69話
午後、嵯峨根さんから朝の続きの話がしたいと言われたので朝と同じく部屋に招いた。
「それで嵯峨根さん、確認はしていただけましたか?」
「はい。嵯峨根家も京條家も書類を用意するとの事ですわ。なので、なるべく早く謝罪の場を設けて頂きたいとの事ですの」
嵯峨根さんは淡々と話す。
言葉での謝罪じゃなくて書類を用意しろと言ったのが効いた様だな。普通の男と同じ様に謝罪の言葉とお金を少し包めば良い位に思っていたのだろう。
「なるほど、なるべく早くですか……それなら、2日後の午後14時でどうでしょうか?」
「2日後ですわね。なるべく早くという要望を汲み取って頂いて助かりますわ」
日にちと時間はまぁ良いとして問題は場所だな。
「嵯峨根さん、問題は場所です。嵯峨根家と京條家どちらを選んでも角が立つでしょう。我が家は論外です。招くつもりはありません。なので、数時間だけ借りれる会議室やラウンジのような場所を予約して下さい。当然、費用はこちらが持ちます。こちらからの要望ですから」
普通は謝罪する方が赴くのがまぁ常識だろう。でも、この家の敷居を跨がせたくない。だけどそれは俺の個人的な感情では無く相手に侮られない為にだ。
とは言っても嵯峨根家と京條家どちらを会場に選んでも選ばれなかった方の家は遺恨が残るだろう。特に嵯峨根家が選ばれれば京條家は激怒必至だろう。巻き込まれて謝罪をさせられるのにその上同じく謝罪する立場の嵯峨根家まで来いとなれば……
勿論、嵯峨根家と京條家の関係を修復させない為の謀略に利用しても良いのだが、嵯峨根家には当然恨まれるし、俺が画策したとなれば京條家にも恨まれるだろう。それはローリスクハイリターンだ。
だから、折衷案でどこか場所を借りて集まろうという事だ。前世で企業側が数時間だけ会議室を借りてるなんてのは普通にあったからな。俺も数回研修や会議で行った事がある。
「畏まりしたわ。どこか適当な場所を見繕っておきますわ。それはそれとして、何故午後からなのでしょう?一応理由を聞かせて欲しいのですわ」
それ言う必要がある?とは思うが、聞けと言われているんだろうな。中々俺という人間を警戒している様だな。理由を言えばさらに警戒させる事になるが噓を言ってもバレるだろうしな……
「ふぅ~午前中にすれば終わった後に食事をとなるでしょう。断れば遺恨無しと言ったのは噓だったのか?となるし言われるでしょう?」
やれやれと肩を竦めながら言う。
「……ご、午後からでも遅くなれば夕食をとなるのではありませんの?」
嵯峨根さんはそんな俺の言葉にゴクリと唾を飲み込んだ後、無理やり言葉を絞り出すようにして言う。
「ウチの夕食は誰が作っているのかお忘れですか?それは十分断る理由になるでしょう。準備や調理の時間もありますからね」
「??それは理由になりますの?」
嵯峨根さんはいまいち分かっていない様だ。
「なりますよ。少なくとも夕食を断わる理由が無く遺恨が無いと言ったのは噓なのか?と言われない位の理由ではあるでしょう?嵯峨根さんは俺が夕食を用意しているのは知っているし、京條さんだって俺が料理を出来るのは宿泊研修で知ってますから噓の理由で断ったとは言えませんよ。寧ろ理由があるのに無理やり誘う方が無礼となる筈です。いくら遺恨無しと言った所でもです」
「春人さん、それは私に言って良かったんですの?」
「時間の理由が知りたいと言ったのは嵯峨根さんですよ?それに、こちらとしては謝罪をしました。書類も渡しました。だから仲良くなる為に食事に行こうって言われても何か……含む所がある訳じゃないですよ。ただ、お互いの為に時間を置こうという事です。せっかく傷が治ってかさぶたが出来たのに痒いからと言って掻いたりしたら意味が無いでしょう?」
「ふふっ。やはり春人さんは15歳とは思えませんわね。私と同年代――いえ、もっと上の世代の方と話しているようでしてよ」
一瞬ドキッとしたが知らん顔してやり過ごした。
と言うかなぁ……嵯峨根さんが言ってた事がホントだとは思えないんだよなぁ。俺が亡命なんて言ったから危機感を覚えて云々ってやつな。
ほ~お15のクソガキが吠えよるわ。謝罪にかこつけてどんなものか面を拝んでやろうみたいなカンジじゃねぇかと思うんだよ。
だから、殊更喧嘩腰になる必要は当然無いが、言うべき事は言わないと侮られて食い物にされる。向こうは謝罪するんだからそれ以上の何かを得て帰ろうとする筈だからな。
さてはてどうなるかねぇ……
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