第1章 - 混沌の子の目覚め
> 平凡な高校生──秋山レン。
ある日、図書室で出会った一冊の本が、彼の運命を狂わせる。
気がつけば、彼は“虚無”しか存在しない空間にいた。
「目覚めよ、黒鉄アカツキ」
見知らぬ声と共に授けられた新たな名。
世界の理から外れたその存在は、やがて“絶対なる虚無”の力を解き放つ。
これは、一人の少年が異世界で“混沌の子”として目覚め、
運命すら塗り替えていく物語──
俺の名前は──秋山レンだった。
……だった、というのが正しいのかもしれない。今となっては、それすらも曖昧だ。
地球では、俺はただの平凡な高校生だった。成績もそこそこ、運動も普通。友達も少ないし、特別に目立つ存在でもなかった。クラスでは壁際の席で、本を読むか、窓の外をぼんやりと眺めるようなタイプ。
そんな俺が、なぜ──
「……あれは、なんだったんだ……?」
あの日、いつものように学校の図書室に足を運んだ。静かで、人も少なく、唯一心が落ち着く場所だった。
だが、その日だけは違った。
目に入ったのは、見たこともない、黒い革の表紙の分厚い本。埃まみれの棚の奥に、ぽつんと存在していた。タイトルはない。ただ、謎の三つ目の紋章が浮き彫りにされていて……なぜか、強烈に引き寄せられた。
気がついたら、手を伸ばしていた。
「──ッ!」
次の瞬間、激しい痛みが頭を貫いた。視界が歪み、世界が砕け散るような感覚。
……気がつけば、そこは何もない、虚無の空間だった。
感覚も、時間も、音すら存在しない。身体は消え、意識だけが、どこまでも沈んでいく。
そんな中で、声が響いた。
『目覚めよ、黒鉄アカツキ』
……黒鉄アカツキ?
それが俺の、新しい名前だと告げられた。
そして──俺は、もう一度、世界へと降り立った。
* * *
「……っ!」
目を覚ました瞬間、肌に触れるのは柔らかな草の感触。心地よい風が頬を撫で、遠くで小川のせせらぎが聞こえる。
だけど……空が、おかしい。
見上げた空は──紫。
そこには三つの月が浮かび、ゆっくりと巡っていた。
「どこだ、ここ……」
俺はゆっくりと身を起こし、自分の手を見た。
肌は白く光を帯び、指は以前より長く、滑らかだった。前髪が視界に入り、気づく。……白髪だ。
そして、水たまりに映る自分の顔を見て──目を疑った。
瞳は紫。宇宙を思わせる、深く強い輝き。
その時──
ピコン、と音を立てて、空中にウィンドウが現れた。
【魂認証システム – 起動中】
名前:黒鉄アカツキ
称号:混沌の子
魂属性:絶対なる虚無
状態:覚醒中...
「……なに、これ」
まるでゲームのステータス画面のようなものが、目の前に浮かんでいる。けれど、これは夢じゃない。
「本当に……異世界に来たのか……?」
呆然としていたその時だった。
「……あなたね。空から落ちてきた異物は」
その声に振り向いた。
──そこにいたのは、一人の女性。
銀髪を高く結い、漆黒の鎧に身を包み、黄金の瞳でこちらを射抜くように見つめていた。
彼女は、背に巨大な剣を背負い、冷たい風のような雰囲気を纏っていた。
「名は?」
「え……あ、アカツキ……黒鉄アカツキ」
一瞬の沈黙の後、彼女の眉がピクリと動く。
「……本当に、その名なの?」
「言われたんだ。目覚めたときに……自分の名前だって」
「……そう」
そのまま彼女はくるりと背を向けた。
「追跡者が来る前に、ついてきなさい」
「追跡者……?」
「虚無の使徒よ。あなたの中から溢れる力に引き寄せられてくる。あなたの存在は、この世界の理にとって“異常”なの」
──異常。
──虚無の力。
──混沌の子。
まるで、すべてが俺にとって“元々そうあるべきだった”かのように、心に引っかかってくる。
歩きながら、彼女は名乗った。
「私はリサンドラ。アストリア帝国の近衛隊長よ」
帝国? 近衛? 魔法の世界か?
「あなたが何者であろうと、放っておけないほどの存在であることは確か」
「それって、つまり……?」
「──運命を狂わせる存在。ということ」
そう言った彼女の声は、どこか震えていた。
* * *
──ドゴォォォン!!
突如、地面が揺れた。
「来たわよ……!」
「な、なにが!?」
「追跡者。あなたを“消す”ために現れた影の眷属よ」
黒い人影が、森の奥から飛び出してきた。異形。人の形をしているが、顔も、手も、すべてが歪み、光る白い瞳だけがギラついていた。
リサンドラが、剣を抜く。
その瞬間──空気が変わった。
「……下がっていなさい。私は、戦える」
俺が口を開く間もなく、彼女は──一閃。
斬った。静かに、華麗に。
……だが、残った一体が、俺に向かってきた。
「っ! 逃げ──」
──いや、動けなかった。
恐怖で、体が硬直したまま。
怪物の爪が振り上げられ、俺の眼前に迫った瞬間──
【魂属性:絶対なる虚無 – 発動】
【自動防御システム 起動】
【スキル:原初の混沌の眼 使用中】
──世界が、止まった。
静かに、ゆっくりと、俺の手のひらに黒い球体が生まれた。
それは、小さく、静かで──けれど、この世の理すら歪める力。
それが、怪物に触れた瞬間──怪物は、何の音もなく、消滅した。
ただ、消えた。
「……」
俺は、ただその場に立ち尽くしていた。自分の手を見ながら、震えていた。
リサンドラは、目を見開いていた。
「……あれは……マナじゃない。まるで……」
「……現実を、書き換えたような感覚だった」
その時、自分の胸の奥に何かが芽生えた。
それは、得体の知れない熱。
不安。恐怖。そして──ほんの少しの興奮。
俺は、この世界で……何かを変える存在になってしまったのかもしれない。
──そう、感じた。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
はじめまして、ケルヴィン・クリスティアーノと申します(筆名でも本名でもOKです!笑)。
この物語『混沌の子 - 黒鉄アカツキの転生録』は、長い間温めてきたアイデアの結晶です。
第1話では、平凡な学生だったレンが異世界「エルセリア」に転移し、
謎の力「絶対なる虚無」を宿して“混沌の子”として目覚める瞬間を描きました。
実は、主人公の葛藤や孤独感には、少し自分自身の思いも重ねています。
この世界に自分の居場所がないと感じている人にこそ、読んでほしい。
そんな思いで書きました。
これから先、黒鉄アカツキの冒険はどんどん激しく、そして深くなっていきます。
剣と魔法、混沌と運命、そして仲間と出会い…。
王道だけど、どこか違う。
そんな物語を目指しています。
ぜひ、続きも読んでいただけると嬉しいです!
感想、レビュー、ブックマークなど、大歓迎です!
あなたの応援が、次の執筆の力になります!
それでは、また次回の更新でお会いしましょう!
――ケルヴィンより