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第45話 女の生活

 トントントン。グツグツグツ……。野菜を切る音と鍋が煮える音がする。冬でもここは温かい。私は召使いのマーサと台所……というより調理場にいた。城は大きいぶん多くの人が住むので当然、調理場も広くなる。ここは30人分の食事を作る孤児院の台所よりも広い。このだだっ広い調理場を私たち二人は貸し切りで使っていた。


「私、料理ができるようになりたい。」


 そう告げたら父は反対した。かわいい娘に怪我をしてほしくないからだ。しかし未来の夫と子どものためにおいしい料理を作れるようになりたいと告げたら上機嫌になった。


「やっと結婚する気になったか!しかし王位を継いだら料理する時間はないぞ?」

「子どもが生まれたらしばらく王としての責務を果たせないでしょ?子どもの世話は召使いに任せずなるべく自分でやりたいの。」


 父の眉と口が下向きになった。ここでいつも味方になってくれるのは母だ。


「いいんじゃない?花嫁修業。私も昔やったわ。でも私は長い間料理してないから他の人に教えてもらいましょうか。」


 親馬鹿な父は「では最高の料理人に教えてもらおう!」と言ったがまず一般家庭の料理を学びたいと断った。しかし城の料理人やメイド長に頼んだら遠慮された。どの人も同じことを言った。


「そんな!姫さまにこのような下々の者の仕事はさせられません!」


 どうしたものかと廊下をとぼとぼ歩いていたらマーサと会った。


「じゃあおらが教えるッス!!」


 メイド長は「下っ端のメイドが教えるなんて図々しい」という顔をしたが、私は心から感謝した。そして今にいたる。恥ずかしながら私はマーサから最初に習ったことは以下のことだ。


「いいッスか?このナイフは“包丁”というッス!」


 私はマーサが持つものをまじまじと見る。……なるほど。この変わった形の短刀は“包丁”というのか。孤児院の台所で使ったのと同じものだ。ただしこちらの包丁はもっときれいで刃こぼれしていなかった。それに柄もとても握りやすい。


「包丁には色んな種類があって食材によって使い分けるッス。野菜や果物の皮をむくときは小さい包丁のほうが使いやすいッス。でもいちいち切るとき包丁を替えるのがめんどくさかったらもうペティナイフ一本でいいッス。」


 そう言って彼女は15cm以下の中くらいの包丁を取り出した。しかしペティナイフは手によく馴染んだものの上手く扱えなかった。私の場合じゃがいもの皮をむくというより削るという表現のほうが正しかった。


「あちゃ~。初めてだから上手くいかないッスね。」

「……ねえ。護身用の短刀を使っていい?」


 試しに護身用の短刀を使ってみた。最初はぎこちなかったがだんだん慣れてきてじゃがいもを回転させながらするすると皮をむけるようになった。


「さすが姫さま!天才ッス!」


 そのまま料理を続けて材料を鍋に入れたら余裕ができた。マーサは暇つぶしに話題を振った。


「そういえばフレデリック子爵が爵位を剥奪されたそうですよ。」

「ふ~ん。」


 私は興味がないふりをした。実際あまり興味なかった。でも彼のことはできれば早く忘れたかった。


「性格は知らないけど顔は良かったッスね~。なんで剥奪されたんッスかね~。姫さまなにか聞いてまス?」

「さあ?」


 私はお玉で鍋からアクをすくい取ろうとした。なかなかまとめて取れない。


「そうッスか。……あ!そういえばこのまえ荷馬車が盗賊に襲われたッス!大量の酒が奪われたらしいッス。あの酒場、大丈夫ッスかね?」

「えっ!」


 さすがに今回は手を止めた。私たちが知っている酒場といえばサリーの酒場だけだ。彼女の家族が経営する酒場が大損をした……かもしれない。数回しか言葉を交わしてないとはいえ顔見知りの少女のことが心配になった。


「それは大変だけど……そういうときは国が保証するわ。損害分のお金を酒場に出すから無事に冬は越せるはず。」


 以前も述べたがロサキネティカ王国は社会福祉が充実している。孤児と退職者はもちろん、失業者や体が不自由な者が最低限の生活をできるよう保証をしている。


「な~んだ。なら大丈夫ッスね!」


 そう……。本来ならそれで問題がないはずだった。酒場の店長がお金の使い道を間違えなければ。

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