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第17話 気になる人

 初めての外出から城に帰った夜、私はドキドキして眠れなかった。幸い誰にも外出したことはバレていない。生まれて初めて経験した仮装舞踏会、料理、ダンス、楽しい会話・・・なにより最後に踊った修道士のことが気になってたまらなかった。


(他の男性とも踊ったけど舞踏会のことしか話さなかったわ。でもロバートは私のことを知ろうとしてくれた。フレデリックはぼーっとしてて私の話をあまり聞いてくれなかった。きっと話の半分も覚えていないわ。でもロバートは……初めて私のことを姫としてではなく女の子として扱ってくれた……!)


 例の見習い修道士とやらは私が心の奥から望んでいたことをしてくれた。フレデリック男爵ほどかっこよくはなかったし背も高くない。少し変わった男だったが優しくて、紳士的だ。フレデリックのような小心者で自己中心なガキとは大違いだ。


(マシューも優しいけど私のこと姫として扱うのよね。私のことを女の子としては意識しているみたいだけれど。ロバートも私の正体を知っていたら姫として接していたのかな……また会えないかしら?)


 とにかく私はロバートのことが気になって気になって仕方がなかった。何日経ってもあいつのことが頭から離れなかったかった。そしてあいつも私のことを忘れられなかったらしい。私が城で暇をもてあましている間、あいつは町でいるはずのない私を探していた。












挿絵(By みてみん)


「すみません。ロザリーという方はここで働いていますか?」


 ロバートは西にある花屋を訪れていた。花屋のおばさんは肩をすくめた。


「うんにゃ。そんな子うちにはいないよ。」

「そうですか。ありがとうございました。」


 ロバートは他に質問をいくつかしたあと、お礼に黄色い薔薇を1本買う。町中の花屋を巡って7件目。1件ごとに薔薇を1本買っていたのでちょっとしたブーケみたいになっていた。赤、白、ピンク、黄色と色とりどりできれいだ。


 ロバートはふうと息をつく。秋とは言え日差しが暑い。たった一度会っただけの黄薔薇の姫……もとい、花屋のロザリーを暇さえあれば街中で探し歩いていた。もっとも、彼は姫の嘘を信じて姫を花屋の娘と勘違いしていた。絵の上手い友人に彼女の似顔絵を描いてもらい、会う人全てにそれを見せながら彼女を知らないか尋ねまわっていた。だが1週間経っても成果はあげられなかった。それもそのはず、大衆のほとんどは姫を間近に見たことなかったからだ。遠くからかろうじて姫の姿が見えたとしても顔など見えないに等しい。


 休憩しながらロバートは首をかしげた。


「おっかしいな~。あんなにかわいいなら誰か1人くらい彼女のことを知っててもおかしくないのに。なんでこうも見つからないのかな?」


 ロバートは似顔絵を見つめる。川のように流れる黒髪、夜空のような瞳、薔薇の蕾のような唇。友人のディーンは言われた特徴を忠実に再現していた。似顔絵を描かされたディーンは水を一口飲んだあと答えた。


「東の花屋にいたロザリーはババアだったし人違いだな……。それより本当にそのロザリーとやらは花屋の娘なのか?この国の花屋を全て回ったが誰一人彼女のことを知らなかったぞ。他国から来たとしてもこの国のどの花屋とも知り合いじゃないというのはおかしくないか?」

「親が厳しくて内緒で舞踏会に来たって言ってたから嘘ついたのかも。」

「それも嘘だという可能性は?」

「ほ、本当だと思うよ!あのとき悲しい顔をしていたんだ。」


 ロバートは彼女を思い出しながら庇う。憂いを帯びた顔はマスク越しとはいえ儚く美しかった。一方、彼女と直接会わなかったデイーンは顔をしかめる。


「彼女の言ったことがどこまで嘘でどこまで本当かわからない以上、探し出すのは困難だぞ。ロザリーって名前も偽名かもしれない。」

「うっ……確かに。」


 二人は同時にため息をついた。ロバートはぽつりとつぶやく。


「もしかして彼女は本当に薔薇の精だったのかも……。」

「バカなことを言うな。」


 ディーンは彼を小突いた。痛がる彼を無視してディーンは似顔絵を凝視する。


「描いていたときも思ったがどこかで見たことあるような……。」

「えっ!?いつ?どこで?知り合い?すれ違った人?……まさか元カノ?!」

「うるさい!!黙ってろ!思い出せないじゃないか!」


 ディーンは興奮したロバートをポカンと殴る。痛がるロバートをよそにディーンは黄色いバラを見て考え込んだ。

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