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2 復讐回避計画①

 アリソンは自室の机に向かって羽根ペンを走らせている。原作の内容で思い出したことを洗いざらい書いているのだ。復讐姫にならないように。そしてこれから出来ることを書き出す。どういう()()()を迎えたいかも。


 終わりはもちろん決まっている。


「絶対にハッピーエンドよ!!!」


 今の暮らしのまま、穏やかで楽しい毎日を送りたい。業火の中で死ぬエンディングは何をどうしたって受け入れられない。


(あー恐ろしいっ!)


 とてもじゃないが幸せとは言い難い終わりだ。


 それにクリアすべき課題もあった。


(生活水準も維持しないとよね……)


 生粋の貴族である父と弟、大商人の家に生まれた母が、今更平民の生活をおくれるかというと不安が残る。

 アリソンは自分のせいで彼らが必要以上に苦労するのは避けたかった。だからそのために今頑張ることに少しの抵抗もない。何が何でも幸せな未来を勝ち取ってやるとアリソンは意気込んでいる。


 逆に少しのやる気も起きないことも。


(聖女も王妃もめんどくさ~い)


 以前のアリソンだったらあり得ない思考だ。これまで人々のためのその力を尽くそうと日々勉学に励み、治療魔法の練習も怠らなかった。

 

 だが今のアリソンは前世で過労死した記憶まできっちり戻っている。誰かの為になると働いて結局なにも報われなかった。彼女が体調を崩した後も代わりはいくらでもいたのだ。

 

 だから今世は自分と、自分を大切にしてくれる人の為に生きようと決めた。無責任だと言われても構わない。どうせそんなことを言う奴は、アリソンがデボラにこの国から追放されても助けてくれることはないのだから。


「私が責任を取るのは私を大切にしてくれる相手だけよ!!!」


 その場にいもしない誰かを怒鳴りつけるように声を荒げた。理不尽な未来を受け入れないという自分への宣言でもある。


(物語が始まる前に逃亡も考えたけど……)


 曲がりなりにも『聖女』と預言された少女が、勝手に国外に行くのは難しい。この能力は他国でも歓迎されるものだが、残念ながら治癒魔法を使えるのは国内領土だけなのだ。他国ではその力は極端に減退する。


(建国の際、初代国王が大地の精霊との契約で得た力って話だけど……その対価が乙女の血って生臭い話は本当かしら……)


 どうも『復讐』とタイトルにつくだけあって、おどろおどろしい伝説が多いのがこの国の特徴でもあった。


「そもそも前世みたいにお金さえあればあとは飛行機ビューンでどうにでも……って世界でもないし」


 他国に出るにはそれなりに下準備も必要なのだ。


 直近で起こる予定の未来を書き連ね、アリソンは唸る。


「うーん……大神殿に行くことはもう避けられないな。預言をどうにかして、うまいこと国外移住するほうがいい気がするのよね」


 国外の移住先についてはあてはあった。だが、


(でもその()()()()()って?)


 椅子に寄りかかり、腕を組んで頭を悩ませる。


 間もなく悪役のデボラが登場する。新たな預言と共に。それを阻止するにはもう間に合わない。この計画自体、彼女たちは1年以上前から考えているのだ。


「あの女たらしが好みって……いやわかるけど!」


 アリソンの現婚約者である王太子アーロンは、婚約者がいるにも関わらずあっちこっちの令嬢に声をかけていた。もちろんアリソン()()とても優しいが、そもそも一途に1人を想い続けるアリソンとはタイプが違う。純粋で箱入り娘であるアリソンは彼が浮気するなど全く疑うことはなく、()()()()()()()王子様のことが大好きだった。


(あああ……ただのいい子ちゃんじゃ悪意の塊デボラには勝てないわよね~)


 前世の記憶が統合された今、アリソンはアーロンに以前と同じ感情を向けることは出来なかった。アリソンの恋心に水を差すような前世の記憶が憎らしく思える。


(恋くらい楽しくしたいのにっ!)


