愛するお義兄様を幸せにするために婚活に挑んだ結果
「フローラ、あまり言いたくないが、そろそろ結婚相手を見つけたらどうだ?」
王宮主催の舞踏会。
その会場の端で、各所に挨拶を終え戻ってきた父にそう問われたフローラ・ブランシェは動揺していた。
今さっきまで王宮に勤めるシェフ御用達の食事を楽しんでいたが、それどころではなさそうだ。
(そ、そうよね。そろそろ結婚の話題になるわよね)
フローラは今年で二十歳になる侯爵令嬢だ。
国内にブランシェ侯爵家のほかに有数の名家があること、また父がそう急いで伴侶を決めなくていいからと考えであったことから、これまでフローラには結婚はおろか婚約者選定の話も出たことがなかった。
しかし、リヴェリア王国内の貴族令嬢の常識では二十歳は結婚適齢期……いや、生き遅れに片足を突っ込んでいる状態だ。父が結婚の話題を出すのも無理はない。
むしろ、提案ベースで聞いてくれるなんて、血の通った娘思いの優しい父だとフローラはしみじみ思っていた。
「え、えっとね、そろそろしなきゃいけないのは分かってるんだけど、まだあまり結婚のことは考えられなくて」
申し訳なさそうに返答をすれば、父はフローラと同じ亜麻色の頭を抱え、また同じ蜂蜜色の目を伏せた。悩ましいのか、目尻の小じわがいつになく色濃くなっている。
「そうか。フローラが乗り気じゃないなら仕方がないが……」
「うっ」
侯爵家当主の立場として娘の結婚を急かしてもおかしくないというのに、ぐっと気持ちを堪えて引こうする父に、フローラは胸が痛む。
貴族の娘が二十歳もなって、あまり考えられないから、なんて理由で結婚を先延ばしにするなんて由々しき事態だ。フローラだってそれくらい十分分かっていた。
(お父様にこれ以上気苦労をおかけするのは……でも)
フローラが頭を悩ませていると、令嬢たちの黄色い声が会場に響き渡る。
その中心にいる男はこちらに歩いてくると、フローラの髪の毛をさらりと撫でた。
「やあ、フローラ。今日の髪飾りも素敵だね。愛らしいフローラによく似合ってる」
「あ、ありがとう……お義兄様」
見惚れるほどの柔らかな笑みを浮かべて話しかけてきたのはフローラの義兄、セレスト・ブランシェだ。
歳はフローラの五つ上の二十五歳。
月光を溶かしたような銀の髪、紫水晶を彷彿とされる美しい瞳に、なんと国宝と言われるほどの美形の持ち主だ。
学生時代には常に成績はトップ、剣を持たせれば若手最有力の騎士を簡単に倒してしまうほどの実力者。
現在は王子の側近として働き、その手腕を余すことなく振るっている。
更に性格は真面目で優しい。
両親の再婚によって義妹になったフローラに対して気まずさを出すことはおろか、常に穏やかな態度で優しく接してくれた。
歪になってもおかしくないはずだった家族を結びつけてくれたのは、紛れもなくセレストだろう。
──眉目秀麗、文武両道、極めつけに性格まで最強。
フローラにとってセレストは完全無欠のお義兄様であり、生まれてこの方唯一恋をした相手だった。
「セレスト、私への挨拶はなしか」
「失礼いたしました。義父上。あまりにフローラが美しかったので、彼女以外の存在に目がいきませんでした」
「へ……!?」
血の繋がりはないとはいえ、セレストにとってフローラは目に入れても痛くないほど可愛い存在らしい。彼がこうして甘い言葉を吐くのはいつものことだ。
そこに恋愛感情がないとは分かっていても、セレストの言葉にフローラは一喜一憂してしまう。
「セレスト、冗談は程々にして早く用件を言いなさい。何か用があるんだろう?」
「酷いですね、義父上は。全く冗談じゃないんですが。それに義父上だけならともかく、フローラがいるんですから用事がなくとも話しかけますよ?」
「……セレスト」
父の額に青筋が浮かぶ。
穏やかで優しいセレストだが、父にだけは冗談を言って困らせている。
これはこれで仲の良い親子の形だろうと、フローラはあまりに気にしていなかった。
「義父上、そんなに睨まなくてもいいじゃないですか。安心してください。約束はしっかり守りますから」
「約束……?」
しかし、約束とは何だろう?
