82話
「概ねその通りです。ただ付け加えるなら、通りがかった人は水を出せる能力を素晴らしい能力だと思っていません。だから、その能力は素晴らしいという事を教えなければならないのと、その水を他の砂漠にいる人たちにも配りたいと思っているのです。その為に自分の人生を賭ける事は――いえ賭ける事が出来るのは幸せな事だと思っています」
「なるほど……月坂さんは良い人と言うかお人好しなんですね。他人の為に自分の人生を賭ける事が出来るなんて……」
決して嫌味などではない。純粋に感服したのだ。
「そんな事はありませんよ。私が能力の恩恵を受けていなかったら、そもそも他人に分け与えようなんて思わなかったでしょう。余裕が無ければ他者に施しなど出来ません」
う~ん……まぁ、それはその通りだけど、でもだからって余裕がある人全員が他者に施しをするかと言われるとそうでは無いだろう。
ってか旅人じゃなくて私って言っちゃってるし……うすうす気付いてはいたけどな。
旅人は月坂さん、通りがかった人が俺、砂漠は多分日本の事かな。水を出す能力って言うのは分からないが……
前者だけ伝えると――
「いいえ、逆です。だって、通りがかった人は自分の能力の凄さを分かっていません。だから、彼には私が必要ですし、彼の傍にいれば水が貴重な砂漠で水を何の不安も無く得る事が出来ます。私は間違いなくお人好しではありません」
ふむふむ……いや、それは寧ろ当然の権利じゃないか?あと、通りがかった人が彼って言ってるぞ。やっぱり俺だよなぁ?
「それに、私一人が能力の恩恵を受けていれば間違いなく他者に嫉まれます。だから、自分の身を守る為にも水を分け与えないといけないんですよ」
あ~なるほどなぁ。前世のアメリカで金持ちが寄付したりチャリティーをしたりする理由と一緒って事だな。
「市原君、私は市原君のプロデュースをします。ですが、それにあたって一つ、条件を付け加えさせて貰えないでしょうか?」
「月坂さん、場合によっては私は貴方を無力化します。その事はお忘れなきよう願います」
おおっ!?不穏なものを感じたのか愛莉さんが会話に割って入った。
「承知しております。男性警護者である太刀川さんが私を無力化しなければならないと判断すればどうぞ、無効化して下さい」
「愛莉さん、いくら何でも物騒すぎます……それで月坂さん、条件とは何でしょうか?」
「はい。条件とは――配信をするにあたって視聴者と真摯に向き合って欲しいという事です」
ドンッ!と言う効果音が出そうなところではあるが、何と言うか思っていたのと少し違う。
「え~と……僕は最初からその気でしたよ?些か抽象的だなとは思いもしますが……」
そうじゃないと影響力を持てるようなインフルエンサーにはなれないだろうからな。
寧ろ当然の事だと思っていた。勿論、只のアンチやはた迷惑な奴にはそんな事をする気は無いが……
「私も配信者の視聴を趣味――いえ生き甲斐にしている身ですからあえて言わせて頂きます。今のままの市原君では視聴者と真摯に向き合っていけるとは思えません」
俺は月坂さんにハッキリとそう言われた。
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