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第16話 いけないダンス

おひさしぶりです。6年ぶりに復活しました!(笑)

 お父様とお母様に内緒で来た町の安っぽいパーティ。陽気な音楽は一旦止まり、音楽家はスローダンスを楽しんでくださいと宣伝した。するとしっとりとしたバラードが屋敷内に流れる。幸いみんな自分のことに夢中で私が姫と勘付いた者はいなかった。だが私はと言うと早く帰りたいのに帰れなくて困っていた。さっきから修道士の格好をした男が私を離してくれないからだ。


 男は私と同い年か少し上のようだった。背は私より少し高い。顔はフレデリックのように美形ではないし、マシューほど地味ではない。良く言えば…………男らしい?とにかく私はむすっとした顔でその男と踊っていた。


「そんな顔しないで下さいよ。笑ったほうがかわいいですよ。」

「うるさい。」


 男の言葉にジト目で答えた。彼は私の反抗的な態度にひるまず会話を続ける。


「お嬢さん良い香りがしますね。薔薇の香りだ。職業は花屋ですか?」


 見当違いにもほどがある。まさか手を取り踊っている相手がこの国の第一王位継承者とは夢にも思わないだろう。薔薇の香水を身に付けていたのは果たして吉と出るか凶と出るか。


「ま、まあね。そういうあなたこそ何者?修道士さん。」


 ぎこちない笑みで話題をそらそうとした。彼から返ってきた答えは意外なものだった。


「アハハッ。僕は正真正銘、本物の修道士ですよ。……まあ、見習いですけど。だから僕は仮装しているわけではありません。」

「まあ!」


 私は彼の服を改めて見た。よく見たら生地と言い縫製ほうせいと言いしっかりとした出来だった。


「この教会の近くにある寮に住んでいるんです。お嬢さんはどこにお住まいですか?」


 訊かれたくない質問をされ私は目をそらす。一番最初に脳裏に浮かべたのは城だった。だけど城に住んでいるなんて言えるわけがない。次に思い浮かんだのは中庭の薔薇庭園だった。


「ええっと……お花畑?」


 不思議な答えに修道士は笑った。


「ハハハツ。本当に花屋ですか?もしかして妖精なんじゃないですか?それもピンクの薔薇の妖精。だってこんなにかわいいんですから。」


 私の頬がかあっと熱くなる。後日聞いたことだがマシューによるとこの時、私の顔はピンク色に染まっていたそうだ。


(この人ったらなんでこんなに恥ずかしいことが言えるの!?こっちが恥ずかしくなるじゃない!しかもお世辞じゃなくて本心だし……。この人、天然ね。)


 そう思っている間に相手の心の声が聞こえる。


(かわいいな~。)


―お黙り!


 自分の心の声は相手に届かないとわかりつつ悪態をつく。


「どこの花屋で働いているんですか?」

「ひ、秘密。」

「いじわるだな~。教えて下さいよ。」


 かわいい。いじわる。聞き慣れない言葉だ。子どものときは親にかわいいと言われたが、13を超えたときから褒め言葉はかわいいから美しいへと変わった。それにいじわるだなんて……才色兼備の私には似つかわしくない言葉だ。子ども扱いされて私はムッとした。彼の手を乱暴に振りほどき、怒っていることを示した。


「馴れ馴れしくしないで!私を誰だと思っているの!?」


 屋敷が一瞬静かになる。音楽家も演奏を止めた。人々はなんだなんだと私たちを見る。修道士の男はきょとんとした。


「……花屋の娘でしょ?」


 そう言われた直後、私の顔が赤くなった。……そうだ。そうだった。そういう設定でこの屋敷に来たのだ。王族で いるのが嫌でお忍びでパーテイーに来たのに、王族扱いされないことで腹を立てるのはおかしなことだった。


「そ、そうよ!今はジプシーの服を着てるけどね!」


 彼はにっこりと手を差し出す。私は頬をふくらませて彼の手を再び取る。音楽が再び流れた。周りの人はもう私たちのことを気にしていなかった。


「緊張しているみたいですがこういうパーティーは初めてですか?」

「はい。両親が厳しくて……実はこっそり抜け出してきたんです。」


 さっきから本当のことを言えず罪悪感があった。だからほんの少しだけ本当のことを教えた。


「それはいけない!引き止めてしまってごめんなさい。」


 修道士は慌てて私の手を離そうとした。けれどなぜだかわからない。私はあの時、反射的に彼の手を強く握ってしまった。互いの行動に驚き、私と彼はしばしの間見つめ合った。


「お嬢さん……?」


 修道士は優しく私の手を握り返す。心臓の鼓動がトクン、トクンと早まる。


「あ……ご、ごめんなさい!もう帰らなきゃ!」


 今度は私から手を離した。そしてハラハラした目で私を見るマシューと合流し、屋敷から出る。


「お嬢さん!」


 修道士に呼ばれた。だけど急がないと鐘が鳴ってしまう。シンデレラみたいに魔法が解けてしまう。


(胸が熱い……。あの人といるとおかしくなりそう!)


 この気持ちが何か知らないまま、私はマシューの持ったランプを頼りに走り続ける。


「僕の名前はロバート!君の名前は?」


 彼の問いに私は一瞬足を止める。


「ジャ……」


 危うく本名を言いそうになった。マシューは小声で「姫さま!」と呼ぶ。焦っている。


「ロザリーって呼んで!」


 そう言い残して私はマシューと全力で走った。


「ロザリー!」


 ロバートはランプの灯りを目印に私たちを追った。だけど私たちが何度か角を曲がると見失ってしまった。


「ロザリー!どこにいるんだ!?」


 彼は大声で私の偽名を呼んだが、すぐに冷たい夜風にかき消されてしまった。彼の叫びを聞いていたたまれない気持ちになる。


(ごめんなさい、ロバート。さようなら。またいつか会える日まで……。)


 ロバートだけでなく、マシューと私も胸騒ぎを覚えていた。

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