81話
「月坂さん、面倒事に巻き込まれると分かっているのに、どうして僕に協力しようと思ったんですか?」
「理由が知りたいんですか?」
「勿論です。こういう言い方はアレですけど、僕と月坂さんの関係は只のクラスメートでしかない訳じゃないですか?それなのに、どうして僕の為に人生を賭ける覚悟があると言ったのでしょう?」
この世界は女性にとっては生き辛い筈だ。そして、開黎高校と言う高偏差値の共学校に入学すると言うのは並大抵の努力で成しうる事では無い筈だ。
つまり、彼女にはこれから先によっぽどの事が無ければ明るい未来が約束されているだ。それなのに、何故それをぶち壊すような決断が出来たのだろうか?いったいどんな理由があれば……と気になるのは当然だろう。
そういう事も付け加えて言った。
「明るい未来が約束されている…ですか……そんなものはありませんよ」
彼女の返答は自嘲と共に告げられた。
「開黎高校を卒業して良い大学に行って、良い企業に就職して一生安泰な人生?そんなものは幻想です」
「幻想……」
彼女の言葉をオウム返しするしかなかった。それ程彼女の発言に衝撃を受けたのだ。
「それが幸せだと思う女性は勿論います。否定はしません。ですが、私は違います。市原君は私との関係を只のクラスメートと言いました。ですが、それは絶対に違います」
「え~と……」
彼女の発言にさっきから圧倒されっぱなしだっだが、この発言には戸惑いしかない。一緒のクラスで過ごした相手がクラスメートじゃないってどういう事?
「市原君では無く他の世の男性に聞いてみたら何と言うでしょう?答えは一つです。『赤の他人』これです」
「えぇ……」
いや、そりゃあそうだろうけどさ~そういう事じゃないと言うか、もっと他の言葉があるだろう。同級生とかさぁ……
何と言うか極端なんだよなぁ表現が。そんなの血縁関係以外は全て――夫婦だって赤の他人だろう?
「世の男性の全てがとは言いません。ですが大半の男性がそう言うでしょう。そんな中で市原君の答えは『クラスメート』これがどれ程の事か少しは理解して貰えましたか?」
俺の戸惑いと言うかドン引きをスルーして月坂さんはそんな事を言う。
「申し訳ないのですが、僕には戸惑いしかありません。僕はそんな大それた事を言った訳でもした訳でもありません。それなのに、偉業を成したみたいな言われ方は……」
月坂さんとの関係は只のクラスメートだから月坂さんの人生に責任は持てない。そう言ったのに、僕に人生を賭けられるなんて言って協力してくれる気なのは何故ですか?
その答えがコレでは戸惑って当然だろうと思うのだが……
「市原君はそのままでいた方が良いと言うよりも、そのままでいて欲しいです。市原君にも分かって貰える様に例えて言うのなら……ある旅人が砂漠を彷徨っていたので喉が渇いています。オアシス所か水たまり一つありません。旅人はもう死ぬのかなと思って絶望していたら、たまたま通りがった人が手から水を出す能力を持っていたのです。その水を貰った事で喉の渇きを潤す事が出来て助かったと言った所でしょうね」
あ~まぁ、何となく分かったかな。多分……
「その~つまりは、砂漠にいるからこれからも生きる為に通りがかった人から水を貰いたいという事でしょうか?」
月坂さんの例えで返答するのはどうかと思ったのだが、俺がどれ位理解しているのかを分かってもらう為にはこう返すしかなかった。
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