第23話 疑問
私と再会した日の帰り道。ロバートとディーンはミランダと自己紹介と世間話をした後、帰路に着いた。町は仕事を終えた人々でいっぱいだった。疲れた人が多い中、ロバートはにこにこしながら歩いている。
「あ~、ロザリーと会えてよかった!ロザリー成分を摂取して僕幸せだよ♪」
意味不明なことを言うロマンチストな修道士に、皮肉屋の画家は正直な感想を告げる。
「気持ち悪いことを言うな。だいたい触れてもいないだろう。」
「パーティーではくっついて踊ったも~ん♪同じ空気を吸えただけで幸せ♡」
「へいへい。」
2人の少年はのほほんと歩いて行く。
「お前の言った通り別嬪だったな。」
「あげないからね!」
「……取らねーよ。」
ロバートに呆れつつディーンは腑に落ちない。ディーンは絵の締め切りのためパーティには参加しなかった。しかしどこかでロザリーを見たことがあるような気がした。それを思い出せずにもどかしい思いをしていた。
「それにしてもロザリーいい匂いしたな~。彼女が帰るときふわっと薔薇の香りがしたよね!」
ロバートは目をつぶって香りを思い出す。
「ああ。おそらく薔薇の香水をつけていたんだろう。」
ディーンの表情が硬い。彼だけがロザリーとマシューの違和感に気づいていた。
「なんか高そうだね。自分で作ったのかな?……ロザリーってお嬢様かな~?すっごくお上品だし。きっと大きい花屋で商売が繁盛しているのかも。一緒にいた男の子は召使いか店員かな?」
明るいロバートとは対照的にディーンの顔が険しくなる。
「いいや……マシューは彫刻家だ。」
「知り合い?」
「同じアトリエで学んでいたことがある。」
「ふ~ん。」
マシューには興味がないのかロバートはあまり気にしなかった。しかしディーンはひっかかっていた。
「あいつ、最近見かけないと思ったら城に出入りしているらしい。」
「へ~。王族に気に入られたの?すごいね。」
「ああ。芸術仲間から聞いた。」
やはり会話は盛り上がらない。ロバートは思い人に夢中だからだ。ディーンは難しい顔をしたままだった。
「……なあ。なんかロザリーって女おかしくないか?」
「へ?」
親友が歩みを止め、驚いたロバートも歩くのをやめる。
「何言ってるの?おかしくないよ!そりゃ人間離れした美しさだけど……。」
「そういうことを言ってるんじゃない。」
ディーンはのろけ話を始めようとしたロバートをぴしゃりと拒絶する。
「ここから一番近い国はリリアンドだろう?なのにロザリーたちはリリアンドに一番近い東門ではなく、この国の中央……城がある方向へ走っていった。」
「忘れ物でもしたんじゃない?もしくは南門に行こうとしたとか。」
2人の脳内に地図が浮かび上がる。この国―ロサキネティカ―を中心に東にリリアンド、南にハイビスカシアが描かれている。
「ハイビスカシアは馬で2週間の距離だぞ。遠すぎる。それにロザリーの肌は白い。ハイビスカシアに住んでたら日焼けしているはず。」
「確かにパーティーでは白い肌に赤い衣装が映えていたけど……。」
こんなときでもロバートが思い出すのは麗しいロザリーの姿だった。先刻まで浮かれていた彼は顔をしかめた。
「ロザリーを疑わないでよ。」
しかしディーンはある結論にたどり着く。まさかとは思うが思い当たりはあるし辻褄も合う。
「おい、お前フレデリック男爵のアトリエに行ったことあるか?」
「ああ、司祭が教会に飾る絵を描いてって依頼した時のこと?あのとき風邪で行けなかったんだよね。」
話題が変わりロバートはほっとする。
「そうか。アトリエでは男爵が今まで描いた絵が置いてあって……黄薔薇の姫の肖像画も置いてあったんだ。」
「うん。それで?」
ロバートはなぜディーンがそんなことを話すか見当がつかなかった。
「ロザリーって女はその姫に瓜二つだった。」
「へ~。ロザリーってお姫様にそっくりなんだね。親戚かな?」
鈍感な親友にディーンは痺れを切らした。
「アホ!ロザリーが黄薔薇の姫かもしれないって言いたいんだよ!」
「ええええええええええ!?」
ロバートは目と口を大きく開けて反射的に後ずさった。周りの人々はいぶかしげな目で彼を見る。
「薔薇の香りがしたんだろう?姫は薔薇の香水を愛用してるって噂だ。城の中庭には薔薇の花畑があるらしいし。……確かめてみるか?」
「ど、どうやって?」
目をパチクリするロバートに対して友人はにやりと笑う。
「家庭教師。」