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5章 火と波紋

次の日、先生と僕と護衛のセイヤさんそれと村でハンターをしているレコルとスク、ディミの六名で獣の住処に向かっていた。

「見つけたのはディミって言ってたけど、まさか来るとは思ってなかったよ」

「私も思ってなかったんだけどね〜、あそこちょっと入り組んでいるから近くまでいかないと迷うんだよね〜」

「ハンターの二人でも?」

 ハンターの二人は森の歩きに長けていて、森の中ならどこでも行けそうでもある。

「大雑把なら二人でも任せれるんだけど、急いでだとなると案内した方が早いんだって〜」

 ディミが苦笑いを浮かべる。

「それとヴィンセントさんに聞いたんだけど、そこに生えている薬草は少し魔力があるらしいから〜、それで住み着いたんじゃないかって〜」

 先生が魔物のことを教えてくれた時に、魔物は魔力を持っている植物に近寄っていく傾向があるらしいと、言っていたことを思い出した。

「あ、そろそろだ」

 ディミが前にいる人たちに合図をする。前にいる四人は頷き陣形を組み直して、進んでいく。ここから僕はディミの護衛として、一緒に村に引き戻す手筈になっていた。

 四人はあっという間に森の中に消えていった。

「ここからまだ距離あるけど大丈夫なのかな〜?」

「先生は探知の魔法も使えるからね、ある程度の魔物だったら近くにいると分かるんだって」

「そうなんだ」

「それにレコルさん達がいるから大丈夫だろ」

「それもそうだね〜」

 ガサガサ

 横から何か動く音が聞こえた。僕はディミを制して剣を構えた。ゆっくりと静かに重い音が近づいてくる。

 ガサガサ、グルル

「まさかグルッセルていう魔物?」

 ディミの声が少し緊張する。

「まさか、違うだろ」

 でてきたのは熊だった。それも以前僕を襲った個体より一回りでかい。

「ディミ、僕が食い止めるからその隙に逃げろ」

 熊は獲物を見つけたようにこちらを見る。

「でも」

 僕はディミの言葉をせき止めた。

「先生の所で教わっているのは、魔法だけじゃないんだよ」

 熊は警戒してジリジリと歩いてくる。ディミも森の中によく来るので、熊と出会ったときは心がけているようだった。ただこの獣は以上に目が赤々としている。

「逃げる様子もないな。これが従えられたってことか」 

 ディミはゆっくりと下がる。僕はディミが離れたことを確認して熊に走りだした。

 ガオー、熊は一声鳴いただけで肌がビリビリした。僕は熊の腕に切りつけた。

「浅いか」

 もう一撃、今度は足に切りつけようとしたが、僕の体はいつの間にか宙に浮いていた。

 パキン。剣が折れる音がした。僕の体が地面につくまで数秒だった。

「ガハ」

「オル!」

 ディミの声が聞こえた。僕の考えが甘かった。なんとかなると思っていた。熊のターゲットはすでにディミになっている。僕はなんとか立ち上がることができたが、剣も折れてしまった。熊は獲物を追い込むようにディミに近寄っていく。ディミは足がすくんで動けない様子だ。

「おい熊、こっち向け!」

 熊は僕の声を聞こうともしない。熊の一撃で僕の体はボロボロだった。剣の柄を持つのがやっとだ。僕はなんとか立ったが、何もすることができない。

「ディミ、逃げてくれ」

 熊がゆっくりとディミに近づいていく、とうとうディミが座り込んでしまった。熊は獲物を殺せるのが嬉しいのか笑っているように見えた。

 僕の血が折れた剣から流れ落ちる。体が熱い。まるで血が炎のようだ。僕は魔法があれからつかえない。この血が炎ならまだ戦えるのに。悔しい。僕はディミを救えないのか。いつも僕が落ち込んでいる時、傍にいてくれるディミを助けることができないのか。いや違う。僕はあの子を助ける。僕には折れた剣がまだある。

「火は己の一部、火は己と共にあり」

 うまくイメージができない。どうすればいい?川で励ましてくれたのに、僕は助けることができないのか。ディミがあの時、川に投げた小石が頭をよぎった。

 小石は僕がいつも出す火くらいの大きさだった。落ちた小石は波紋を産んだ。その波紋はみるみる大きくなっていく。まるで自然の炎のように広がって消えた。僕の頭の中で小石と火が重なっていく。

「火は己の一部、火は自ら生まれ、そして広がっていく」

 先生とは違う言葉が、自然とでてくる。自分が産んだ火は波紋を生み広がっていく。

「火は折れた刃と混じり、剣は再び姿を取り戻す」

 火は折れた剣を少しずつ包み刃を作っていく。まるで自分の一部かのようにイメージする。

「己とは何か、己の体はどこにある」

 熊はなにかに気づき、僕を見て襲いかかってきた。

「うおー」

 僕は必死で剣を振り下ろした。熊の体は真っ二つに別れ燃え始めた。

「オル、オル大丈夫」

 ディミが近寄って来るのが分かった。良かった。

「無事で」

 そこで、僕の視界は暗くなった。

 次に目が覚めた時はディミの膝の上だった。

「何、泣いてんだよ」

 ディミの頬から涙がこぼれる。

「だって、心配したんだからね」

「ごめん」

 ディミが涙を拭いた。

「魔法使えたね」

 僕は右手を頭の上にのせる。

「使えていたのか?」

「覚えてないの?」

「必死だっだからね」

「使えていたよ」

「そっか」

 それから僕達は先生と合流して報告をした。先生の方も何体か熊がいたらしいが、問題なく倒すことができたとのことだった。

 それから数日後、体が動くようになって僕は一日先生の傍にいた。先生の授業を改めてみると、先生は一人ひとりと会話して、笑ったり共感したりして教えていた。僕はみんなに伝えようと、みんなに伝わるように話して人をみていなかったんだと気付いた。そしていま僕は先生の前に立っていた。

「魔物が出る前に何かいいかけてたね。そのことはもういいのかい」

 僕は深く呼吸する。

「はい」

 僕は意識を集中する。魔法はイメージであると、先生に教わった。今まで僕は先生のイメージを言われるまま真似ていただけだった。そして予想外のことがおき、僕は怖くなっていた。そしてあの時、記憶の中にある火の揺らぎと水の波紋のイメージが重なった。

「火は己の一部、火は自ら生まれ、そして広がっていく」

今回は魔法と出会い、そして挫折を乗り越えて魔法を自分のものにする少年の話を書きました。

全5章、最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。

5章は、ディミを守るために立ち上がり、自分自身の魔法を見つけるオルの物足りです。

今回でオルのお話はいったん終わりになります。

もしこの先の話や先生の過去の話など、読んでみたい展開があれば、ぜひご意見・ご感想お待ちしています。

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