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第58話 俺の従兄妹がこんなに可愛いわけがない <後編>

―俺とジャンヌは従兄妹なのに滅多に合わない。初めて会ってからかなり時が経つのに俺たちの距離は一向に縮まない。俺はというと19歳になり、元々興味がなかった王位継承は諦め、剣士の隊長を目指していた。補佐官としてジャンヌが住む城に出向くことが多くなっていた。しかしあいつが16歳になってから雰囲気が変わった。下ろしたウェーブの髪と黄色いドレスは変わらない。最初は気のせいだと思った。廊下ですれ違う度に、いつも硬いあいつの表情が柔らかくなっていくのに気づいた。たまには挨拶をしようと思い、ある日俺はあいつに話しかけた。


「よお、きいろ(ジョーン)。」


―なんて話しかければわからず、偉そうな呼びかけをしてしまった。


「ごきげんよう、ロナルド。剣隊長の補佐官のお勤め、ご苦労様。」


―ジャンヌは丁寧にお辞儀をした。……やはりおかしい。以前は俺を労うような言葉はかけなかった。


「ふん。お前と違って俺は肉体労働で疲れているんだ。お前はいつも優雅なドレスでのんきだな。」


(ああああああああああああっ!俺のバカーーーーーー!なんでいつも嫌味を言ってしまうんだーーーーー!)


「大体なんだその胸の開いたドレスは?男を誘惑しているのか?それで国中の男を従えようっていう魂胆か?魔性の女め。」


―鼻で笑ったが内心ヒヤヒヤしていた。


(ああああああああああああっ!今のセクハラっ……!完全にセクハラだっっっ!俺は最低の男だ!!この口!俺の減らず口!なんでいつも思ってもないことを言ってしまうんだあああああ!俺のバカーーーーーー!)


―俺は目をつぶって平静を装った。ああ、よかった。人は互いの心を読めなくて。もしジャンヌに俺の心が読まれていたら恥ずかしくて部屋から出られない。


「ごめんなさい。胸が開いてないときつくて……。」


―めずらしくあいつは恥ずかしそうに答えた。


(なにいいいいいいいいいいいいい!?乳が……乳がでかすぎて胸元が開いてないときついのか??どんだけこいつの胸は成長しているんだ?!そういえばこいつ何カップだ?D……それともE??)


―邪な考えを払うため俺は厳しい言葉を発した。


「ふん。言い訳するな。」


―しかしジャンヌは怒らず俺をじーーーーっと見る。無表情ではない。怪訝そうだが見下してはいない。複雑な顔だ。これも初めて見る。


「あなた……大丈夫?頭おかしくない?」

「へ!?」


―ジャンヌは俺を凝視している。まさか俺を……俺を心配してくれているのか?


「あなた疲れているのよ。ゆっくり休んだら?医者に診てもらうといいわ。」


―ジャンヌは困惑した目で俺を見る。……俺は感動した。脳内で賛美歌が流れる。


(ジャンヌ!!こんな俺を心配してくれるなんて!!お前に対して素直になれない俺に優しい言葉をかけてくれて!!なんてお前はいいやつ……いや、いい女なんだ!色んな表情を見せるようになって他者を気遣えるようになるなんて成長したな!俺は誰に対しても皮肉を言ってしまうが、これからは優しくなろう!)


「そ、そうだな……。お前の言う通りだ。幸いこの後は何もないから気晴らしに乗馬でもするとしよう。せっかくだからお前もどうだ?ジャンヌ。」


(うおおおおおおおおおおお!?何言ってるんだ俺ーーー!うっかりジャンヌを誘ってしまったあああああああああ!!)


―動揺していたのは俺だけではなかった。ジャンヌはぽかんとしていた。


「そ……そうね。たまにはいいかもね。じゃあ着替えてくれるわ。裏門で待ち合わせしましょう。」


―もしその場に誰もいなかったら、俺は馬みたいに跳んでいただろう。


―俺は剣士の隊服から乗馬服に着替えた。裏門でジャンヌを待ちながら考えた。


(あいつは今日はドレスなのか?それとも乗馬服か?)


―国民に見せる儀式では華やかさを演出するためあえてドレスを着ることが多い。しかし剣術大会でもあいつは剣士の隊服を着ていた。ならやはり動きやすい乗馬服か?髪型は……。


(まさか……俺と同じ三つ編みかああああああああああ!?)


―同じ乗馬服。同じ髪型。おそろいの恰好で乗馬しているところを誰かに見られたらなんと噂されるのだろう。


(まさか久々の三つ編みか?子供の時と同じ、まさかのペアルック!?ああああああああああああっ!そんなことになったら一体俺はどんな顔をして隣りを歩けばいいんだあああああああっ!!)


「……お待たせ。」

「うおっっ!?」


―慌てて振り返ったら着替え終わったジャンヌがいた。乗馬服は俺のと微妙にデザインが違う。髪型は三つ編みではなくポニーテールだった。なるほど……乗馬するから子馬(ポニー)のしっぽ(テール)か。


「お、おう……。そんなに待ってないぞ。……その恰好、似合ってるじゃないか。」

「ありがとう。」


―その午後はめずらしく、俺はいつもより素直になれた。これが俺とジャンヌの代表的な思い出話だ。

ロナルド視点の番外編はこれで終わりです。書いていて面白かったです。もっと早くロナルドを出すべきだしたが、思いついたのは去年の年末でした。

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