72話
「勿論にございます。ただ、人の心の中を見る事は出来ません。故に心の内に邪な野望を持つ者もいないとは言い切れません。なので、キチンと言葉で牽制する必要があると存じます。嵯峨根家のご当主もいないとは思いますが念の為に通達をしておいた方が良いのではありませんか?」
ほぉ~そういう返しをしてくる訳ね……
「京條家のご当主、ご配慮有難く存じます」
二人は後ろに控えていた人に伝言と言うかメッセンジャーをさせた。
「いやはや本当に京條家のご当主の仰った通りだと思います。人の心の中は見えませんからね……なので、先程仰った事も用意されている書類に追加で記入して頂けますか?流石に僕もこんな事になるとは予想をしていなかったのですよ」
更に追撃する。
「市原様、恐れ多いですが言わせて頂きます。我が嵯峨根家と京條家を信用していないという事でしょうか?」
ふむ、ここで反撃するのか……って事は俺との繋がりで元を取ろうとしているのは確実だな。で、それが無になると困るって事か……
「信用ですか……もしもあると思っているのなら少々認識が甘いのではありませんか?僕を脅して無理やり婚約しようとした家の人間の一族を信用しろ等と言うとは思いもしませんでしたよ」
取り敢えず責めてみようかね。相手に付け入る隙が出来た訳だし。
「嵯峨根家のご当主、市原様の仰る通りです。我々は市原様に謝罪する為にこの場にいるのです。信用等と言う話の以前の問題です。ここは市原様がご納得して頂くのが一番ではありませんか?」
むぅ…京條家は俺の得点を稼ぐつもりか?まぁ、京條家は何もしてない巻き込まれた家だからな。俺と直接会えてこうして俺の得点を稼げればそれで最悪でもトントンってな訳か。食えないねぇ……
「京條家のご当主……その通りですね。市原様、愚娘に続き私までご不快にさせてしまい大変申し訳ありませんでした」
ペコリと頭を下げた。引き際を分かってるな。もしかしたら威力偵察だったのか?どうせ俺の要望を飲まなければならないならと考えてもおかしくは無い。
いや、ギャンブルのカモ作戦と同じか?最初に勝たせて油断させてイカサマしてカモる。
「いえいえとんでもない。不躾だとは思うのですが、上流階級である皆様と違いなにぶん僕は力も何もないか弱い男子高校生なのでどうしても慎重になってしまう事、ご承知頂きたい」
俺もペコリと頭を下げる。
「まぁ、謙遜なさる事はございませんわ。嵯峨根家のご当主と僭越ながら私とこれだけ話が出来るだけで十分逸材だと思います」
ちっ!京條家の当主は相変わらず返しが上手い。俺を褒めて返答を有耶無耶にした。
「そう言って頂けるのはありがたいのですが、僕が欲しいのは褒め言葉ではありません。か弱い僕に対する配慮の言質です。京條家のご当主、返答は如何に?」
ここで有耶無耶にして言った言ってないの水掛け論はマズい。追撃するしかない。
「ふぅ~参りましたわ。降参です。京條家当主京條桃香の名において市原様に対する配慮、承知致しましたわ」
良し!!京條家の当主から言質を取った。
「私も京條家のご当主に倣いましょう。嵯峨根家当主嵯峨根和香の名において市原様に対する配慮、承知致します」
嵯峨根家の当主からも言質を取った。
そして、書類のおかしな所も無い事を確認して追加で言質を取った事も記入して貰った。
「お二方ありがとうございます」
「いえいえ、それではもうそろそろ14時になりますから共に会場に参りましょう」
「そうですわね。市原様、14時からは今回の件の経緯の説明と改めての私たちの謝罪を予定しております」
「分かりました」
この時の俺は少々浮かれていた。書類も貰った。言質を取った事も追加で記入して貰った。ほぼ完全勝利だからな。
油断するなって言ってたのに油断してしまった。後は消化試合だと思ってしまった。
だけど、この事前の話し合いは俺を油断させる為の罠だったのだ。
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