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第22話 初恋と再会

挿絵(By みてみん)


 ミランダは状況を理解できず、ロザリー・マシュー・ロバート・ディーンを交互に見る。顔を忙しく動かして首が痛くなりそうだ。マシューは大きく口を開けたまま硬直し、ロザリーとロバート・ディーンを見る。ディーンはロザリーとマシューを見ていた。しかし私とロバートは互いしか見えていなかった。時が止まったと思った。


(そんな!なんでこんなとこにあの修道士がいるの!?教会から離れてるじゃん!!)


(ほう……。ロバートが言っていた通り美人だな。ちゃんと似顔絵を再現できてよかった。……でもなんでマシューと一緒にいるんだ?)


(なに?なに?なにが起こっているの??)


 マシュー・ディーン・ミランダの心の声が次々と聞こえてくる。だけどそんなことがどうでもよかった。ロバートが目の前にいる。それが一番の問題だった。私はどうすればいいか全くわからなかった。止まった時を動かしたのはロバートだった。


「ロザリー……会いたかった……!」


 ロバートはふらふらと私に近づく。彼の一途な思いが私に伝わってくる。


(ロザリー……好きだ。抱きしめたい……。)


―!?


 私は戸惑った。今まで何人もの男に好意・願望を感じたが、実際に行動に移そうとした男は初めてだった。ロバートが私に触れるまであと3歩のところでマシューが盾になった。両手を広げてロバートをにらんでいる。


「ひ……ロザリーさまにさわるな。」


 低い声だった。威嚇している。うっかり「姫さま」と言いそうになったが誰も気づかなかった。ロバートは私を抱きしめるのは諦めたのか、マシューを無視して私に話しかける。


「久しぶり……。元気だった?」

「ま、まあね。」


 私はそっと目をそらす。彼とどんな顔で何を話せばいいかわからない。


「今日はピンクの服だね。」

「た、たまたまよ!別にあなたに言われて着たわけじゃないから!」


 彼にピンクの薔薇の妖精と言われたことを思い出し、頬が熱くなる。彼はクスッと笑う。


「とっても似合うよ。」

「当たり前でしょう!私を誰だと思って……!」

「かわいい。」

「……っ!」


 とろけるような優しい目で見つめられてドキッとする。また「かわいい」と褒められたことが悔しくて、私はそっぽを向いた。


「ずっと探してたんだよ。国中の花屋を訪ねたのに誰もあなたのことを知らなかった。どこに住んでるの?」


―えっ?


 つい気になり、彼の心を勝手に覗く。


(一カ月間探してよかった……!)


 彼の言っていることは本当だった。胸がずきっとする。私のためにここまでしてくれた男は初めてだった。だけど本当のことを言うわけにはいかず、また一つ嘘を重ねる。


「隣りの国に住んでいるの。この国には滅多に来なくて……。」

「そうだったのか!……両親は花屋なんだよね?店の名前は?手紙を出すよ!」


 再び胸がずきっとする。フレデリックみたいな嘘つきにはなりたくなくて、代わりにこう答えた。


「秘密……。」


 目を泳がせた私の着地点は真下だった。私の罪悪感に気づかず、ロバートは笑った。


「あははっ。謎が多い女性は嫌いじゃないですよ。もっと知りたくなる。」


 彼は私を優しく見つめる。頭が上手く回らない。私はここから去りたいのか、ここにいたいのかわからなかった。そこへ彼の親友であるディーンは横槍を入れた。


「修道士が女の尻を追いかけてどうすんだよ。」

「聖職者でも輔祭ほさい司祭しさいは結婚できるよ。」


 恋する修道士は口をとがらせて言い返す。しかしすぐに私に笑顔を向ける。


「次はいつこの城下町に来るの?この国の冬の生誕祭はすごいよ!王族が町を行進するんだけど、お姫様が自ら聖マリアを演じるんだって。一緒に観に行こう!」


 お姫様と呼ばれてぎくりとした。彼は私がその姫だとは微塵みじんも思っていなかった。


「ああーーー!ずるーーい!あたしが先に誘おうとしたのにーーー!」


 生誕祭の誘いに私よりも反応したのは置いてけぼりにされたミランダだった。ミランダは私を横からぎゅっと抱きしめる。


「あたしたちにはガールズトークが必要なの!男はしっしっ!」


 ミランダは私を抱きしめながら、片手で追い払う仕草をした。


「僕だってロザリーと仲良くなりたいよ。」


 ロバートは両手を腰に当て、怒っているふりをする。ディーンはため息をついた。


「おまえは修道士だからむしろ生誕祭は忙しいだろう。主催する側なんだから。」

「そうだそうだ!教会に引っ込んでいろ!」


 ここでマシューが強気になる。ところがロバートの意見は意外なものだった。


「そんなの休めばいいじゃないか♪」

「「「おい!!」」」


 ディーン・マシュー・ミランダが3人同時にツッコミを入れる。私はぽかーんとしていたが我に返った。


「ごめんなさい。生誕祭の期間は忙しいの……。」


 これは嘘ではない。ロバートがさっき言った通り、姫である私は聖マリアに扮して町を行進するのだから。そもそも生誕祭の時期は誰もが忙しい。新年に備える必要もある。ロバートはころっと意見を変えた。


「そうか。じゃあ仕方ないね。で、次ここに来るのはいつ?」

「わからない……。」


 まとまらない会話に終止符は打たれた。4時の鐘が鳴ったのだ。もう帰らなければいけない。


「ひっ……ロザリーさま!」


 マシューは慌てて買い物袋を両手で抱え、私の手を引っぱった。


「ごめんなさい!もう行かなきゃ!」

「「ロザリー!」」


 ロバートとミランダに呼ばれた。だけどもうすぐ私はロザリーではなくなる。お姫様に……黄薔薇の姫に戻らなければならない。走りながら私は振り返る。


「ごめんなさい!手紙書くから!」


 そう叫んだあと私はマシューとひたすら城を目指して走った。ロバートたちが何を話すか知りたくて、つい聞き耳を立ててしまう。


「手紙って……僕に!?」

「あたしに決まってるでしょ!」


 ミランダの言う通りだった。私は雑貨屋宛てに手紙を書くつもりだった。手紙を教会宛てにすればロバートに届くが書く内容が思いつかない。……後にミランダから聞いたが、私とマシューが見えなくなったあと、ミランダは残った者同士でこんな会話を交わしたらしい。


「……で、あんたたち誰?」


 毎週日曜日に教会に行くミランダだが、ロバートとディーンとは面識が薄かった。

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