表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

4 誕生日

 アリソン、18歳の誕生日。それは物語の始まりがまた少し近づいてきたということだ。


「仰る通りでした。クローズ家は密かに預言者と手紙をやり取りしています。それから一部の王族とも」

「そう」


 アリソンは自室でギルバートからの報告を受け、ため息をつくのを我慢した。


(もしかしたら私が頭をぶつけた衝撃で、ただありもしない妄想が浮かんだだけかも~なんて思ってたけど)


 やはり前世の記憶通りにことが進んでいることが少しだけ怖かった。アリソンとその家族を痛めつける準備を進めているということだ。


「ご心配なさらず。必ず俺がお守りしますから!」


 彼女の緊張した顔を見て、ギルバートは安心させようと、わざとらしく少年のような明るい笑顔を見せた。アリソンはその眩しさに思わず目を覆う。


(くぅ~! 原作のアリソン! よくこれに耐えられたわね!?)


 原作ではこの時点ではギルバートのことを『大切なお友達』と表現していた。あくまで自分を守り、なんでも話せる幼馴染として彼を見ていた。


(惚れてまうやろっ! って今はそれどころじゃないのよ!!!)


 恐ろしい未来の記憶を無理矢理思い起こして、スッと令嬢に相応しい顔に戻した。


「ありがとう。くれぐれも相手に悟られないように」

「もちろんです。事前に未来の情報があるので助かってますよ」

「王太子の方は?」

「こっちの方はチョロイですね。……でも、本当によろしいので?」


 ギルバートは心配そうな目をしていた。王太子に恋するアリソンのことは知っていたので、これから起こることに彼女が本当に耐えられるのか疑問だったのだ。


「やっちゃいましょ! 片付けられるなら早い方がいいわ」


 アリソンは不敵に笑って見せた。そしてそんな彼女を見てギルバートはすこし驚いている。


「アハハ! こんなアリソンは嫌かしら?」

「とんでもない。どんなアリソン様でも最高ですよ」


 ギルバートもちょっと悪い顔をして彼女を見返した。そうして、2人で笑いあった後、


「さあ! 出陣よ!!!」


 パチン! とお気に入りの扇子で手を打った。


 アリソン、18歳の誕生日パーティの時間だ。


◇◇◇


「体調は大丈夫かい?」

「もちろん! こんなにたくさんの人に来ていただいてとっても嬉しいです!」


 父クリフはずっと娘を心配していた。以前パーティに参加した時、彼女はあまりの人だかりに圧倒されて倒れてしまったのだ。


 アリソンは未来の聖女と預言されながら、家族以外はほとんど交流なく過ごして育っている。それは彼女の命を狙う者や、彼女に擦り寄る者、利用しようとする者が後を絶たなかったからだ。家族はアリソンを守るために、決して最善とはいえないとわかっていながら、しかたなく彼女を世間と切り離した。


 蝶よ花よと育てられてきたのだ。全ての悪意から隔離されていた。


「アリソン様! お呼びいただき光栄です!」

「こんなに素敵な方とは……!」

「皆様! どうもありがとう!」


 表情筋が筋肉痛になるほどアリソンは微笑み続けた。


(単純接触効果だっけ?)


 これでもかとたくさんの人と挨拶を交わした。事前に名前や趣味を覚えその話題を振ったり、持ち物を褒めたりと好感度を上げるために営業スマイルを振りまく。

 もちろんこのパーティ以前も、記憶を取り戻してから出来る限り多くの人と会うようにしていた。

 主に同世代とのお茶会だが、未来の聖女を招きたがる家は多く、短期間でもそれなりに交流することはできていた。


(前世)営業マンなめんなよ!!!)


