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83話

 まさか月坂さんにそんな事を言われるとは思わなかったな。


 「なるほど……理由を聞かせて貰えますか?」


 身構えていた月坂さんに俺は理由を尋ねた。


 「怒らないのですか?」


 意外そうな顔で月坂さんが言う。


 「月坂さんが理由もなく侮辱する筈ないですからね。怒る理由がありません。それよりも、怒られると思ったという事はそれを覚悟の上だったという事ですね?」


 「暴力を振るわれるとまでは思っていませんでした。ですが、怒鳴られるだろうと言うのは覚悟していました」


 暴力を振るわないと思っていたという事はそこそこ信用されてはいる様だ。では、覚悟を決めてまで彼女は何を俺に伝えたいのだろうか?


 「では、そんな覚悟を決めてまであんな事を言ったのは理由がある筈です。それもあの発言と繋がっているのでしょう?なので、改めて言います。理由を聞かせて下さい」


 「すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~市原君、配信者に真摯に向き合うつもりだと言っていましたが、配信をする前からスパチャの事やグッズの事など色々言っていて本当に真摯に向き合う事が出来るのでしょうか?」


 深呼吸をした後、俺に挑むような顔でそんな事を言った。


 「それは……」


 直ぐに答えようと思ったが言葉が出なかった。


 「市原君、あなたが自分の都合の良い様に配信を利用して影響力を得ようとしている事と、上流階級の人間があなたにしようとしている事は同じではありませんか?」


 「っっ!?」


 ハンマーで頭をガツンと殴られたような心境だ。


 「俺が…同じ事をしていると?」


 怒りなんかよりも悲しみと言うか何と言うか言葉に出来ないなこの感情は……


 「私には同じように見えます。市原君も上流階級の人間も自分が損をするのは嫌、だけど利益だけは得たい。その為に他者を自分の都合に良い様に動かしたい。違いますか?」


 「……」


 「月坂さん、それ以上はご容赦を」


 愛莉さんが月坂さんを止めた。


 そうだ。俺は力を得る為に奴らと同じ様な事をする所だったんだ……


 「うぷっ……うげぇっ!」


 「春人さんっ!?」


 俺は自分のあまりの身勝手さや当然のように奴らと同じ様な思考をしていた事やそれに違和感を感じなかった事などが気持ち悪さとして感じられてその場に吐いてしまった。


 「はぁ…はぁ……すいません。掃除はするので」


 俺は息を整えながら言う。


 「そんな事はどうでも良いです!直ぐに病院に!!」


 愛莉さんがこんなに焦っているのは見た事が無いななどと思っていた。


 「病院は大袈裟ですよ。大丈夫です。それよりも月坂さん」


 俺は持っていたハンカチで口を拭きながら月坂さんの名を呼ぶ。


 「はい……」


彼女は顔面が真っ青で掠れた声で返事をする。


 「最大限の感謝を」


 「えっ……」


 俺の感謝の言葉に月坂さんは呆然とした表情をする。


 「俺が道を誤らずに済んだのは月坂さんが覚悟を決めて苦言を呈してくれたからだ。故に最大限の感謝を」


 隣の国の人では無いが、じゃんけんのグーをパーで包むアレをする。最初は土下座しようかと思ったんだけどさ……


 いやほら、醜態をさらしたからカッコつけたかったしさ~あとやっぱ俺の吐いたものがある床で土下座はねぇ…… 

ここ数話春人が嫌な奴になっていましたが、それはアレですね。男性優遇の世界に慣れてきた所に上流階級のあの汚いやり方にショックを受けて歪んだのでしょう。


ですが、止めてくれる人がいたので道を誤る前に何とかなりましたって言うのを書きたかったんです。


最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。

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