68話
5月1日、朝から嵯峨根さんに話があると言われた。
まぁ、十中八九昨日の件だろう。そう思って昨日の様に俺の部屋で話をと言った。
「嵯峨根さん、一応確認ですが話と言うのは昨日の件ですね?」
「その通りですわ。私から母であり嵯峨根家当主でもある嵯峨根和香に事情を説明しましたの。そして、京條家にも話をして貰いましたの。その後、嵯峨根家と京條家は春人さんが都合の良い日に謝罪に伺いたいという事ですの。私は春人さんの都合の良い日をお聞きして連絡をする事になっておりますわ」
嵯峨根さんはここで一息付いた。
俺的には嵯峨根家はともかく、京條家は動いてないと言うか何というか俺が京條家に行って挨拶すれば京條さんとの縁談を薦められるって話は嵯峨根さんが言っただけなんだよなぁ……
その予測が合ってるとか間違ってるとかの前に京條家はまだ何もしてないのだ。
それなのに巻き込まれる形となっていい迷惑なんじゃないかと思うんだが、どうなんだろうか?
「それも春人さんの言う通りなのですわ。私の所為でまだやってもいない事を謝罪しないといけないのですから嵯峨根家を恨んでいるでしょうし、関係を考え直す筈ですわ」
だよな。俺が危惧するのは――
「京條家は僕も恨んだりしませんか?」
嫌だぞ。クラスメートの京條さんとはあと約3年同じクラスで過ごすんだから気まずいのは……
「それは無いと思いますわ。あくまで私がした事によって春人さんが不快に思って亡命すると発言した事に危機感を覚えての事ですから……」
う~ん……それなら良いとは言えないよな。少なくとも京條さんは俺に対して負い目を感じるだろう。
それに――
「謝罪と言うのは多分言葉でですよね?それよりも僕としては書類で頂きたいです。嵯峨根家と京條家は僕に対して強引な手法で婚姻を迫らないと言った様な内容のものを……」
子供だと思って侮っているのだろうがそうはいかない。言葉で謝罪してハイ終わりでは困るからな。
「それは……」
嵯峨根さんが困った顔をするが気にならない。
「言葉での謝罪をと言うのならそもそも不要ですし、謝罪を受けるつもりはありません。書類と言うか契約書と言うかそう言った形式のもので頂かなければ安心できませんから……」
ここまで慎重になるのは前世は社会人として働いていたという事もあるし、宅建士の勉強もして契約というものの重要性を知ったからだ。
「はぁ~本当に春人さんは15歳なのですか?」
「嵯峨根さん、その書類なり契約書なりを用意出来るかどうかその確認からして下さい」
俺は嵯峨根さんの言葉スルーして言う。
「畏まりましたわ。では私は一旦これで失礼しますわ」
「嵯峨根さん、一つだけ――ただ書類なり契約書なりを用意しろと言っても受け入れ難いでしょうから、僕も嵯峨根家と京條家に一筆認めます。書類なり契約書なりを頂いたらそれ以後は嵯峨根家に対しても京條家に対しても遺恨は無いと……」
部屋から出て行こうとする嵯峨根さんに言う。
「春人さんは末恐ろしいのですわ」
嵯峨根さんは声と体を震わせていた。
俺が遺恨無しと一筆認めれば京條さんとの関係はだいぶマシになるだろ。
まぁ、油断ならない奴として目を付けられるかもしれないが、それは元々そうなるかもって話だったしな。仕方が無い事だ。
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