74話
5月2日、この日も朝食後俺の部屋に嵯峨根さんを招いて話をする事にした。
当然、話す内容は微妙に違うが……
「嵯峨根さん、連日申し訳ないのですが必要な事なのでご容赦頂きたい」
「えぇ、理解しておりますわ」
うん?何か昨日と違って覚悟を決めた表情なんだが……
「私は春人さんの男性警護者を解雇されるのでしょう?」
あぁ、そっちにいったか。
「いいえ、それはありません。ここで嵯峨根さんを解雇すれば遺恨無しと言ったのは噓なのかと言われるのは必定でしょう?」
俺は言い聞かせるような口調で言う。
「いいえ、私から言い出した事にすれば良いのですわ」
「僕にそんな気はありませんよ」
良くないな。自棄と言うか意固地になってるカンジだな。
「では、私から言いますの。市原春人様、私――嵯峨根幸那はあなたの男性警護者を辞させて頂きますわ」
「……理由を聞かせて頂けますか?」
簡単には翻意させるのは無理だと思ったので理由を聞く事にする。
「理由?それは言わずともではありませんの?私は春人さんに状況を利用して婚約を迫りましたわ。男性警護者としてあるまじき事ですわ」
「う~ん……無理やりという訳ではありませんでした。それは別に問題では無いのでは?」
まぁ、イラつかなかったか?と言われればノーコメントとは言うが、その程度でしかない。
「では春人さんは私に変わらず信頼を向ける事が出来ますの?」
嵯峨根さんは挑む様な表情で俺に言う。
「男性警護者としての嵯峨根幸那と言う人物にでしょう?出来ますよ」
「えっ!?」
嵯峨根さんは俺があまりにも涼しい表情で当然の様に言ったから驚いた声を出した。
「何故ですの!!私は――」
嵯峨根さんが常とは違って叫んだ。最後の方は言葉になっていなかった。
「裏切ったと言おうとしたのですか?ですが、僕は裏切ったとは思っていませんよ。嵯峨根さんは事情を説明しただけでしょう?」
これがご都合主義のラノベなんかであれば今回の一件は俺のカリスマとかで上手く切り抜けられたのだろうが、残念ながらこれは世知辛い現実なのだ。
全員がそれぞれ感情や思惑やら事情やらを持っているのだ。男が優遇される世界であっても何でもかんでも俺の思った通りに進む筈が無いのだ。それを今回は痛感させられた。
「それに元はと言えば俺の所為ですからね。上流階級出身と言う理由で嵯峨根さんを避けた為にそれを不安に思った嵯峨根さんはあんな事をしてしまったのでしょう?」
そう、俺が上流階級を避けたいとリスクを恐れた為に、結局逆に上流階級と関わる事になってしまった。自業自得とも言える。まぁ、100%俺が悪い訳ではないが……
「こういう言い方が正しいかどうかは分かりませんが、僕が先に嵯峨根さんを先に裏切ったと言えるでしょう」
俺が一方的に話しているが、それは仕方が無い。嵯峨根さんは涙を流していて話せそうにないからだ。
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