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追放された俺のやり方、なぜか世界中で禁止され始める  作者: 黒羽レイ


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第20話 エリアス・ノートン

 エリアス・ノートンは、朝が嫌いだった。


 正確に言えば、朝の会議が嫌いだった。

 眠いからではない。

 始まる前から、結論が決まっているからだ。


「――以上の理由により、

 本件は切断判断が妥当と考えます」


 会議室の中央で、上司が淡々とまとめる。

 反対意見を求める視線は、形式的に一巡するだけだ。


 エリアスは、資料に目を落としたまま、手を挙げた。


「……異議があります」


 空気が、一瞬だけ止まる。


「ノートン君」


 上司の声には、苛立ちよりも疲労が滲んでいた。


「前提条件は確認したはずだ」


「はい」


 エリアスは、立ち上がった。


「ですが、この地域は――

 切断後も、医療従事者が残ると報告されています」


「自発的な行動だろう」


「ええ。

 だからこそです」


 彼は、資料をめくる。


「切断判断は理解します。

 ですが、切断後に何が起きるかについて、

 我々は何も書いていません」


 誰かが、小さく舌打ちした。


「……またその話か」


「また、です」


 エリアスは、視線を逸らさない。


「切ること自体ではなく、

 切った“後”を、

 誰も引き受けていない」


 沈黙。


 上司が、ゆっくりと息を吐いた。


「ノートン君。

 それは、我々の役割ではない」


「では、誰の役割ですか」


「……現地だ」


「現地に、

 判断権はありません」


 その言葉が、会議室に落ちた。


 結局、判断は変わらなかった。


 切断。

 予定通り。

 承認も、迅速だった。


 会議が終わった後、上司がエリアスを呼び止める。


「君は、有能だ」


 それは、本心だろう。


「だが、有能であることと、

 余計なことをすることは、違う」


「……余計でしょうか」


「余計だ」


 即答だった。


「世界は、

 すべてを引き受けられない」


「分かっています」


 エリアスは、静かに答えた。


「だから、

 引き受ける人間が必要なんです」


 上司は、何も言わなかった。


 その沈黙は、許可ではない。

 だが、拒否でもなかった。


 エリアスは、自席に戻ると、議事録を開いた。


 空白の説明欄。


 彼は、少しだけ迷い、

 そして、名前を入力した。


《説明責任者:エリアス・ノートン》


 続けて、短い文章を書く。


本判断により、

現地に残る医療従事者および住民は、

自己判断での対応を余儀なくされる。


その結果について、

本人は説明責任を引き受ける。


 送信。


 承認フローに回す。


 心臓が、少しだけ速く打った。


 数時間後。

 承認は下りた。


 修正指示も、削除もない。


「……通った?」


 隣席の同僚が、小声で言う。


「ええ」


「正気かよ……」


 エリアスは、苦笑した。


 正気かどうかは、分からない。

 だが、やらなければならないと感じた。


 その日の夕方。

 エリアスは、資料を抱えて建物を出た。


 世界協定の高い壁の外。

 空は、思ったより低い。


 彼は、ふと思い出す。


 ――以前、噂で聞いた話。


 肩書きを捨て、

 無名地帯に残った男。


 切られる側の声を聞いた人。


「……本当に、

 こんなやり方でよかったんですか」


 誰にともなく呟く。


 答えは返らない。


 だが、

 胸の奥に、奇妙な確信があった。


 誰かが、

 こうするしかなかった。


 それが正しいかどうかは、

 これから分かる。


 ただ一つ、確かなのは――


 エリアス・ノートンは、

 自分の名前を、

 切断判断の隣に置いた。


 それが何を意味するのかを、

 まだ、

 正確には知らないまま。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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