 もう以前のような弱気なアリソンではない。ストレス耐性にはそれなりに自信がある。精神より肉体の方が先にダウンするくらいだ。


 原作でデボラにあっさり負けたのも、過保護に育てられたが故に、実際のアリソンを知らない人たちが悪い噂の方を信じてしまったからだ。


(そりゃ皆自分の知り合いの味方をするわよね)


 クローズ家も最近頻繁に夜会を開いている。男爵家なのでまだそれほど高位の貴族は参加していないようだが、新しい預言を世間に流せば話は変わってくるだろう。打てるだけ手を打っておかなければ。


「あなたが急に誕生日パーティを盛大にやりたいなんて言って驚いたわ」

「せっかく家族と過ごせる最後の誕生日だから、思い出になるようなことをしたくって……お爺様とお婆様も呼んでくださってありがとうございます!」


 母クロエの実家は隣国の大商家べリエ家だった。両家共に結婚には反対していたため、アリソンの両親は駆け落ち同然に家を出たのだが、アルベール家の方が折れて現在に至る。今回、アリソンの強い要望で母方の祖父母をこの誕生日パーティに呼び寄せたのだ。


(間に合ってよかった)


 タイミングとしてはギリギリだった。隣国レグシア大帝国の首都は遠い。そこまで手紙を届け、さらにあちらからノベラス王国まで来てもらう必要がある。

 ただ、祖父母が来ない。という心配はなかった。


(原作ではずっと仲直りするタイミングを狙ってたって書いてたし)


 だがそれは永遠に訪れなかった。母クロエはこの国を追い出された後、レグシア大帝国に辿り着く前に病死してしまう。クロエを勘当したことを酷く後悔して泣き叫ぶ祖父母の描写があったのだ。

 彼らは孫であるアリソンを大切に保護したが、すでにその頃には復讐の炎にのまれていたアリソンは、祖父母宅から持てるだけの金品を盗んでノベラス王国へと舞い戻るのだ。復讐の為に。


「お母様はお爺様たちとお話できましたか?」

「ええ! ……ありがとう。私の為なのね?」

「いいえ。私が会いたかっただけですわ!」


 そう言って2人で微笑みあった。


 祖父母は今、たくさんの人に取り囲まれていた。貴族以外の平民など、その辺の虫けら扱いするこの国の貴族ですら、べリエ家は別格だった。母クロエの実家は誰もが繋がりを持ちたがるような大商家なのだ。


「みーんな手のひらクルリよ! もっと早く言えばよかったかしら?」


 クスクスと面白そうに小さく笑っている。


(そーだよ! 真面目なんだから!)


 母クロエは長い間、この国の貴族社会の中で平民出身だと馬鹿にされて生きてきた。だが決して実家の名前は口には出さなかった。それが家族を振り切って結婚した自分への罰だと言わんばかりに。


(これで新しい預言が出ても少しはマシでしょう)


 アリソンが祖父母を呼んだ理由は3つ。


 1つは母の実家べリエ家の存在を見せつけること。


(パーティに間に合わなかったら効果は半減だったし……本当に良かった)


 国境付近でギルバートの友人がずっと見張っていてくれたのだ。もしアリソンの祖父母がやってきたら、すみやかに王都の屋敷まで()()()するように。

 新たな預言の後、これまでアルベール家に擦り寄って来ていた貴族や金持ちの多くがクローズ家へ寝返ったのだ。偽物だと責め立てる側に立ち、国外追放処分された時も誰も助けてはくれなかった。利がない、と思われたからだ。

 原作では母クロエが実家に助けを求め連絡しようとしても、誰も信じなかった為に手助けしてくれる人もおらず手詰まりになってしまっていた。


 2つ目は原作通りに国外追放となった場合への備えだ。


 用意周到なクローズ家のせいでレグシア大帝国(祖父母宅)側ではなく、アルベール一家は不毛な土地が続く、もう1つの隣国ドゥスト王国側に放り出されてしまった。これからどうなるかわからないが、母の実家ベリエ家はドゥスト王国とも繋がりを持っている。この家名の力を使わない手はない。


(もちろん、最初からレグシア大帝国へ移住できるのが一番なんだけど)


 どうなるかわからない以上、悪い方の可能性にも備えなければ。

 

 3つ目は、やはり母クロエが生きているうちに両親に会ってもらいたかったからだ。

 それは上手くいった。祖父母と母の、嬉しさがはちきれんばかりの表情を見て、アリソンは心底嬉しくなった。これから待ち受ける試練への励みにも。


「上手くいってよかったです」

「お陰様で。いい仕事してくれたわ」


 アリソンの側で護衛しているギルバートも嬉しそうだ。


「……例の件は?」

「もうそろそろかと」


 2人は、会場内にアリソンの婚約者アーロンと、とある令嬢の姿が見えないのを確認した。


「本日のクライマックスね」


 アリソンの楽しそうな声を聞いて、ギルバートは面白そうに笑ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