第2話 高慢
食事を済ませたあと親族と貴族たちは笑顔で私を祝福した。誕生日おめでとう、と皆が口々に言う。でも私は知っている。笑っている顔とは裏腹に彼らが私を疎ましいと思っていることを。多少無礼とは思いつつ私は彼らの心を覗いた。
(この娘さえいなくなればわしが王になれるのに。)
(姪とはいえこの子暗いから苦手なのよね。)
(わしの息子と結婚すれば息子が王になれるのう。)
(王位継げなくてもいいから結婚したいなあ……。)
(これが血の分けた親族の考えることなの?……愚かね。)
だがこれくらいの考えは貴族よりかはマシだった。わたしは気まぐれに遠くで固まっている男性たちの心の声を聞いてみた。
(なんて美しい姫だ。)
(いつ見てもお美しい。)
(我が妻としてむかえられたらなんと光栄なことか!)
(せめて彼女と踊りたい……。)
―……そんなことか。読む必要もなかったわ。
彼らはいつもと変わらない。あいかわらず遠くで私を眺めているだけだった。
―のんきなものね。こっちはあなたたちのせいで苦しんでいるというのに。
そのころ私は人の欲望や負の感情を恐れ人間不信だった。彼らの思いが私の人間嫌いに拍車をかけていたのに誰一人気づいてくれなかった。いつも私を離れて見とれながら夢を見ていた。なかには少しでも私を近くで見ようと舞踏場で気のない娘と踊る馬鹿もいた。
―暇ね。
特に深い意味もなく2人の踊るカップルを見た。私が目を向けたとたん、男性が微笑むのが見えた。
(やった!姫が私のことを見てくれた。こんなどうでもいい女と踊る価値はあったな。思ってたより近くで姫を見れた。私に興味を持ってくれただろうか?)
―……あきれた。
ワイングラスを片手に2人から目を離した。この男の顔など5秒で忘れた。ワインを飲みながら今度はダンスの相手の心を読んでみた。
(公爵と踊れるなんて素敵!姫ではなく私を誘うだなんて見る目があるわ。それにしてもあの小娘!この国の男どもを独り占めして……。あの小娘以外にも女はいるんだから!)
―当たり前でしょう。その公爵あなたに譲るわ。あなたに気がないみたいだけれど。
グラスに注がれた赤い液体を揺らしながらぼんやり考えた。
―あ、このクランベリージュースおいしい。
はずかしいがあのころの私はワインが飲めなかった。苦く感じたんだ。青臭いガキだったな。だから人前でワインを飲まなければいけないときいつもなにか別の赤い飲み物で誤魔化したというわけだ。あのとき飲んだクランベリージュースはうまかった。それにしてもあのとき思ったことを口にしていたらあの女は怒り狂っていただろうな。私を高慢娘と呼びながら。
―大人しくしているのが吉、ね。人間って本当に自分勝手。
だがあのとき私は自分がいつまで大人しくしていればいいかわからなかった。