第30話 友情
「あ~。楽しかった~!」
ミランダは嬉々として洋服店を出た。ミランダも私も手提げ袋を手に持っている。
「ロザリーってなんでも似合うからどれを買うか迷っちゃった~。」
「選ぶのを手伝ってくれてありがとう。」
私はミランダに心から感謝した。最近は自然に笑えるようになった。これも全部マシューのおかげだ。ふとマシューを見るとなぜか彼の顔は真っ青になっていた。
―マシュー?
不躾ながら心を読もうとしたらミランダが大声を上げた。
「あーーーっ!あんたたちマシューをいじめたでしょ~~!」
そう言った直後ミランダは座ったマシューに駆け寄り彼を抱きしめた。何が起こったかは知らないがマシューの心中を察したらしい。
「ごめんね~~。まさかディーンとロバートがマシューをいじめると思わなかったの~。」
私たちが口をポカーンと開けているなか、ミランダはマシューを引っぱった。
「さあ!いじわるな男子たちから離れてあたしたちとお茶しましょうね~。」
マシューはティーカップを持ち大人しくミランダについて行った。
「あっ!おい!」
ディーンが言い訳をする暇もなくマシューは引き離される。ロバートはさりげなくミランダとマシューについて行った。
「ねえねえ。ロザリーは何飲む?」
馴れ馴れしく話しかけてくるロバートに私はついそっぽを向いてしまう。
「コーヒー?紅茶?僕が奢るよ♡」
私が何とも言えない気持ちで唇を噛みしめてるとミランダが眉をつりあげる。
「ちょっと!マシューをいじめてたくせにこっち来ないでよ。」
「僕はいじめてないよ~。ディーンだけだよ~。」
ロバートは猫なで声で言う。男の媚びる姿は正直気持ち悪い。
「でも止めなかったんでしょ。スパイはシッシッシッ!」
ミランダが手で追い払う仕草をしてもロバートは食い下がる。
「ロザリーは何飲みたい?なんでも奢るよ♡」
ミランダはマシューと私を守ろうとロバートの前に立ちはだかる。
「あたしの分も奢ってくれたら仲間にしてあげる。」
「え~?修道士にそんなお金ないよ~。」
「貧乏修道士のくせに奢るな!」
彼らが言い争っているうちに私は受付でクランベリージュースを頼んだ。しかしロバートはめざとく見つける。
「あっ!クランベリージュース好きなの?僕も~♡」
ちゃっかり同じものを注文するロバート。私は顔をしかめた。
―白々しい。私の好みに合わせてるだけでしょ。
ミランダは呆れつつ紅茶を注文した。
「外に出るまで一緒でいいけど、テーブルは別々だからね!」
こうして飲み物を飲んで一休みしたあと私たちは帰路についた。
***
男2人の帰り道。最近こうして町を2人で歩くのが当たり前になった。きっかけはロザリーを探し始めたことだった。最初は彼女が見つからず寂しい笑顔を浮かべていたロバートだったが、ロザリーと再会してから彼はずっと笑顔だった。昔からよく笑う少年だったがますます微笑みが絶えない少年になった。これまであった出来事を思い出しながら、ディーンはロバートに話しかけた。
「……なあ。ロザリーは姫だと思うか?」
浮かれていたロバートが現実に少し戻る。
「わからない。でもロザリーはロザリーだよ。」
「少なくともマシューの様子から姫とロザリーはそっくりということはわかったぞ。」
マシューは姫を愛していると言った。しかし彼がロザリーに惚れていることは明らかだった。ではロザリーこそその姫なのではないか。だからロザリーに近づくロバートを目の敵にしているのだろう。
ロバートの目つきが真剣になる。
「……ロザリーは花屋の娘と言っていた。」
「まだロザリーの嘘を信じているのか?」
訝しそうな顔をするディーンをロバートは真っ直ぐ見つめた。
「ロザリーが花屋の娘と言ったら花屋の娘なんだよ。」
「お前はロザリーが世界は平らだと言ったら信じるのか?」
しばしの沈黙のあとロバートはフッと笑う。
「ロザリーがそう言うんなら僕は信じるよ。」
「マジかよ……。」
ディーンは眉をひそめた。
「ロザリーが世界を平らだと信じているのなら、ロザリーにとって世界は平らなんだよ。だから僕はロザリーを信じる。」
「ロザリーが自分は花屋の娘だと信じてなくてもか?」
ロバートの言いたいことはわかる。地球は丸い。平たくなどない。しかし信じている者にとってはそれは真実だ。だがロザリーは嘘をついている。
「きっと自分は花屋の娘だと言わなくてはならない理由があるんだよ。ロザリーが自分は花屋の娘であると信じてほしいなら僕はロザリーは花屋の娘だと信じる。」
ディーンはやれやれとため息をつく。
「お人好しだな。」
「恋は盲目……だよ。」
ぎこちないウインクをするロバート。謎の多いロザリーを怪しんでいたディーンだが、親友の発言で吹っ切れた。
「こりゃますます会って確かめなきゃな。」
2人はいつも帰るとき別れる場所に着くが、ディーンはロバートが帰る道を進む。
「あれ?家に帰らないの?」
ディーンはにやっと笑う。
「主教に挨拶してからな。」
そう言うなりディーンは腕でロバートの首をひっかけた。
「このオレが手伝ってるんだから、絶対姫と結ばれろよ?」