第28話 女は強い
その日、私は雑貨屋に着いて早々出鼻を挫かれた。彼の姿を見て自分の顔がひきつっていく。一緒に来たマシューもそうだった。
「ロザリー~~!会いたかったよ~~!」
「男は引っ込んでなさい!ロザリーはあたしと買い物に行くの!」
一人の友人に会いに来たのに、待ち合わせ場所にはなぜか三人の男女がいた。そのうち一人は笑顔で手を振っている。
「ちょっとディーン!なんで止めなかったの?」
「こいつがオレの言うことを聞くと思うか?」
「まあ~まあ~。ぼくのことは荷物持ちとでも思って……。」
「あんたのようなうざい荷物持ちがいるか!」
ニコニコしているロバート。腹を立てているミランダ。冷静なディーン。三人トリオは雑貨屋の前で不協和音を奏でていた。
「なんであなたがいるのよ?!」
そこへさらに私の悲鳴が加わる。ミランダはロバートに厳しい目を向ける。
「あんた。呼ばれてもないのにパーティーに来るタイプでしょ?」
「そこにロザリーがいるなら、僕も行くよ☆」
「「うざっ!」」
ミランダとマシューは同時に言った。ディーンは声を上げて笑っていた。トリオからクインテットになったのでさらに耳障りになる。不快なおしゃべり演奏を止めたのはミランダの母の怒声だった。
「あんたたちいい加減にしなさい!営業妨害よ!」
彼女にシッシッと追い払われ、私たちは渋々歩く。ミランダは私とマシューの横に並んだ。
「マシュー。あんた彫刻家だよね?なんでいつもロザリーの召し使いみたいについてくるの?」
「そ、それはっ……ぼくが庭師の息子だから……!」
「は?」
あたふたするマシューを私はフォローする。
「マシューの父親は私の父親と親しいのよ。私のお父様、『かわいい娘を一人で外出させるわけにはいかん!』と言っていつもマシューかマーサをお供に命じるの。厳しいったらありゃしない。」
「そっか~。大変だね~。」
ミランダたちは私がお金持ちの花屋の娘と信じている。花屋と庭師は植物を扱う仕事だ。花屋と庭師が親密でもおかしくはない。辻褄は合っている。ミランダはあっさり私の嘘を信じた。もっとも、もし私が私事で外出するとお父様に言ったら護衛50人が付くだろう。だって私は国王の一人娘だもの。
「ごめんね~。ロザリーが来ること伝えてないのにロバートが来ちゃって……。」
ミランダは申し訳なさそうに謝った。私は苦笑いする。
「逃げても追いかけてきそうね。……まあ、護衛がいると思ったら気が楽になるんじゃない?」
見知らぬ男たちがついてくるより知り合いや友人の男たちがついてくるほうがマシだ。私の提案にミランダは笑った。
「あははっ!ロザリー面白いこと言うね!」
花の乙女たちの会話にロバートは割り込む。
「そうだよ~。ロザリーは僕が守るからさ~。」
「あたしは守らないの?」
ミランダのもっともな質問にロバートはけろっと答えた。
「ミランダはたくましいから大丈夫じゃない?」
「あらそう?」
マシューは会話をハラハラしながら聞いていたが、ミランダは気にしていないようだ。ディーンも会話に加わる。
「安心しろ。ミランダの護衛担当はオレだ。お礼はコーヒー1杯でどうだ?」
「勝手に護衛しておいてお礼をよこせだなんてケチね~。」
声色から怒ってないことは確かだが、呆れていた。この様子だとディーンはコーヒーを奢ってもらえないことは確かだろう。
「ぼ、ぼくは2人とも守るよ!」
もじもじしながらもマシューは小さな勇気を出す。4人の視線がマシューに集まる。ミランダの機嫌が少し良くなった。
「あらありがとう。でも……もし暴走した馬車があたしとロザリーに向かってきたらどうする?」
「えっ!?」
いきなり例え話が出てマシューは目を丸くした。
「ちなみにあたしたちの距離とマシューの力を考えると一人しか助けられません。」
追加設定にマシューは口をつぐむ。ロバートとディーンもぎょっとしている。
「あたしとロザリー。どっちを助ける?」
心を読まなくてもわかる。マシューが助けるのは私のほうだ。それはただ単に私たちが幼馴染だからではなく、マシューが昔から私に恋しているからだ。
ミランダはイタズラっぽく笑った。
「ふっふっふっ。残念でした。答えはあたしがロザリーをかっこよく助けて、マシューは転ぶ……でした!」
「ええーーー!?」
ミランダ以外はポカーンとしていた。
「あ。勘違いしないでね。全員無事よ。……ふふっ。あんたがロザリーを助けると思った?」
私たちは彼女と発送をまだ完全に受け入れられず、ポカーンとしていた。ミランダはまた笑った。
「ふっふっふっ。女はタフなのよ!男ばっかりに頼っていられないわ!!」