79話
ふむ……本気かどうかね……
「動画投稿者で食べて行こうと思っては無いので、本気かと言われると微妙な所ですね」
ここは噓偽りなく本心を言うべきだ。
「いえ、そうではありません。何と言うか、常の市原君らしくないと言うかですね……」
月坂さんは何か微妙そうな顔をしてそんな事を言う。
「市原君、そもそも何故動画投稿者になりたいと思ったんですか?」
あ~やっぱそうなるよな。どうすっかな~
「月坂さん、申し訳ありません。それは言えないんです」
まぁ、ここも正直に言うしかあるまい。
「そうですか……そう言われると私としても協力はし難いです」
月坂さんが厳しい顔をして言う。
「え~その~ですね……」
やっぱ理由を言わずに協力を仰ごうと言うのが都合が良い話だもんな。
「分かりました。ここまでお付き合い下さりありがとうございました。貴重なお時間を頂戴しながらこのような事になってしまい大変申し訳なく思っています」
とは言っても事情を話せば巻き込む事になるのだから、話す訳にはいかない。
「春人さん、話してみるのは如何でしょうか?」
俺の近くに控えていた愛莉さんが急にそんな事を言い出した。
「何を言っているんですか!!俺は月坂さんを俺の事情に巻き込むつもりは無いんです!!」
カッとなって僕から俺になってしまったが、それくらい我を忘れての事だった。
「と言う事なんです。春人さんは決して貴方の事を信頼していないから話さないと言う訳ではありません。どうか、それだけはお含みおき下さい」
愛莉さんは月坂さんにペコリと頭を下げた。
「すいませんでした。愛莉さんが何の意図も無くあんな発言をする訳は無いのに……」
真意を知った俺は愛莉さんに謝罪する。
「市原君が理由もなくそんなことする男性ではないという事は一か月同じクラスメートとして過ごしてきた私には分かります。だからこそ、知りたいんです」
真剣な表情で月坂さんが言うが……
「それは出来ません。僕は月坂さんを巻き込む訳にはいかないんです。知識を教える位なら事情を知らなかったからで逃げる事が出来ます。ただ、事情を知った上での協力となればもう話は別です。関係者になってしまうからです。僕はそれを望みません。月坂さんの人生を背負うなんて事は出来ないからです」
巻き込んでしまえば、月坂さんの人生は滅茶苦茶になるだろう。いや、月坂さんだけじゃなくてその家族や親戚にまで魔の手が伸びる可能性が高い。俺にその人たちの人生まで背負えるかと言われれば流石に無理だ。
「そこは噓でも俺が月坂さんを一生面倒みると言って欲しかったですね」
「なっ!?ふざけても言って良い事と――」
「私には市原君の為に人生を賭ける覚悟がある!!見くびらないで!!」
「っっ!?」
俺の言葉を遮っての突如の大声に圧倒された。
「何となく分かってるんですよ私……今日、市原君と千夏さんのやり取りが妙にぎこちなかったですよね?それに、GW中の勉強会に市原君は参加しませんでした。なので、千夏さんの家がらみの事なんですよね?」
「気付いて…いたんですか?」
京條家だけの事ではないが、まさかニアピンされるとは思わなかったので俺の声はかすれていた。
「やっぱりそうでしたか……二人の雰囲気が気まずそうだったので何かあったんだろうなと言うのはクラスの全員が気付いたと思います」
うわぁ……コレは流石に声も出ないわ。てかクラス全員かよ……
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