夢を見ているのは
『ごちそうさまでした』
「はい、お粗末さま」
いやぁ~、本当に美味しかった。
この世界の全ての蜘蛛が美味しいわけではないと思うけど、蜘蛛に対するイメージがちょっと変わっちゃったな。
「お代は2人合わせて銅貨6枚だよ」
「ということは…1人銅貨3枚!?そんなに安くていいんですか?」
「うちの料理は一律銅貨3枚にしてるんだ、あまり金儲けには興味がなくてね」
「だとしても安すぎるんじゃ…」
「客が店の儲けを心配するんじゃないよ、そもそも料理が本業じゃないんだ」
料理が本業じゃない?
こんなに美味しい料理を出してるのに…じゃあ一体本業は何を?
「あたしゃね、変わったポーションの取引を本業にしてるんだ。さっきの蜘蛛はポーションの素材になる部分を採った後の残骸でね、いつも処理に困ってるのさ。食える残骸も多いから、ならいっそ食事として提供してしまおうと思ったんだよ」
へ~、余すことなく使えるならその方がいいよね。
あんなに美味しいものを捨てるなんて勿体ないし、他のものも食べてみたいな。
「えーと、銅貨3枚です」
「わ、わたしも…これで…」
「まいど、あんたたちは冒険者かい?」
「はい、と言っても今日冒険者になったばかりですけど」
「わたしも…まだ新米です」
「そうかい、今日会ったのも何かの縁だしいつか個人的に依頼をするとしようかね。」
「個人的に?ギルドの依頼と何が違うんですか?」
「ざっくり言えば安全性の違いかね、依頼は基本自己責任とは言えギルドの依頼はギルド側でどういった内容か、どのくらい危険なのか、依頼内容に対して報酬が釣り合っているか…色々情報を精査した上で冒険者に斡旋している分嘘偽りのないものなんだ。だが、個人的な依頼はギルドの介入がないからね、怪しい依頼が多いのさ」
聞く限り個人的な依頼はあまり良いことではない気がする…
よく言えばハイリスク・ハイリターンかな?
「まぁ、受けるかどうかはあんたたちの判断に委ねるよ。ご覧の通りこの店もあたし自身も怪しいからね、キヒヒヒ…」
怪しい自覚はあるんだ…
「グドウさん、そろそろいきましょう。夜になる前に行かないと部屋が埋まっちゃいます」
「そうですね。では僕たちはこれで、ご飯美味しかったです」
「そいつはなにより…っとそうだ、ここは夕方までは飯を提供して夜からは怪しいポーションの店になる。クエストに行き詰まった時は思い出しとくれ、もしかしたら何かの役に立つかもしれない」
「はい、そのときはぜひ」
ーーーーー
「いや~、蜘蛛があんなに美味しいなんて知りませんでしたよ」
「久しぶりに食べましたけど、前の食べた蜘蛛より美味しかったです」
…タンドップさんは普段どんな食生活をしてるんだろうか?
気になるけど聞きづらい…
「グドウさん」
聞くべきか聞かざるべきか悩んでいるとタンドップさんに話しかけられる。
真面目な表情をしてる、大事な話かな。
「何ですか?」
「グドウさんは何で冒険者になったんですか?」
どんな内容か身構えてたけど思ったより普通の内容だった。
申し訳ないけど大それた理由じゃないんだよね…
「僕がアンダラーだからっていうのもありますけど、ただ冒険がしてみたかったからですね」
「シンプルな理由だったんですね」
「がっかりさせちゃいましたか?」
「そんなことは…グドウさん、もう一つ聞いてもいいですか?」
「いいですよ」
「グドウさんはどうしても叶えたい夢はありますか?」
「夢ですか?」
夢…夢か、子供の頃に漠然としたものなら思い描いてたけどこの歳になってからはあんまり考えたことないな。
「今のところは特に、タンドップさんはどうですか?」
「夢はあります…とても叶えられそうにない夢ですけど」
「いいじゃないですか、夢を持たない僕からしたら夢を持つ人は羨ましいです」
夢を持って叶えるために切磋琢磨する人はとても眩しいし、それだけ夢中になれることがあるのは素晴らしいことだと思う。
「…わたしの夢は周りから荒唐無稽だと言われます。何度も諦めろと言われて…」
「…」
「わたし自身も叶えられないと思うことがあって、でも諦めたくないわたしもいて…どうしたらいいんでしょうか…」
なんて声をかければいいんだろうか…
諦めなければ夢は叶う…これはたぶんタンドップさんの求める言葉じゃない、少なくとも夢を持たない僕が言える言葉ではない。
答えになるかは分からないけど、思ったことを伝えよう。
「ごめんなさい、突然変なことを言って…忘れて「自分が見た夢だったら」…え?」
「…自分が見た夢ですから自分で覚めたらいいと思います」
「どういうことですか?」
「タンドップさんの夢が何かはわからないですけど…あなたが抱く夢はあなただけのもの、その夢を見続けるのも覚めるのもあなたの自由です」
他人からの意見も大事かもしれないけど夢を持っているのは他の誰でもない自分自身なんだ、他人は選択肢を与えるだけで選択するのは…
「もちろん人道を外れている夢なら僕だって止めますけど…」
「そ、そんなことはないですよ!?」
だろうね、出会って初日だけどタンドップさんがそんな人だとは思えない。
とにかく僕から言えることは1つだけ。
「頑張ってくださいタンドップさん、僕には応援するくらいしかできませんけど…」
「…ありがとうございます、夢を応援されるってこんなに嬉しいんですね」
最初のオドオドしていた彼女はいつの間にやら笑顔のかわいいあどけない少女になっていた。
ーーーーー
「あの坊主…妙な魔力の残滓を身に纏わせてたねぇ」
ちんちくりんな嬢ちゃんに連れられてきた黒髪の坊主
うちで提供してるゲテモノを美味そうに食ってたってだけでも印象に残るってのに、感じたことのない魔力の一端を漂わせてたら人の顔を覚えるのが苦手なあたしも顔も覚えちまうってもんだ。
「禍々しいような神々しいようなよくわからない魔力…何かの前兆だったりするのかい?」
何事もなければいいがねぇ…




