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追放された俺のやり方、なぜか世界中で禁止され始める  作者: 七瀬ミコト


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第14話 切られる準備

 それは、公式な通達ではなかった。

 だからこそ、質が悪い。


 世界協定事務局の内部回線。

 「検討用」「参考資料」「非拘束」。

 そんな言葉が並ぶ文書が、静かに回り始めていた。


《三十日プロジェクト終了後の体制整理案》

《議長国リュミエルの関与縮小について》


 名前は出ていない。

 だが、対象が誰か分からないほど、世界は鈍くない。


「……始まりましたね」


 ミハイルが、文書を読み終えて言った。

 声は低いが、震えてはいない。


「ええ」


 私は頷いた。


「切ると決めた人間は、

 まず“切ったことに見えない形”を作ります」


 机の上に置かれた資料には、丁寧な言葉が並んでいる。


 ――効率化。

 ――役割の再定義。

――過度な集中の是正。


 どれも、正しい。

 どれも、刃だ。


「……納得できません」


 ミハイルが、珍しく感情を滲ませた。


「あなたは、何も間違っていない」


「ええ」


 私は即答した。


「だから、切られるんです」


 彼は言葉を失った。


「世界は、

 “間違った人間”を切るのではありません」


 私は続ける。


「都合の悪い人間を切ります」


 都合が悪い。

 それは、危険だという意味ではない。


 説明が必要になるという意味だ。


 昼前。

 非公式の意見聴取。


 呼ばれたのは、私ではない。

 “関係者”だ。


 だが、私の立場は分かっている。

 だから、廊下で立ち止まる職員たちの視線が、微妙に変わる。


 ――哀れみ。

 ――警戒。

 ――そして、安堵。


 切る対象が決まると、

 周囲は楽になる。


 会議室の外で、ユリウスとすれ違った。


「……聞いた」


 彼は短く言った。


「ええ」


「止めないのか」


「止めません」


 私は答えた。


「止める理由が、ありませんから」


 彼は、少しだけ眉を寄せた。


「……世界は、君を失う」


「いいえ」


 私は首を振る。


「世界は、

 “自分たちが何を切ったか”を知るだけです」


 ユリウスは、しばらく黙っていた。


「……それでも、

 君が切られるのは、

 私の判断よりも、

 ずっと残酷だ」


「ありがとうございます」


 私は言った。


「その評価は、

 あなたが“切る側”である証拠です」


 彼は、何も言わずに去っていった。


 夕方。

 無名地帯から、定期報告が届く。


《本日、支援学校が再開》

《現地運営は、住民主体へ移行中》


 小さな成功。

 世界のニュースには、ならない。


 だが、私はその一文を、何度も読み返した。


「……首相」


 ミハイルが、そっと言う。


「ここは、

 あなたがいなくても、

 回り始めています」


「ええ」


 私は微笑んだ。


「それでいいんです」


 私がいなくても回る。

 それは、敗北ではない。


 成功の一形態だ。


 夜。

 官邸の屋上。


 冷たい風が吹き抜ける。

 遠くで、街の灯りが揺れている。


 私は、しばらく黙って立っていた。


 ここまで来た。

 十分すぎるほど。


 端末が震える。


 ナディアからの短いメッセージ。


《きょう、がっこう、はじまった》

《せんせいが、なまえ、よんでくれた》


 私は、ゆっくりと息を吐いた。


 それでいい。

 それだけで、いい。


 その夜遅く。

 世界協定事務局の内部決裁ラインに、

 一つの項目が追加された。


《リュミエル小邦の調整機能について》

《三十日満了をもって、

 暫定措置を終了する方向で調整》


 期限付き。

 予定通り。

 丁寧で、冷たい文章。


 机の上のカレンダーを見る。


 赤い円。


 ――残り十六日。


 私は、静かに呟いた。


「……準備は、整いましたね」


 切られる準備。

 世界の準備。

 そして――


 私自身の準備。


 立ち去る準備ではない。

 最後まで、立ち続ける準備だ。


 終わりが決まった場所ほど、

 人は、

 何を残すかを試される。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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