2章 イメージ
「先生、準備できました」
僕が呼ぶと、先生はすぐに扉を開けてやってきた。
「バレてた?」
先生は悪戯した子供の様に笑った。
「オル君、私に魔法を習い始めて二ヶ月が経ったけど、どんな感じかな」
先生が僕から数歩の距離に立った。
「僕の知らない世界を教えてもらえるから、かなり楽しいです。ただ先生が思ったより子供っぽいことに驚いてます」
先生は苦笑いを浮かべる。
「手厳しいな」
先生は一回深いため息をする。僕も習って深いため息をした。
「さ、始めようか。手を」
僕は体の前に促されるまま、体の前に手を広げた。
「火は己の一部、火は己と共にあり」
先生の言葉に僕も続ける。
「火は己の一部、火は己と共にあり」
僕の手の平に小さい火の玉が生まれる。魔法はイメージの世界であると教わった。呪文と言われるこの言葉をきっかけに、手の平に体の中から火が生まれる映像を想像する。それが魔法の基礎だ。
「よし、その火を離すイメージで火を浮かしてみて」
手から離す、手から離す?体の一部なら体から離れる事はない、離れた時はそこがなくなる時だ。なくなるとどうなる?どうなる?
「消えたね」
先生は抑揚のない言葉で状況を説明する。
「疲れたかい?」
僕は先生の言葉で、体中から汗がでていることに気付いた。僕は額から汗を拭った。
「まだ感覚がわからないんだろう。ゆっくり慣れていくと良い」
僕は返答しようとしたが、ハァハァと息を出すことしかできなかった。
「今日は部屋に戻って、お茶にでもしよう」
先生はゆっくりと、扉の方に歩いてく。
「今日は君が持ってきてくれたクッキーが、あるから良いお茶を出そうかな」
先生はなんだか楽しそうに、部屋に戻っていった。
僕が息を整えてリビングに入った頃には、お茶とクッキーが用意されていて、先に先生は飲んでいた。
「もう、大丈夫かい?」
「はい」
僕が席に座ると、先生がお茶を注いでくれた。お茶の爽やかな匂いが体に染み渡る。
「いい香りでしょう?この香り疲れた時に安心させる効果もあるんだよ」
先生が言う通り、心が落ち着く。
「今日はどうだった?」
先生の言葉にどう言おうか迷っていると、
「正直に答えて」
先生はまっすぐに僕をみていた。
「はい」
僕は答えを探しながら答えた。
「正直に答えると、怖かったです。あの火が自分の一部かと思うと余計に」
僕の答えに先生は、納得いったような表情をする。
「それでいいよ。イメージがちゃんとできているみたいだね」
「どういうことですか?」
「そのままの言葉だよ」
先生が言っていることが分からなかった。できないことがいいことなのだろうか?
「自分で答えを見つけるまで何度でも私は付き合うよ」
先生は一口お茶を飲んだ。
「さっきも言ったが慌ててないのだろう?」
僕は頷く。
「君は要領がいい。きっとすぐできるようになるよ」
先生は優しく言ってくれた。
「今日はこのあと、どうするんだい?今日もみんなと剣術の稽古をするかい?」
先生は村の子ども達に、文字や計算、剣術も曜日を決めて教えていた。今日は剣術の稽古の日だった。僕も予定のない日はこの稽古に参加している。
「今日はこの後、畑の手伝いの予定です」
「そうか、畑の仕事も良い鍛錬になる。しっかりね」
コン、コン。
入口からノックする音が聞こえた。先生は扉を開けるとどうやら手紙のようだった。
「先生どうしました?」
僕が尋ねると、先生が少し曇った表情をする。
「ギルドから何だが」
ギルド、先生が所属している所だ。この村にはどうやら仕事を斡旋してくれるところみたいだ。ここも護衛と言うことで派遣されているらしい。
「呼び出しだな。しばらく家を開けることになりそうだ」
「え?先生にですか?」
先生はこの村に常駐の任務のはずで、基本は呼び出しがないと言っていたはずだ。
「そうだ。今、魔物の群れが街の方にでていて、退治を手伝ってくれとのことだ」
動物にはたまに魔力を帯びた個体が、生まれることがあると先生が教えてれた。それが成長すると魔物と呼ばれて通常より凶暴で危険なのだという。
「どうやら銀までの人達は、全員お呼びが、かかっているらしい」
冒険者のランクは上から、プラチナ、金、銀、銅、なしの五等級になっているらしく先生は金なのだという。
「オル、私がいない間、子どもたちの勉強を頼めるかい?」
「両親と相談してみます。きっと良いと言ってくれます」
勉強は週に三日程度なので、家の手伝いの邪魔にはならないはずだ。
「先生はどのくらい行っていますか?」
「二週間くらいだと思うよ」
「わたりました。お任せください」
次の日、先生は村を出発した。
今回は魔法と出会い、そして挫折を乗り越えて魔法を自分のものにする少年の話を書きました。
全5章、最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
2章は魔法とは何か?その本質を探しているオルのお話でした。
ご意見・ご感想お待ちしています。