第1話 虚無
はじめまして。見習い小説家のSagittariasです。ファンタジーを書くのは苦手ですがよろしくおねがいします。
美しさ
賢さ
身分
お金
この世で必要なものは全て揃っている
食べる物
身に付ける服
暮らす住まい
周りのもの全てが最高級
最大級に広く浅く愛され
最大級に狭く深く憎まれる
必要なものは真の愛
汚れのない友情
裏切られない愛情
不必要なものはこの力
人の心を読む力
人を惑わすこの外見
私はただわかってもらいたかった
でも誰もわかってくれなかった
私は黄薔薇の姫
でも本当の名前は………
~黄薔薇の姫~
「白馬の王子さまなんているのかしら?」
わたしは窓から顔を出していた。そこは城で最も高いところにある部屋だった。そこから見る景色は最高だけど、まるで鳥かごに閉じ込められているような気がした。外に広がるのは色とりどりの屋根。灰色の石のタイル。わたしの国の城下町は綺麗だ。どの通りも清潔だ。フランスやイギリスと違って汚物をまきちらさないからだ。ふと冷たい風が通った。自慢の黒い髪が風につられて踊る。教会の鐘が町中に響いた。
―そろそろ窓を閉めたほうがいいわね。
とある時代のとある国に私は王女として生まれた。生まれながら黒い巻き毛と黒真珠のような瞳を持っていた時点で既に私はめずらしい存在だった。一般的に知られている金髪碧眼の姫から遠いイメージだったからだ。ヨーロッパではわたしの髪と瞳の色は不自然だったかもしれないが、不思議と薔薇のつぼみのような唇と高い鼻に似合っていた。黄色を主役としたシルクのドレスに身を包み、黄色い薔薇を愛でていたらいつのまにか人々から『黄薔薇の姫』と呼ばれるようになった。
父も母も、召使いも国民も、さらには他国の王子からも私は愛された。誰もが私の美貌を褒め称えた。だが私はちっとも幸せではなかった。王子からのプレゼントは置き場所に困るだけ。王子に寄せられる好意は私を憂鬱にさせるだけ。大量の花束は城中の花瓶を占領し城中はお花畑。花は好きだがさすがにどこもかしこも花で埋め尽くされていると気持ち悪い。そもそも他人に褒められたり好かれたりしても嬉しくない。なぜなら大半の人々は私自身を愛しているのでなくて私の外見を愛していたのだから。
私は寂しかった。私の美しさと身分故に人々は私から距離を置いた。身の回りにいるメイドでさえ私といるときは緊張して話せなかった。貴族の男性に私から話しかけても相手は恥ずかしさのあまり逃げてしまう。逃げなかったとしても彼らは常に逃げる口実を考え私から離れたがった。一方私は貴族の女性には目の敵にされた。
貴族の女性たちは私に嫉妬していた。私が貴族の男性に好かれているのを気に入らないみたいだ。私は自分と歳の近い彼女たちと仲良くなりたかったが彼女たちは私を避けた。会話の輪に入ろうとすると彼女たちはわざと私の知らないことを話題にした。私の内面も知らないのに彼女たちは私を嫌う。ただ外見が綺麗で男性に好かれるという理由で。私はなにもしてない。望んで綺麗になったわけではない。男性に好かれたくて好かれているわけではない。私は常に孤独だった。
ん?なぜ他人と話さない私がこれらのことを全部知っているのかだって?ふふふ。それは簡単だ。私が人の心を読めるからだ。私の前ではどんな人の心も手に取るようにわかる。だからといって他人の心を操れるわけではないが。それに私が他人の心を理解できたころで他人が私の心を理解してくれないからなんの意味もない。貴族の男性の恋心も、貴族の女性の嫉妬心も知りたくなかった。生まれつき備わった迷惑な能力だ。
こんな能力を持っているし貴族たちと仲良くなれない以上四六時中部屋に引き篭もりたいところだがそうもいかない。私は王女だ。大切な行事があるたびに公の場に姿を現す義務がある。それを放棄したら王家の名折れだ。それにその日の行事は私が主役だった。父からもらったばかりの新しいドレスをメイドに着せてもらうと私は部屋を出た。
その日の廊下は花の量が半端じゃなかった。これら全ての花瓶は一体どこから仕入れてきたのだろう。大広間は大量のリボンと花で飾られていた。広間には既に自国の貴族と各国の王族で一杯だったが、私が来ると静まり返った。父と母の座る椅子にたどり着いたら外から花火の音が聞こえた。父に言われてバルコニーに出ると国民が歓声を上げた。
「姫様!お誕生日おめでとうございます!」
国民は拍手をしながら次々に賛辞を述べた。広間もたちまち拍手に包まれた。そう。今日は私の十六歳の誕生日だ。でも全く嬉しくないのはなぜだろう?私は無理やり笑みを浮かべるととお辞儀をした。
―最後に心から笑ったのはいつだったかしら?
ブログ連載のラブコメ小説『長髪の美少女』もよかったらどうぞ♪
http://blogs.yahoo.co.jp/sagittariaschu/folder/430520.html?m=l&p=15
『黄薔薇の姫』とはまるっきり印象が違います。