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14 新生活


(思ってた生活と全然違う!!!)


 デボラは王城にある寝室でギリっと強く歯を噛みしめていた。新婚だというのに夫である王太子アーロンはここにはいない。


(こんなはずじゃなかったのに!!!)


 悔しいが、これが現実だ。


「私の夫はどこにいったの!?」

「そ、それは……」


 夫の従者を呼びつけ文句を言ってもどうしようもなかった。流石のデボラもアーロンが新しい女を物色しにいっているのだと見当がついている。


(酷いわ! あれほど私に夢中だったじゃない!)


 アリソンの言う通り、自分を追いかけさせている間はよかった。夢中になって自分を求めるアーロンに深い愛を感じ満たされていた。


『このままほどよく追いかけさせるのよ』


 アリソン最後のアドバイスは無視した。せっかく一緒になれたのに。ありのままの自分を見て欲しい、愛して欲しいと、アリソンと作り上げたキャラクターを壊したのだ。

 デボラは情熱的な女だ。思いっきりアーロンと愛し合いたかった。だがそうした途端、アーロンの方は火が消えるかのように自分への興味を失っていった。相変わらず優しいが、その優しさは多くの女性に向けるそれと同等のものだとわかっている。


「早く連れ戻しなさいっ!」


 ヒステリックに叫んだあと、ハッとする。こんな風になるのは久しぶりだと。大嫌いなアリソンと一緒にいる時は毎日むかっ腹が立ちながらも、叫びたいほど激昂することはなかった。毎日沢山やることがあってそれどころではなかったのだから。

 デボラは、アリソンからの結婚祝いの贈り物の中に入れられていた、『扇子』を仕舞い込んだドレスルームの扉を睨みつける。

 

「デボラ様……明日も早くからイザベラ様とのお約束がございます。お辛いかと思いますが、お休みください」


 侍女が怯えながらも声をかけた。


『後ろから刺されないようにね! あと、火にも気を付けて』


 ニヤリと悪い顔で笑っていたアリソンを思い出す。


(忌々しい! ……けど今はまだ耐える時ね)


 デボラはこぶしにギュッと力を込めた。


「ごめんなさい……悲しくてあなた達にあたってしまったわ」

「とんでもございません!」


 従者は罪悪感がにじみ出ていた。彼はアーロンの行先を知っている。だが、デボラに言うわけにはいかない。たとえ彼女がすでにアーロンの行方を知っていたとしても、彼の口からは言えなかった。怒りと悲しみを抑え、下の者にも謝罪ができるデボラを前にして、自分の主人の不誠実さがより際立つように感じた。


「なにか温かいお飲み物を用意いたしましょうか?」

「ええ。ありがとう。お願いするわ」


 暗い顔だった侍女があっという間にホッとするように表情を変えた。


((そうそう上手いじゃなーい! 下手に敵を作って後で困るのは貴女よ~))


 と、脳内のアリソンが自分を褒めている。


(まるで呪いね! あの女、いなくなっても頭の中にこびりついてるんじゃないわよ!!!)


 デボラは心の中で舌打ちしながらも、侍女の言う通り大きなベッドに1人横になる。明日の聖女イザベラとのマンツーマン講座のことを考えて憂鬱な気持ちはあるが、脳内のアリソンが、


((今こそイザベラ様の影響力を利用するのよ! 取り入って泣きつきなさい!))


 と、騒いだ。


(そうね……イザベラ様から陛下に苦言を呈してもらいましょう。そうすれば無視できないはずだわ)


 解決策を1つ思いついたことで、デボラは落ち着いて眠りにつくことが出来たのだった。


◇◇◇


「私を……私だけを愛しているとおっしゃったではありませんかっ!」

「そう言うな……私にも立場というものがあるんだ。次期聖女と婚姻を結び、冷え切った神殿との仲を回復させるのも王太子の務めなんだよ」


 とある令嬢のベッドに横たわり、少し面倒くさそうにアーロンは答えた。

 デボラがアリソンからの妨害にあい大人しく過ごしたせいで、本来なら原作デボラとその実家クローズ家に潰されていた、アーロンが追いかけたり、アーロンに群がる令嬢達が今はピンピンとしていたのだ。結果、彼女達の多くがアーロンの毒牙にかかってしまっていた。


(この娘もそろそろお終いだな。初心で従順だったから相手をしてあげていたというのに……)


 やれやれ鬱陶しいな、という表情が顔に現れていた。


「私を騙したのですか!? 婚約者とも別れたのに!」

「そんなこと頼んでいないだろう? 神殿との関係上、妻以外の女性を王宮に入れるわけにはいかないんだ」


 ゆっくりとベッドから起き上がり、服を着始める。泊まる予定を取りやめた。彼は口うるさい女性は好みではない。


「酷い! 酷すぎるわ……私はこれほどまで愛を注いでいるのに……」

 

 今度はシクシク泣き始めた。そんな彼女を見てアーロンは大袈裟にため息をつく。陰気な女も彼の好みではない。


「じゃあもう君の愛は結構だ。残念だがこれでお終いだね。どうか他の誰かと幸せになってくれ」

「いや! いやよ!!!」  


 縋るその手をアーロンは何の感情もなく振り払う。その勢いで令嬢は机に激しくぶつかってしまった。なのにそちらに見向きもせずに身支度を整える。


「……許さないっ!!!」


 震える声の彼女の手には、小さく鋭利なペーパーナイフが満月に照らされて光っていた。そこでようやくアーロンは自分の置かれた状況に気が付いた。


「や、やめろっ! 落ち着くんだ……!」


 流石のアーロンも美しい顔が恐怖に歪む。これまでこのようなことがなかったことがただ幸運だったに過ぎない。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

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