皆目見当が付かなかったフローラだったが、父が再度セレストに用件を言うよう促したので口を開くことはなかった。
「残念ながら俺は今から用があるため、フローラと踊れません。虫……もとい、不躾な男がフローラをダンスに誘えないよう、義父上に代わりを頼めればと。本当に残念なのですが」
「誰が代わりだ。むしろ婚約者のいないフローラのダンスの相手は父である私の務めだと思うが? あと何で二回も残念だと言った? いやちょっと待て、お前虫とか言わなかった?」
「あはは、つい気持ちが溢れてしまって」
呆れる父に対してニコリと笑みを浮かべたセレストは、次にフローラの手を優しく取ると、彼女の左手の薬指にそっと口付けた。
「お、お義兄様……!?」
「せっかくの舞踏会なのに淋しい思いをさせてごめんね、フローラ。もう少しだから」
「もう少し?」
また何のことやら……と思っていると、再び令嬢たちから黄色い声があがる。
先程よりも絶叫に近いのは、義妹相手とはいえセレストが恋人にするかのような行為をしたからだろう。
「……って、とりあえず手を離してください!」
「もう? 残念だな。ずっとこうしていたいのに」
「おい、私がいるんだからフローラは淋しくないだろうが。というかお前、父の目の前でしれっとフローラの薬指にキ……キ……キィィ!」
「義父上、あまり奇声を発していると評判を下げますよ。それでは失礼。フローラ、また後でね」
「う、うん。お仕事頑張ってね」
セレストがひらひらと手を振るだけで、また黄色い声が上がる。これだから国一番のモテ男は恐ろしい。
だが、フローラはあれだけセレストに特別扱いされているにもかかわらず、義兄に恋する令嬢たちに嫌がらせはおろか、嫌味の一つさえ言われたことはなかった。
(そりゃあ、そうよね。私たちはどうやったって結婚できない関係なんだし)
リヴェリア王国では、たとえ完全に血が繋がっていなくとも、戸籍上きょうだいになると結婚することができない決まりがある。
フローラに対し、周りの令嬢が攻撃的にならないのはこの決まりによるところが大きい。
(いや、そもそも義兄妹じゃなくても、お義兄様が私なんかに特別な感情を抱くなんてあるわけないんだけど)
セレストと違ってフローラは何をやらせても平凡中の平凡。強いて長所をあげるなら、決断力と行動力がややあるくらいだ。
(自分の気持ちに踏ん切りをつけて、これからのことちゃんと考えないと)
セレストをこのまま思っていても、幸せな未来は絶対に訪れない。
自分の気持ちをスッキリさせるために気持ちを伝えたって、困らせるだけなのは明白だ。
セレストと気まずい関係にでもなって、家庭内が気まずくなったりしたら、それこそ父と義母に合わせる顔がない。
(それに、お義兄様にはあの方がいらっしゃるんだもの──……)
会話に花を咲かせる紳士淑女のその先。
セレストの隣で、一際高貴な気配を纏った王女──ロザリアをフローラは切なげに見つめた。
(やっぱり、今日も一緒にいるのね)
セレストは王子の側近として王宮に勤めていることもあって、王族と関わることも多く、中でも王子の次に関わるのが王女ロザリアだという。
王宮内では、セレストとロザリアがよく話している姿を見かけると聞いたことがある。
最近では舞踏会などの社交でもその姿は頻繁に見られ、一部では二人は近々婚約するのではないかと囁かれているらしい。
セレストは自分の人気をよく理解しているおり、これまでは余計な期待をさせないようにと令嬢たちとの接触を控えることが多かった。
そんな彼がロザリアの側にいる。
きっと婚約をするのではという噂も耳に届いているはずなのに、セレストがロザリアと距離を置く様子もない。
そのことから、ある程度想像はつく。
(二人が互いに愛し合っているのかは分からない。けれど少なくとも、きっとお義兄様にとって王女殿下は愛おしい存在なんだわ……)
美人で才女と噂のロザリアと、セレストは正直お似合いだ。
容姿もなにもかも全て釣り合っているし、他人同士の二人には結婚を妨げるものは何もない。
(……やっぱりもう潮時よね。お義兄様への想いは今、捨てよう)
そう決意しても、胸の痛みがすぐに癒えるわけじゃない。
じくじくと心を蝕むように痛んで、どれだけ自分がセレストのことを愛しているのかを痛感させられる。
けれど、同時にセレストには愛する人と幸せになってほしいとも思う。
(でも、私がこのまま独り身だったら、きっとお義兄様は心配するわよね……)
セレストは誰よりもフローラに優しい。それはもう甘やかして、大切にしてくれている。
そんな義兄のことだ。もしかしたら、フローラを置いて自分だけが幸せになるなんてと、ロザリアへの思いを躊躇するかもしれない。
(そんなこと、絶対にさせないわ……! そうだ! お義兄様が引け目を感じず幸せになれるように、私が早く婚約者を見つければいいのよ!)
