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第15話 素顔

 私はこの国の王委第一継承者だ。父と母に継いでこの国で3番目に偉い。なのになぜこんなことになったのだろう?


 私はしぶしぶある男と踊っていた。納得のいかない顔で。鏡を見なくてもわかる。きっと眉間に皺を寄せているに違いない。目を細めて顔中の筋肉を中心に集めていると感じるのだから。


「踊るのは好き?」


 彼は…………いや、奴は上機嫌で訊ねた。殴りたくなるほどニコニコ笑っている。憎たらしい。


「あんまり」

「そう?実は僕も」


 奴が微笑むのを見て私の顔の右半分がつりあがった。笑ったのではない。イラッとしたのだ。相手を困らせようと本音を言ったのに同意されてしまった。どうすれば私を離してくれるのだろうか。


 落ちた仮面を拾おうと手を伸ばしたら先客がいた。私より早く仮面を拾った彼は地味だった。黒いチュニックに白いカラー。おそらく修道士に仮装していたのだろう。つい反射的に顔を見てしまった。彼と目が合った瞬間悪寒がした。


―わっ!かわいい!


(げっ)


 よくあるパターンだ。これは一目惚れだ。そしていつも決まって私は一目惚れされるほうだ。私は見ず知らずの庶民に一目惚れされてしまった。何度一目惚れされても困るものだ。私にその気はないのだから。でもこの場合一目惚れされたことより素顔を見られてしまったことのほうが問題だった。仮装してまで城を抜け出したのに正体がバレたら大変だ。―姫さまーーー!!ギャーー!バレたーーー!ぼく死んだーーー!!


(……顔を見られた!やばい……!)


 マシューと私は焦った。ショックで頭が上手く回らない。仮面が剥がれたとたん急にこの場にいるのが怖くなった。魔法が解けてしまったように。とっさに逃げようとしたが腕を掴まれた。


「待ってください!落としましたよ!」


(くっ……)


 よく考えたら素顔のまま出るのはやばい。ここにいる客が姫である私の顔を知っているかどうかは不明だが兵士は知っているはずだ。仮面だけは受け取ろうと逃げたい気持ちを押し殺して踏みとどまった。


「……ありがとう」


 奪い取るように仮面を受け取った。うつむきながら仮面についたリボンを頭の後ろで結ぶ。こんなことなら髪の毛を縛らなければよかった。そうすれば少しは顔を隠せたのに。


「素敵な衣装ですね。かわいいです!」


 リボンを結んだと同時に去ろうとしたのに話しかけられた。日頃から美しい・綺麗とよく褒められるがかわいいと言われたのは初めてだった。


「そ、そう……?」

「仮面がないほうがいいのに……もうお帰りになられるんですか?」


 彼の言葉にほっとした。安堵の息をもらしたかったくらいだ。


(よかった……。私が姫だってことバレてないみたい。早く帰ろう)


 よく考えたら私は国の行事のときしか庶民の前に顔を出さない。大勢の人が集まったとしても遠くから私の顔なんてほとんど見えないはずだ。父と違ってコインに自分の顔が彫られているわけでもない。町にある私の彫刻や絵なんて限られている。それに普段とは全然違う格好をしているから私だってわかるはずがない。


―そうだそうだ!姫さまはぼくと帰るんだ!姫から離れろ!


 マシューの視線で背中がチクチクする。もっとも、マシューが威圧しているのは私ではなく修道士だけど。


「ええ。それでは失礼……」

「お礼にダンスの相手をしていただけませんか?」


 私は足を止めた。彼に背中を向けるまでは成功したものの引きとめられてしまった。意見を求めてマシューの顔を伺った。


―ダ・メ!なんかあいつ気に食わない。


 マシューは首を左右に振った。答えはノーだ。唇をきゅっと結んで今にも頬を膨らませそうだった。私は修道士と向き合った。


「ごめんなさい。急いでいるので」


 偽りとはいえ滅多に見せない笑顔で答えたのに相手は引き下がらない。


「恩人なのに?」


(うっ……)


 良心をつつかれた。一刻も早くこの場を離れたいところだが彼は仮面を拾ってくれた。ここは一曲ぐらい踊るのが礼というものだ。気が進まないが仕方がない。


「一曲だけですよ」


 彼はにっこり笑った。彼のありがとうございますという言葉はマシューの心の叫びによってかき消された。耳を塞ぎたくなるくらいわめいていた。解読不能の言語で。

早く完結させたいです。

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