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第21話 予感

 その日の雑貨屋は、花も恥じらう乙女たちの明るい声に満ちていた。雑貨屋の娘ミランダはロザリー―こと私に様々な商品を紹介していたからだ。ミランダは先ほどの宣言通り私にリボンを見繕みつくろうとしていた。彼女はクリムゾン色のリボンを私の髪にあてがう。


「このリボン、色はいいけどあなたの髪につけるには安っぽいわね……。そうだ!バスケットにつけちゃえっ!」


 そう言うとレースを引っぱりだしてリボンと同じ長さに切った。さらにリボンとレースを重ねてバスケットの取っ手のはしっこに蝶々結びをした。ぐっとかわいくなったバスケットを見て私は息を呑んだ。


「まあ!素敵!」

「ねっ!このバスケットにリボンとレースを結ぶとかわいいでしょ?そんでもってこの中にビンを入れて花を飾れば……かわいい花器かきのできあがりっ!」


 店内にある雑貨を組み合わせ、ミランダは魔法のように素晴らしい作品を生み出した。それを私は感激して見ていた。


「すごいわ!この改良したバスケットは豪華な花瓶や鉢植えよりも魅力的よ!あなた天才だわ!」

「そんな~。大げさだな~。」


 そう笑いつつもミランダはまんざらではなかった。


「今入れたのは造花だけど、本物の花を飾ってもいいよね!これセットで買っちゃう?」

「もちろん全て買うわ!造花も含めて!」

「ありがと!全部まとめて1割引きしとくね♪」






***




 乙女の会話についていけず、疲れていたマシューは店の外で待っていた。商品である椅子に座ってぼ~っとしてる。すると彼がいる場所に向かって走ってくる少年がいるではないか。


「……ん?」


 最初はその男が何を言っているかわからなかった。しかし少年の声と顔が近づいてくるとマシューの顔が青ざめていく。


「げっ……。あれはまさか……。」

「ロザリーーー!どこにいるんだーーー!?」


 彼の目に入ったのは、彼が最も会いたくない男だった。





***






(ロザリー……。)




 誰かに偽名を呼ばれて私はきょろきょろする。バスケットのセットの購入を決めたが、その他の雑貨を見ていた。小物入れの説明をしていたミランダは私の変化に気づく。


「どしたの?」

「名前を呼ばれた気がしたんだけど……。」


 私は店内を見渡す。マシューの姿はさっきからいない。


「あたしはなにも聞こえなかったよ。」

「マシューが呼んだと思ったけど、気のせいだったかしら……。」


 男の声であることは間違いない。しかしマシューだったら「姫さま」か「ロザリーさま」と言うはずだ。声もなんだか違う。


 ミランダは話を再開した。


「こっちの小物入れはちょっと大きめで指輪とかブレスレットを何個か入れられるの。そっちの小物入れは小さいけどオルゴール付き!オルゴール付きのほうが高いけど、みんなどっちを買うか悩むんだよね~。」


 ご丁寧に彼女はオルゴールの音色を聴かせてくれる。しかし2つの小物入れを見ていると再びあの声が聞こえてくる。


(ロザリー……!)


「えっ?」


 私は顔を上げる。今度はさっきよりはっきり聞こえた。


「やっぱり誰か呼んでる……。」

「そう?オルゴールで聞こえなかった。」


 胸がざわめく。マシューの頼りないけれど親しみのある声ではない。父のように私を優しく包み込む声だった。






***




 マシューの顔が引きつる。目の前に恋敵がいる。自分の大好きなお姫さまを奪うかもしれない男がいる。金髪のちょっと男前な少年が息を切らせて雑貨屋にやってきた。自分と姫より年上であろう少年にマシューは身構える。


「きみ……秋の収穫祭のパーティーに来てたよね?」


 マシューは反射的に首を横にぶんぶん振る。


「ロザリーと一緒にパーティーを抜け出したよね?」


 休日の修道士は肩で息をしながら笑顔で訊ねた。マシューは秋の夕方なのに真夏の昼のように汗がだらだら流れる。


「そんな人知らない……!」


 修道士のロバートはなぜマシューが嘘をつくのかわからなかった。しかしマシューの様子からロザリーが雑貨屋にいると確信した。


「ロザリーは雑貨屋の中かい?」

「い、いないよ!」


 思わずマシューの声が上ずる。ロバートはにっこり笑った。


「なんだ。やっぱり知ってるじゃないか。」

「んぎゃああああああああああ!!」


 あっさり自滅したマシュー。ちょうどそこへ第三者が現れた。


「おまえマシューじゃないか……。最近見ないと思ったらこんなところでなにしてんだ?」


 画家のディーンだ。彫刻家であるマシューとは同じ芸術家同士、何度か会ったことがあったのだ。そこへさらに人が駆けつける。


「やっほー!どうしたのー?」

「マシュー!さっき叫び声が聞こえたけど……。」


 ミランダと私は雑貨屋から様子を見にきた。ロバート・ディーン・私・マシューが声を発したのはほぼ同時だった。


「あっ!」


「お?」

「えっ?」

「ぎょええええええええ!!」


 この不思議な状況にミランダだけが取り残されきょとんとする。


「え?なに?なに?なんで驚いてるの?みんな知り合い??」


 役者はそろった。様々な運命の歯車が絡み合い、動き出した……。

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