フローラはそう内心で意気込むと、父に交友関係を広げてくると伝えてから、足早に歩き出した。
「フローラ嬢は笑顔がとても素敵ですね」
「え、あ、ありがとうございます!」
婚活を始めて三十分、人当たりの良さそうな伯爵令息トーマスの気の利いた会話に、フローラは安堵していた。
(この方、とてもいい人かも!)
同い年のため話しやすく、自然と相手を立てる会話もできる。見た目も爽やかで、家格も釣り合っている。
更にトーマスは現在両親に結婚をせっつかれているらしく、これまたフローラには都合が良かった。
(あ、笑った顔が少しお義兄様と似てる。声はお義兄様より高めね。身長はお義兄様の方が高いかしら……って、ダメダメ! 私ったら何を考えてるの!)
セレストの幸せのために婚約者を見つけようと決意したのに、その相手になるかもしれない人をセレストと重ねたり、比べたりするなんて失礼にも程がある。
(お義兄様のことは早く忘れなきゃ……。トーマス様のことで頭をいっぱいにしないと。そうよ、早くトーマス様のことを、好きにならなきゃ──)
トーマスの手が、フローラの肩にそっと伸びる。
肩を抱かれたフローラは突然のことに驚き、一瞬ビクリと体が跳ねたものの、彼を好きにならなければとできる限りの笑顔を見せた。
「あの、トーマス様?」
「フローラ嬢、僕はもっと貴方のことが知りたい。良ければ今から二人でここを抜けませんか?」
「えっ、ちょ、あの……!」
肩を抱かれた手に、グイッと力が込められる。
トーマスの顔を見れば、先程までの人当たりの良さそうな顔から一転して、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべていた。
「待って!」
「声をかけてきたのはそっちじゃないか。僕と楽しみたかったんだろう?」
セレスト一筋で、ろくに異性との交流を持ってこなかったフローラでも分かる。
このままトーマスについて行ったら、まずいと。
「嫌っ」
しかし、同時にこうも思ってしまうのだ。
これは、愛する人への思いを忘れるために、他人を利用しようとした自分への罰なのだと。
「お義兄様……セレストお義兄様……っ」
「何してるの?」
フローラが震える声で愛する人の名を呼んだ瞬間、背後から聞き慣れた声が耳に届いた。
「おに、い、さま……?」
振り向けば、そこには見たことのな冷ややかな笑みを浮かべたセレストの姿があった。
「ブ、ブランシェ侯爵令息! こ、これは、その!」
「……言い訳は結構。さっさとフローラから手を離してもらおうか」
「ひゃ、ひゃいっ」
まるで蛇に睨まれた蛙のような形相で、トーマスは勢いよくフローラの肩から手を離す。
(助かった。お義兄様が、助けてくれた)
安堵で胸がいっぱいのはずなのに、これまで目にしたことのない恐ろしいほどのセレストの冷笑に、フローラは体が自由に動かず、その場に立ち尽くす。
セレストを敵に回したくないトーマスが必死に言い訳をしている声よりも、セレストの息遣いのほうが聞こえるほど、フローラの神経は彼を集中していた。
「お義兄様、あの、私」
「おいで、フローラ」
言い訳をするトーマスを無視したセレストは、フローラの手を半ば無理やり引いてその場をあとにする。
安堵、驚き、そして恐怖。
様々な感情が胸を渦巻きながらも、フローラは付いていくしかできなかった。
◇◇◇
「……で、どういうこと? 何であんな男に連れて行かれそうになってたの?」
セレストに連れてこられたのは、舞踏会会場の脇に設けられた控室だった。
強制的にソファに座らされたフローラの目の前で、こちらを見下ろすようにして立っているセレストの表情にいつもの穏やかさは欠片も感じられない。
