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第56話 俺の従兄妹がこんなに可愛いわけがない <中編1>

「納得いかね~。」


―家庭教師の言葉を遮り、俺はひとり言をつぶやく。歴史の授業にはアンジェリカも同席していた。今まで勉強をサボっていたため2歳年上のくせに俺と同じ内容を勉強していた。


「なんで俺よりあとに生まれたあいつがいきなり第一王位継承者になるんだよ?王の娘だからってひいきしすぎじゃね?」


―ジャンヌと会ってからあいつのことが頭から離れない。他の人間と違って俺に媚びないあいつがイライラする。俺が第三王位継承者になってから俺の機嫌を取ろうとする貴族は減った。代わりにあいつの周りに貴族が集まるようになった。アルフレッド兄様の味方をする貴族の数はあまり変わらなかった。王位継承戦は実質ジャンヌとアルフレッド兄様で行われると決まったも同然だった。家庭教師の学者は戸惑いながら俺の言葉に答える。


「それが……王もかわいい一人娘に国の責務を負わせたくないと悩んだらしいのですが……。」

「ほ~んとにかわいいわよねぇ、ジャンヌ。」


―話題を勉学からそらすためアンジェリカも話に乗った。学者は話を続ける。


「姫があまりにも賢いのでよそに嫁がせるには惜しいと……。」

「はあ?」


―俺は拍子抜けした。女が賢い?男よりも?


「まだ3歳ですが簡単な読み書きならもうできます。何か気になることがあったら周りの者に訊ねたり本で調べたりします。難しい本があったら他の者に読ませ、説明させることも……。この前なんて食事はどうやって作られるか興味を持ち、城の厨房だけでなく田舎の農場まで見学しに行かれました。さすがに動物の解体作業はお見せできませんでしたが……。とにかく知識欲がすごいのです。なんでも吸収してしまいます。」


―……マジかよ。そういえば初めて会ったとき、リリアンドの植物図鑑を目当てに兄上についていったな……。


「やだぁ~。ジャンヌすご~い♪わたしなんて昔、ステーキやケーキは草から生えてくると思ってたわぁ。」

「お前の発想に草が生えるな。」


―アンジェリカはけらけら笑う。本当にこいつは俺の姉なのか?同じなのは髪の色だけだぞ。学者はコホンと咳をした。


「お二人はジャンヌ姫より長く生きているのですから、そのぶん良いお手本となりましょう。さあ、勉強を再開しますよ。」

「ええ~?やだぁ~。勉強つまらな~い。ジャンヌとなら勉強した~い♡」


―アンジェリカが駄々をこねる。俺は一瞬だけジャンヌと勉強しているところを想像した。同じテーブルで俺の隣にジャンヌが座っている……。良い!……じゃなくて最悪だ!!


「はあ?3歳も年下だぞ。無理だろう。」

「それが先ほど申し上げたように姫は知的好奇心が強くて……このままだとお二人は3カ月後には追いつかれます。」

「は?」


―男の俺が、年下の女に負ける……?ありえない。あってはならない!


「なんだと!追いつかれてたまるか!さっさと授業を進めろ!」

「わ~い♪このままのんびりしていればジャンヌと一緒に勉強できるのねえ♡」

「そんなわけないだろう!あいつは超人見知りだぞ?従兄妹である俺たちですら警戒して近寄ってこない!」

「ロナルドが下心持つからよ。」

「ははははははあ?し、下心なんて持ってない!お前こそあいつを着せ替え人形にする気だろう!」

「それの何がいけないのぉ?美は着飾ってこそ意味があるのよ。」

「お前の服派手すぎだろう!趣味悪いぞ!」

「まあ!センスがないのねぇ。それだからジャンヌにモテないのよ。」

「は、はあ?関係ないだろう!」


―結局その日はアンジェリカと喧嘩して授業はあまり進まなかった。その後、俺は努力したものの、6カ月後にジャンヌは俺の勉強内容を追い抜いてしまった。それからというもの……勉学方面ではどんなに俺が努力しても、あいつに追いつくことはなかった……。


―ジャンヌは俺たちが住む城には滅多に来ない。俺たちのことを見下しているのだろうか?アンジェリカはジャンヌと遊びたがっていたし、俺はジャンヌに言いたいことがたくさんあったが、招待しても全然遊びに来やしない。


 ある日、俺とアンジェリカが買い物から早く帰ってきた。俺は買ったばかりの剣を早く兄上に見せたくてうずうずしていた。執事から兄上が中庭にいると聞いてまっすぐに飛んで行った。ベンチに座っている兄の後姿が見える。俺は大喜びで兄上を呼んだ。


「アルフレッド兄様!」


―ベンチの正面に回りこむと信じられないものが目に入った。兄上のひざの上に、ジャンヌがちょこんと座っていた。兄上は両手で本を持っていた。帝王学の本だった。


「おかえり。ロナルド。早かったね。」


―兄上は優しく笑う。金髪の髪が美しい。まさしく王子だ。それに比べ、ジャンヌは無表情だった。髪の色が暗ければ性格も暗い。あいかわらず笑わないあいつに俺はむっとした。


「兄上。なんでそいつがここにいるの?」

「ああ。今日は天気がいいからジャンヌに外で本を読もうか提案したんだ。そしたら頷いたから中庭へ……。」

「そうじゃなくてなぜそいつがこの城にいるのですか!?」


―しかも当たり前のように兄上の膝に座っている。


「月に一度は遊びに来てるよ。……そういえばいつもロナルドとアンジェリカが授業を受けているときや外出しているときに来てたね。」

「はあああ!?」


―……わざとだ。絶対こいつわざと俺たちと会わないときに来てる!アンジェリカはともかくそんなに俺と会うのが嫌なのかよ!!


「お兄様~、おみやげ買ってきたわよお♪」


―噂をすれば影。アンジェリカまで中庭に入ってきた。


「や~だぁ!ジャンヌじゃな~い♡」


―アンジェリカは国一番の美少女を見て目をきらきらさせた。


「お兄様、ジャンヌをひざにのせてずる~い。」

「こらこら。アンジェリカは昔ひざにのせてあげただろう。」

「わたしもジャンヌをひざにのせた~い!」

「あれ?そっち?」


―兄上は笑っていたが俺は許せない。なぜかとてもイライラする。


「ジャンヌ~。お人形の着せ替えして遊びましょお♡」

「ジャンヌを着せ替え人形にするの間違いじゃないか?」


―皮肉を言ったがアンジェリカは気にせずジャンヌを連れ去ってしまった。ぽつりと取り残された兄上と俺……。


「あ~あ。あの様子じゃ2時間は戻ってこないね。」

「…………。」


―兄上は今まで俺が見てないところで何回もこの城でジャンヌと会っていた。そう思うと怒りと悲しみがこみ上げてくる。俺が大好きな兄上に怒るわけがないから、きっと全部ジャンヌのせいだ。大好きな兄上がジャンヌに取られたみたいで悲しくて怒っているんだ。そうに違いない。兄上は何も知らずに優しく声をかける。


「なにか用事があって僕のところに来たんだろう?」


―俺はうつむいたまま新品の剣を差し出した。


「新しい剣か!良い剣だね。」

「……うん。」


―剣を返されたあとなでられた。兄上は優しい。あんな無愛想な従兄妹にも実の弟と同じように接してくれるのだから。

実はよくアルフレッドの名前を忘れます。良い人だけど影が薄いから……(笑)。

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