表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された俺のやり方、なぜか世界中で禁止され始める  作者: 黒羽レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/37

第28話 切られる者

 正式な処分は、まだ出ていなかった。


 だが、

 エリアス・ノートンは、

 すでに切られていた。


 机は、そのままだ。

 端末も、権限も、残っている。


 ただ――

 仕事が来なくなった。


 朝。


 共有ボードに、新規案件が並ぶ。

 担当者名が、次々と割り振られていく。


 エリアスの名前は、ない。


 それは、偶然のように見えた。

 一度なら。


 二度、三度と続くと、

 それは意図になる。


「……今回の件だが」


 会議室で、上司が言う。


「調整課第三班が担当する」


 第三班。

 かつて、

 エリアスの名前が置き換えられた場所。


 彼は、

 何も言わなかった。


 言えば、

 “制度を理解していない人間”になる。


 それが、

 今の世界で最も危険な立場だった。


 昼。


 エリアスは、

 端末に届いた内部通達を読んでいた。


《業務効率化のため、

 個別判断を要する案件の担当を再編する》


 文章は、

 丁寧で、

 中立で、

 冷たい。


 名前は、

 出ていない。


 だが、

 対象が誰かは、

 明白だった。


 クララ・フェルディナントは、

 その再編案に、

 目を通していた。


 問題点は、ない。

 むしろ、

 理想的だ。


 例外を生む人間を、

 制度の外へ出す。


 それは、

 排除ではない。


 最適化だ。


 彼女は、

 承認欄に、

 迷いなく印を付けた。


 その日の午後。


 エリアスは、

 非公式に呼び出された。


 場所は、

 会議室でも、

 上司室でもない。


 小さな、

 応接スペース。


「……ノートン君」


 人事担当者の声は、

 穏やかだった。


「君の能力は、

 高く評価されている」


 聞き慣れた前置き。


「だが、

 現在の制度運用とは、

 適合しない部分がある」


 適合。


 人間に使う言葉ではない。


「そこで、

 配置転換を提案したい」


「……どこへ」


「現場連絡室だ」


 エリアスは、

 一瞬、言葉を失った。


 現場連絡室。

 判断権のない部署。

 情報を流すだけの場所。


「それは、

 切断判断から、

 外れるということですか」


 人事担当者は、

 否定もしない。

 肯定もしない。


「君の経験は、

 活かされる」


 それだけだ。


 その夜。


 エリアスは、

 自席の引き出しを、

 静かに整理していた。


 紙の資料。

 古い議事録。

 現地で書いたメモ。


 どれも、

 もう使わない。


 使わせてもらえない。


 彼は、

 一枚の紙を取り出した。


 最初に、

 自分の名前を書いた説明文。


 署名は、

 すでに消されている。


 それでも、

 彼には分かる。


 ここに、

 自分がいた。


「……全部、

 引き受けたつもりだった」


 呟きは、

 部屋に溶けた。


 だが、

 世界は、

 彼に引き受けさせなかった。


 引き受けたことを、

 許さなかった。


 無名地帯では、

 その知らせは、

 遅れて届いた。


「……あの若いの、

 外されたらしい」


「制度に合わなかったんだろ」


 誰も、

 詳しくは知らない。


 知らなくていい。


 制度が、

 説明してくれるからだ。


 男は、

 焚き火のそばで、

 紙を広げた。


 名前が、

 一つ増えている。


 エリアス・ノートン。


 彼は、

 その名前を、

 消さなかった。


 消せなかった。


 ここでは、

 切られるのは、

 人ではなく、

 世界の側だからだ。


 翌朝。


 世界協定の内部掲示板に、

 新しい通知が出た。


《人員再編により、

 判断速度の向上が見込まれます》


 拍手は、

 静かだった。


 誰も、

 犠牲という言葉を、

 使わなかった。


 犠牲ではない。


 最適化だ。


 エリアス・ノートンは、

 そうして、

 誰にも切られたと気づかれないまま、

 切られた。


 制度が、

 最も得意とするやり方で。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