「それは、その……」
理由が理由のため、フローラは言い淀む。
そんなフローラの態度が気に食わなかったのか、こめかみをピクリと震わせたセレストは、先程よりも怒りを滲ませた声でもう一度問いかけた。
「ねぇ、フローラ。前から口酸っぱく言ってたよね? 舞踏会で俺や父上が側にいない時は、男に近付いちゃダメだって。もし男から近付いてきたら、その時点でなりふり構わず逃げるようにって。フローラが思ってるより、ろくでもない男は多いんだよ?」
「……ごめん、なさい」
あのままセレストが助けてくれなかったら、おそらくフローラは深く傷つくことになっていただろう。
「ごめんね、きつく言い過ぎたね」
「そんなことないわ。私がいけなかったの」
「フローラ……」
セレストの手が頭に向かって伸びてくると同時に、フローラはこう言葉を続けた。
「婚約者が欲しいばかりに、よく知りもしない人に声をかけたから」
「──は?」
それはまるで、地を這うような低い声だった。
いつも向けられていたものとはまるで違う、到底セレストのものとは思えないような──。
「お、お義兄様?」
婚約者が欲しいとだけ伝えたのは、セレストに恋していることを言うわけにはいかなかったから。
彼の幸せのために婚約者を探していると話すわけにもいかなかったから。
でも、ほんの少しでもセレストを安心させてあげたかった。
貴方の義妹は婚約者を迎える気になったから何も心配はいらないよと、引け目なんて感じなくていいから幸せになって良いんだよと、そう伝えたかっただけだというのに。
「婚約者がほしいって、何?」
どうして目の前の彼は──。
「つまり、俺以外の男を好きになって、そいつと添い遂げるってこと?」
この世の終わりを迎えたような絶望に沈んだ目をしているのだろう。
「そんなの、許せるはずない。フローラが俺以外の男のものになるなんて、それだけは絶対に許せない」
「きゃあっ」
セレストに両肩をぐいと押されたフローラは、仰向けでソファに体を沈めた。
その上にはセレストが馬乗りになり、まるで押し倒されたかのような体勢になる。もちろん驚きが先に来たが、フローラは羞恥で頬に熱が帯びた。
「お義兄様何を……!」
逃げなければと思い、セレストの胸あたりを両手で押すがびくともしない。
セレストはそんなフローラの手を鬱陶しいと言わんばかりに掴むと、片手で彼女の頭の上にまとめ上げた。
「弱いね、フローラ。ほんと可愛い」
「っ、どうしてこんなこと……っ、離して!」
「離すわけないだろう? これまで俺が、どれたけ我慢してきたと思う? ずっとずっと、大切にしてきたんだ。他の男の目に入らないように、万が一にも奪われないように。それなのに今更──絶対、絶対に離さないよ」
いつも温かく見つめてくるその瞳に、光を感じられない。こんなにも近くにいるのに、セレストの気持ちが分からない。
フローラの鼻先はツンと熱くなり、視界がじわりと滲んだ。
「お義兄様、酷いよ……どうしてこんなことするの」
きっと義兄妹じゃなければ、この行為に困惑はあれど、期待も持てただろう。
けれど、セレストとフローラは絶対に結ばれてはいけない関係だ。思いを口にすることさえ憚られる関係だ。セレストがそれを理解していないはずはない。
(それに、お義兄様にはロザリア王女殿下がいるじゃない)
お願いだから、心を弄ばないで。これ以上憐れな気持ちにさせないで。
もしかしたら、私のことが好きなのかもしれないなんて、期待させないで。
「フローラ……」
それなのに、愛する貴方が優しく涙を拭うから、決意も覚悟も、いとも簡単に崩れ去っていく。
