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異世界の食事

「初めての依頼は疲れましたね」

「…疲れたのは最後に走ったからでは?」

「ゔっ…ご、ごめんなさい…」

依頼の報告を無事に終え、タンドップさん先導の元、宿泊予定の宿『スターリム』へと向かっている。

確かご飯は自分で何とかしなきゃいけないんだよね、この世界のご飯は幾らくらいなんだろうか?


「タンドップさん、この辺りでご飯を食べようとするとどのくらいお金がかかりますか?」

「安い屋台なら銅貨3枚くらいですけど味があまり…、かと言って普通にお店で食べると最低でも銀貨1枚はしますよ」

結構高い…自炊すれば安く済ませられるかもだけど、今日はもう疲れたしなぁ…

ご飯のことで頭を悩ませているとどこからか香ばしくて食欲を掻き立てられる良い匂いが漂ってきた。

いつの間にやら中央に噴水がある広場へとやってきていたようで、周りを見渡してみるとお祭りのように色々な屋台が並んでいて、同じ冒険者らしき人たちが各々好きな食べ物を買っている。


「屋台がたくさん…お祭り?」

「この広場ではいつもの光景ですよ、…美味しいとは聞くんですけど、他の屋台と比べて高いのが多いんです…」

屋台からの匂いを嗅いでお腹が空いてくる。

自炊は…また今度にしよう。


「ご飯は屋台で済ませようかな、タンドップさんはどうしますか?」

「わたしも屋台で…前から気になってたものがあるんです。…よかったらグドウさんも一緒のものを食べませんか?」

「ぜひ!どんな食べ物なんですか?」

「こっちです」

軽食系…ガッツリ系…スイーツ系…どれだろう?

タンドップさんの体格的にガッツリではなさそうだけど、意外と大食いなのかもしれない。

先を歩いていくタンドップさん、心なしかウキウキしているように感じる。

前から気になってたって言ってたし、相当食べたかったんだなぁ。


ーーーーー


「あの…タンドップさん?道合ってますか?」

広場から出て、何度か建物と建物の間を抜け、人気のない路地裏へと来てしまった。

とてもじゃないけど食べ物を売っている屋台がある場所ではない、何か怪しい物を販売している屋台ならありそうだ。


「もう少しです」

一切の迷いもなく進んでいくタンドップさん。

疑うことははあんまりしたくないんだけど、場所が場所だからなぁ…悪いけどさっきの広場に戻って…


「着きましたよ、あれが気になってた屋台です」

「こんな場所に屋台なんて…本当にあった…」

タンドップさんが指差した先、少し広くなった路地裏にポツンと佇む屋台があった。

広場の屋台とそんなに変わらない形の屋台だけど…


「すっごい黒いですね…」

「はい、黒いです」

垂れ幕や置いてあるテーブルのクロス、屋台そのものが黒い、路地裏の薄暗さもあってすごく怪しい…あそこまで黒いと薄暗さがなくても怪しいか。

何を売っているんだ?そもそも食べ物を扱ってる屋台なのかな?


「あの…今日のおすすめを…ください…」

「ちょ…タンドップさん!?」

あの怪しさしかない屋台へ躊躇いなく!?

引っ込み思案な喋り方とは裏腹に行動は大胆だ!?


「いらっしゃ~い、今日おすすめだね」

黒いローブに魔女が被るような黒い帽子、白髪のお年を召したお婆さんが出てきた。

怪しい…屋台も店主も何もかも怪しい…

トカゲの干物とかが出てきても可笑しくないんじゃないかな…


「そこの坊主はどうするんだい?」

「うぇっ!?え…えっと、じゃあ同じものを…」

急に話しかけられたからつい反射的に同じものを注文してしまった、もう逃げられない…


「キヒヒヒ…坊主もおすすめだね、ちょっと待ってな」

はたして鬼がでるか蛇が出るか…


ーーーーー


「お待ちどうさん、た~んと食べとくれ」

数分後、僕たちの前に出されたのは鬼でも蛇でもなく…


「…蜘蛛の丸焼き?」

大人の顔くらいある蜘蛛らしき生き物の丸焼きが出てきた、まぁ…魔女みたいなお婆さんが店主だからあまり驚かないけど、これを食べるの?

女性のタンドップさんはキツいんじゃ…


「タ、タンドップさん、無理はしなくても…」

「(もしゃもしゃ)…ふぇ?」

「…いえ、何でもないです」

普通に食べてた、両手に持って小さい口で丸齧りしていた。

ゲテモノ好きなのかな…それともこの世界じゃポピュラーな食べ物なの?


「珍しいねぇ、こんな気味の悪いもんを躊躇いなく食べる子は」

やっぱりゲテモノじゃないか!?


「坊主も冷めないうちに食いな」

「は、はい…」

改めて出された料理を見てみる。

蜘蛛らしく8本の足を持ち、焼いた影響なのか少し黒ずんでいて分かりずらいけど体色は紺色、身体に斑点がある、毒を持っていたんだろう。

こうやって提供されている以上食べても問題はないと思う…タンドップさんが食べてるし。

食べるのに抵抗があるけど…食べ物を粗末にするわけにはいかない!


「いただきます!」

意を決して口に運び咀嚼する。

外側のカリカリした食感、中身はジューシー…


「美味しい…エビみたいな味がする」

「坊主もいける口かい、最近の若い子は案外こういうのが好きなのかねぇ」

お腹が空いてたのもあるけれど食べる手が止まらない。

結局、最初にあった抵抗はいつの間にかなくなりものの数分で完食してしまった。


異世界の蜘蛛って美味しいんだなぁ…

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