 記憶が統合された今のアリソンは、女たらしでちょい悪な男に惹かれる気持ち()よく理解できた。なによりアーロンは顔がいい。淡いブラウンヘアに黄色い瞳がミステリアスだ。


(目の保養にはなるのよね~)


 誰かに自慢するための恋人ならいいが、苦楽を共にする結婚には向かない相手だ。

 その認識が、どんどん彼女の恋心を冷ましていった。 


「さよなら今世の私の初恋……ま! 今はそれどころじゃないからちょうどいいか!!!」


 今のアリソンは原作と違い、なかなか立ち直りも早い。


 今度は机に肘をついて考える。何がアルベール家にとって幸せな未来に繋がるか。


「そもそも聖女って……ただの権力者専用の医者じゃん」


 現聖女の主な仕事は、権力者の治療を行い、神殿の味方に引き入れることだった。聖女は高レベルな治療魔法の使い手の代名詞なので、彼女に縋る人間は多いのだ。もちろん、寄付金もたくさん集めることが出来る。


 本来は、というよりかつては全ての人々の為に聖女は存在した。毎日大神殿前の広場に病人や怪我人を集め、分け隔てなく治療した。だがいつしかそれもなくなってしまう。それが可能なほどの力を持った聖女が生まれなくなってしまったからだ。


 アリソンは『歴代最高峰の聖女』という預言を受けて生まれた。そのニュースは国内を沸かせたという。特に平民はまた以前のように誰でも治療魔法の恩恵を受けることが出来るのだと期待した。


 それは聖女と並ぶ神殿の最高権力者となる『預言者』、その()預言者によるものだった。


『アルベール家に歴代最高の力を持つ聖女が生まれる! 彼女こそが真の聖女である!』


 彼が死の間際に叫んだその言葉は、タイミングの悪さ故に、後にただの妄言だったとデボラ側に利用されることになってしまう。


『彼女こそが()()聖女』


(この言い回しがデボラ出現の預言でもあったってことだったけど、それならデボラは偽物! ってちゃんと言ってよ!)


 そしてデボラがこの国の聖女となってしまったがために、王都は炎に包まれることになるのだ。


 すでにこの世にいない人に文句を言っても仕方がないことがわかっていながらも、原作の恐ろしい未来を考えると不満が出ても仕方がない。


 デボラを真の聖女とする預言は、()預言者マレリオによってもたらされたものだ。

 預言者の仕事は国内で起こる災害の事前警告。だが今の預言者は力が弱く、大きな災害の預言を何度もし損ねていた。もちろん民衆からの人気もなくなり、神殿離れの原因にも繋がっている。そう焦っていたところに、デボラの実家クローズ家が大金で彼を買収したのだ。


 はあ。と大きくため息をつく。


 デボラはアリソンに敵意を持って接していた。誰からも愛される彼女が目障りで仕方なかったようだ。何より、彼女は王太子アーロンに熱烈な恋をしていた。今から原作のように数々の嫌がらせを受けるかと思うと気が滅入る。


(聖女のポジションも王太子も今はもういらないのにな~……)


 デボラと手を組むのは難しく感じていた。彼女に全て渡してもいいというのに。

 原作での彼女の行いを見ると、ほんの少しもアリソンに情けをかけることはなく、徹底的に潰しにかかってきた。デボラの実家のクローズ男爵家も積極的にバックアップし、アルベール家は失墜する。


(クローズ男爵家は有り余る財産があるって設定だったし、金じゃあ勝てないのよね~)


 そもそも爵位も金で買ったようなものだった。よっぽど貴族という身分が気に入ったのか、爵位を上げるためにあれこれ画策しているシーンも原作にはあった。娘が王妃になるのなら、それこそ出世間違いなしだ。


 それに原作で王家も、偽聖女と言われる伯爵家の娘よりも、真の聖女であり実家が大金持ちの男爵家の娘との婚姻の方が利がある、と判断していた。

 アーロン本人に至っては、別に誰が婚約者だろうが関係なかった。彼はいつも女性を追いかけており、それにデボラは酷く苛立っていたエピソードが頻繁に登場している。


「やっぱり国外に出るのが一番よね~」


 長く暮らしたこの国に未練がないわけではないが、安全な生活には代えられない。デボラが力を手に入れても入れなくても、きっと一家にとっていい未来はここにはない。


「よし。まずは片付けやすい方から片付けよう」



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