ホットケーキを添えて
とあるパティシエの休日。
「今日の昼はホットケーキにしよう」
そう呟き、男は白いエプロンに帽子を被ると電気ケトルのスイッチを入れてキッチンへ。
冷蔵庫から牛乳と卵、ホットケーキミックスを取り出し、フライパンを強火で温める。
卵をボールに入れて泡だて器で黄身をほぐしながらしっかり混ぜていく。
「昔よく卵白が混ざりきってないって怒られたっけ」
しっかりとサラサラになるまで腕のスナップを効かせていく。
泡だて器を引いてもドロつかないぐらいにサラサラにしてから牛乳を加えて軽く混ぜる。
「さてと本命をいきますか」
ホットケーキミックスをドサッと上からボールにかけて、のの文字を書くようにゆっくりと泡だて器を動かし、粘つきが消えない程度にさくっと混ぜ合わせた。
「ここからが難所」
強火で温めていたフライパンを弱火に変え、完成した生地を載せていく。
徐々に小さな穴ができて固まってきたところでひっくり返す。
「いい焼き加減だな」
毎回微妙に生地の広がり具合が違う。
パティシエの腕の見せどころだ。
「完成っと」
表面が茶色く、側面は白くてふわふわのホットケーキをお皿に載せる。
仕上げにバターを載せて、上から蜂蜜をダラ~っと大量にかけていく。
「我ながら上出来だな」
テーブルに運び、着席。
ナイフを生地に軽く当てると溶けたバターと蜂蜜がジュワリと中まで浸透していった。
そのまま一口サイズに切り、フォークを口に持っていく。そして、そっと舌の上に小さく切られたホットケーキを載せると、温かく柔らかいホットケーキにかけられたバターと蜂蜜の汁が生地と混ざり合い、グチュッと口内を駆け巡った。
「う~んっ!甘ぁ~い」
頬が落ちないように両手で押さえ、緩くなる目元口元。
「おっと、一番重要なものを忘れていた」
テーブルに置いてあるインスタントコーヒーをコップに入れて、電気ケトルからお湯を入れる。
軽くスプーンで混ぜてから、苦いブラックコーヒーを一口。
「ズルル……」
口内のねっとりとした空間に熱々の液体が流れ込んできた。
甘さに支配された味覚が中和され、追い出されていく。
その一瞬に感じる極上のうま味。
「はぁ~……」
余韻に浸るような大きなため息。
ホットケーキの甘い匂いとコーヒーの香りが混ざった至福の匂いが鼻腔を満たし、カフェインが体内を駆け巡る感覚に身をゆだねた。
「パティシエやめてコーヒー店でも開こうかな」
このパティシエ、ただのコーヒー好きであった。