「私のこと好きじゃないのに、優しくしないで……。もう、辛いの……」
貴方の幸せを願う綺麗な自分でいたかったのに、きっと勘の良いセレストにはフローラの想いなど全て気付かれてしまっただろう。
セレストの顔が見られなくて目を閉じれば、拭いきれなかった涙がツゥ……と溢れる。
優しい義兄のことだから、きっと気付かないフリをするか、謝罪をするかのどちらかに違いない。
どちらにせよ向き合わなければとフローラが目を開くと、そこには目に光を宿し、ほんのりと頬を赤く染めて微笑むセレストの姿があった。
「フローラ、勘違いじゃなければ、俺のこと好きってことだよね?」
「えっ」
何だろう、この恍惚とした顔は。何故、こんなに嬉しそうなんだろう?
フローラが口をぽかんと開けていると、セレストは彼女の目の端にそっと口付けた。
「ひゃっ、何をっ」
「ああ、急にごめんね。フローラと両思いだと分かったら嬉しくて、つい」
「ついって……って、両思い!?」
今のは聞き間違いだろうか。
信じられずに目を見開くフローラに、セレストは再び愛の言葉を囁いた。
「うん。愛してるよ、フローラ」
「う、嘘……だってお義兄様にはロザリア王女殿下が……だから私、お義兄様が遠慮せずに幸せになれるように、婚約者を見つけようと……」
「誤解させてごめんね、フローラ。でも、王女殿下とは大事な話があったから頻繁に会ったりして接触を図ってただけで、俺は彼女のこと好きでもなんでもないよ。当然、あちらも俺のことなんて毛ほどにも思ってない」
「そ、そんなに?」
セレストは頷くと、フローラの拘束していた手を解く。
それからフローラの腰に手を回して再びソファに座らせると、セレストも隣に腰を下ろした。
「信じられないって顔してるね?」
「だ、だって……お義兄様がロザリア王女殿下に特別な感情を抱いていないのが本当だとしても、王女殿下もそう思ってる保証はないじゃない」
「はは、そこは大丈夫。あの人、好きな人いるし」
「えっ」
だから、その相手が貴方なのでは?
フローラの表情を見て考えていることが分かったのか、セレストは彼女の耳元にそっと顔を近付けて囁いた。
「因みにその相手は、俺が仕えてるアルベルト王子殿下だよ」
「えっ!?」
「王女殿下本人がそう言ったから間違いない。まあ、王子殿下のそばにいる人間なら、あの熱烈な視線や態度を見ればすぐに分かると思うけどね」
淑女の鑑と言われるロザリアだが、好きな人の前ではそんなに分かりやすいのか。
失礼ながら、その姿を想像すると少し気持ちが温かくなった。
「でも驚いたわ……。ロザリア王女殿下がアルベルト王子殿下をお慕いしてるなんて。でも、あの二人って──」
「そう、俺たちと一緒。義理のきょうだい」
アルベルトと言えば、現王妃の連れ子であることは有名な話だ。
対してロザリアは国王と前王妃の間に生まれた子。
つまり、アルベルトとロザリアには血縁関係はなく、戸籍上の義姉弟ということになる。
「つまり、今の国の決まりじゃあ、どうやったってロザリア王女殿下はアルベルト王子殿下と結婚することはできない。もちろん、俺たちもね」
「そう、だね」
あたかも決まりがなければ結婚すると言わんばかりのセレストの発言にドギマギしつつも、フローラは耳を傾けた。
「だからさ、同じ悩みを持つ者同士、俺とロザリア王女殿下は手を組んだんだ。完全に血の繋がらない義理のきょうだい間で結婚できないっていう決まりをぶっ壊そうよ、って」
「えっ!?」
「因みに、さっきやっと陛下から許可がおりたよ。さすがの俺でも一人じゃ陛下を説得するのに時間がかかったから、やっぱり王女殿下を利用……協力してもらって正解だったな」
