64話
「あの~何故拙は呼ばれたのでしょうか?」
俺の部屋に呼ばれた太刀川さんは?マークを浮かべている。
「太刀川さんはあの場にいたので証人となってもらう為です。嵯峨根さん、貴方の勘は当たっています。実は、宿泊研修の初日に夏野先生に男性の婚姻について尋ねたんです。そこで、色々話を聞きました。覚道玲央と言う男の事を……」
そして、俺の懸念となった上流階級の自分な勝手な都合で覚道玲央を悪人に仕立て上げたのではないかと言う事を話す。
俺の前世の事や政府への危機感はまだ話さない。今回はこれだけで十分だ。
「はぁ~そういう事だったんですのね……」
「僕自身は嵯峨根幸那さん個人への態度や対応を変えたつもりは無かったんですが、上流階級への警戒心が無意識に出てしまっていたのかもしれません」
俺は正直に話す。
「お待ちになって、春人さんは確か京條家に行かれると言っていました。嵯峨根家は警戒して京條家は警戒しない理由が何かありますの?」
痛い所を突かれる。
「実は勉強会の会場が京條家とは知らなかったんですよ。予定が無いと言った後にそれを知ったので露骨にやっぱり行くのを止めるという訳にもいかなくてですね……」
我ながら迂闊だった。
「ただ、ピンチはチャンスではありませんがそうなった以上好機と考えて、京條家の人間に軽く挨拶位はすると思いますからそこで人となりを確かめようかと思ったんです」
「そうだったんですのね。嵯峨根家は京條家とも軽くではありますが付き合いはありますの。私が言うのは何ですが、京條家は幸い割と真面な家だと思いますわ。勿論、それは表面上の事で裏の事までは分からないのですわ」
確かに裏があると言われたらどうしようもないが、表面上は真面な家だと言うならまだマシだろう。少なくとも正面切って無茶な事や理不尽な事はしてこないだろう。不幸中の幸いだな。
「それを聞いて一安心です」
「春人さん、夏野さんが言った事は間違いではありませんの。ですが、真実でもないのですわ」
マジか……やっぱり上流階級の人間にとって不都合な真実は葬り去られているのか。
「それは教えて貰えるんですか?」
「春人さんの誤解とは言わないまでも懸念の払拭になればと思っての事ですわ。勿論、ただ上流階級だからと言う理由で偏見を持たれたくないと言う理由もありますの」
なるほど、確かにそれはそうだ。だけど偏見か…隠し事してるのはそっちなのにそう言われるのは何かモヤッとするな。
「最初に言わなければならないのは、一般人の覚道玲央などと言う人物は存在しないのですわ」
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