
初めて口を開いた。
「少し、
よろしいですか」
声は低い。
だが、
はっきりしている。
会議室の空気が、
静かに止まった。
「この判断について」
男は、
資料を見ない。
誰かの顔も、
直接は見ない。
「誰が、
引き受けますか」
一瞬、
誰も意味を理解しなかった。
質問が、
制度の外から来たからだ。
「……引き受ける、
とは」
事務局の誰かが、
確認するように言う。
「制度に基づく判断です」
男は、
頷いた。
「ええ。
だから、
お聞きしています」
一拍。
「誰が、
その判断を引き受けるのですか」
沈黙。
書類をめくる音も、
端末を叩く音も、
消えた。
答えは、
すでに存在している。
――制度だ。
だが、
それを口にした瞬間、
問いは完成しない。
「……それは」
誰かが、
言いかけて止まる。
男は、
追い詰めない。
視線を上げることもない。
ただ、
そこに問いを置く。
ユリウス・グランフェルトが、
静かに息を吐いた。
「判断は、
世界協定が行う」
正しい答えだ。
男は、
首を振らなかった。
否定もしない。
「世界協定、
というのは」
男は、
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「人ですか。
それとも、
仕組みですか」
誰も、
すぐに答えられなかった。
どちらでも、
正しいからだ。
だが、
どちらでも、
引き受けていない。
「……顧問」
クララが、
初めて言葉を挟んだ。
「その問いは、
制度の想定外です」
「分かっています」
男は、
即座に答えた。
「だから、
ここで聞いています」
会議は、
進まなくなった。
槌は、
打たれない。
誰も、
判断を否定していない。
ただ、
引き受け手が、
見当たらなくなった。
「……後回しにしましょう」
議長が言う。
逃げではない。
整理だ。
だが、
全員が理解している。
一度生まれた問いは、
消えない。
休憩時間。
廊下では、
誰もが小声だった。
「……あれは、
ズルい」
「答えがない」
「いや、
答えはある」
「でも、
言えない」
それが、
この問いの強さだった。
男は、
窓際に立っていた。
外の街は、
変わらず動いている。
切断は、
世界を救う。
それを、
彼も否定しない。
だが――
救われなかったものを、
誰が引き受けるのか。
それを、
制度は答えない。
その夜。
ユリウスは、
一人で資料を読み返していた。
すべて、
正しい。
だが、
今日の会議は、
終わらなかった。
理由は、
一つだけだ。
判断の外側が、
可視化された。
男は、
部屋に戻り、
灯りを落とした。
まだ、
答えは出していない。
だが、
世界はすでに、
困り始めている。
彼は、
小さく息を吐く。
これが、
戻った理由だ。
――壊すためではない。
引き受ける場所を、
もう一度、
世界に思い出させるために。
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