今この場に父がいたら、「利用って言わなかった?」とツッコむのだろう。
しかし、フローラにはそんな余裕はあるはずなかった。
「じゃあ、お義兄様はロザリア王女殿下じゃなくて私のことが好きで……私たちは結婚できるってこと?」
「そうだよ。陛下を従わ……説得できてから、フローラには気持ちを伝えようと思ってたんだけど、そのせいで不安にさせてごめんね」
また従わ……なんて聞こえたけれど、叶わないと信じて疑わなかったセレストへの想いが成就すると分かった今、フローラにはそんなことはもうどうでも良かった。
「ううん、良いの!」
たまらずフローラはセレストに力強く抱き着いた。
当然だと言うように背中に回される腕に、愛する人の温もりに多幸感で胸がいっぱいになる。
「お義兄様、勝手に勘違いして迷惑をかけてごめんなさい。それと、私のために国の決まりまで変えてくれてありがとう!」
「フローラ……いいんだ。夫として一生フローラの隣にいられるようにと思えば、全く苦じゃなかったから」
「もう、お義兄様ったら」
ふふ、と笑えば、セレストも続けて笑う。
さっきまでの曇天のような心だったのに、今では雲一つない晴天のようだ。
「あっ、でも、一つ問題があるわ、お義兄様!」
「ああ、母上と義父上のこと?」
「そう! たとえ結婚自体が可能になっても、二人は許してくださるかしら……」
想像することしかできないが、きっと胸中穏やかじゃないはずだ。
特に父に関しては、そろそろ婚約者を見つけた方がと提案してきた程だ。義兄であるセレストと結婚するなんて言ったら、あまりの驚きに倒れてしまうかもしれない。
「その点は大丈夫だよ。母上も義父上も、国の決まりさえクリアすれば自由にすればいいって約束してくれてる」
「本当に?」
「ああ。まあ、義父上を説得するのは少し大変だったけどね。フローラを自分のものにするために国の決まりでさえ壊そうとするような俺に大事な娘を預けて大丈夫なのかとか、たとえ決まりがなくなったととしても、義きょうだいでの結婚への世間の反感はないのかとか、フローラは本当に幸せになれるのかとか……色々心配だったんじゃないかな」
「お父様……」
だからこそ、父はそろそろ婚約者を見つけた方が良いのでは提案したのだろう。フローラを心配してやまない、深い深い親心だったに違いない。
けれど、父は強制しなかった。
どこまでいっても優しい父は、フローラに選択肢を託してくれたのだ。
「それじゃあ、早くお家に帰って、お父様に言ってあげなきゃね」
「?」
「もし世間の反感があったとしても、どんな手を使っても私の側にいてくれるお義兄様と、深い愛で守ろうとしてくれるお父様と、優しく見守ってくれてるお義母様がいるから大丈夫だって!」
「……ふふ、そうだね」
二人は立ち上がると、控室を出て馬車へと向かう。
「でもフローラ、そろそろお義兄様じゃなくて、名前で呼んでほしいんだけどな?」
「〜〜っ、それは緊張するから追々ね!」
──セレストに対して「お前本当にやったのか!」とドン引きしながらも、幸せそうに笑うフローラを見て父が涙を流すまで、あともう少し。
読了ありがとうございました(*´ω`*)
◆お願い◆
面白かった! お父様好き! お義兄様やるね! 王女と王子はどうなったの!? という方がいらっしゃいましたら、読了のしるしに↓の☆☆☆☆☆→★★★★★をポチッと押して評価してくださると、嬉しいです。
フローラとセレストの結婚報告の際のお父様本当に見たい……お父様が愛おしすぎてかなり出しゃばりましたが後悔はありません( ー`дー´)キリッ
いつも評価やブクマありがとうございます!皆様の応援で作者にパワーを注入してください(๑˙❥˙๑)




