表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/238

閑話 容易ではない男性

 私の名前は番場信恵、年は今年で42。職業は男性警護者の人材派遣サービスセンターのセンター長補佐をしている。


 そんな私は一筋縄ではいかない男性を家に送り返してホッと一息付いた。


 「教官、この度は大変申し訳ありませんでした!!」


 昔、私が指導した事がある男性警護者の加藤が私に土下座した。


 「頭を上げて、立ってください。それでは話が出来ません。それに、今回の事は私が貴方にお願いした事でもあります」


 私は努めて冷静に加藤に言う。すると、頭を上げ渋々立ち上がった。


 「さて加藤さん、先程市原さんと話をしたのですが全てお見通しの様でした。つくづく喰えない男性です」


 私が市原さんの話をすると加藤の顔が苦々しい表情になる。


 「教官、あの男は何者なんでしょうか?」


 「私にも正直言ってよく分かりません。が、普通の男性とは違う事は貴方にも分かるでしょう」


 私がそう言うと加藤はこくりと頷く。


 「そもそも私は伸び悩んでいた西田さんを立ち直らせる為――気付かなければならない事を自ら気付いてもらう為に今回の事を画策しました。彼には何も話す事なく……それが気に入らなかったのでしょう。こじつけでとんでもない事を言い出しました。まぁ、それは脅しと言うか見せ札で本命は気付いてるぞと最後の最後に警告されました。次回の予定もどうなるか分からないと躱されてしまいましたしね」


 B級の昇級試験に2回挑戦し2回とも落ちた西田諒は自身の実力に疑問を持ち伸び悩みモチベーションが落ちていた。


 恐らくだが、彼女がB級の昇級試験に落ちたのは()()()()()()()()()からだと思う。


 C級までは実力と素行によっぽどの問題が無ければ昇級は出来る。人によってそのスピードはまちまちであるが……


 しかし、B級からは違う。それは、A級やS級に警護して貰う警護対象者などほんの一握りだからだ。要はB級とは大体の警護対象者――男性が選ぶ最高級と言っても過言ではないと言う事だ。


 つまり、警護対象者からの評価や期待値がC級から一気に跳ね上がるのだ。だからこそ、簡単にはB級の昇級試験は通らない。今ではA級やS級でもB級の昇級試験に落ちた事があるとか一時期停滞したと言う男性警護者は少なくない。


 では覚悟が足りないとはどう言う事なのか?いくつかあるが、一つはB級の男性警護者としての覚悟だろう。B級からは警護対象者からの期待値が跳ね上がると言うのに警護対象者役の市原さんに戦闘に巻き込まれない様に気を付けて等と言い放った事だ。


 訓練だとしても言って良い事ではない。ましてや普通の警護対象者からすれば最高級とも思われるB級からそのような事を言われればどうなるか……あの講評で加藤が言った事は決して間違いではない。


 二つ目は警護対象者の為に命を懸ける覚悟だろう。私としてはこれが一番だと思う。B級からは期待値が跳ね上がると言ったが、それはつまり男性警護者と警護対象者の危険度も上がるという事だ。


 男性警護者の危険度が上がるのは理解できると思うが、警護対象者の危険が上がるのは何故?と思うかもしれない。それは、警護対象者にB級の男性警護者に警護されているのだから安全だと言う油断が生まれるからだ。


 警護対象者の危険度が上がれば時には男性警護者自身の命を懸けて警護対象者の命を守らないといけない時が来るかもしれない。それを西田諒は理解していない。いや、言葉としては理解していてもそんな事は滅多に起こらないと考えている。それは間違いでは無いが滅多に起こらないでは無くもしかしたら起きるかもしれないと考えるべきなのだ。


 警護対象者役の市原さんにこれらの事を話してしまえば普段通りの市原さんの行動にはならなくなってしまう。


 嵯峨根さんと太刀川さんに話を聞いた――初めての外出とは言え、S級二人がいるのに油断が殆どなかったと言う市原さんの姿を見せる事で西田諒に自身の意識に疑問や危機感を持って欲しかったのだ。


 実際訓練とは言え、警護対象者役の市原さんはこちらが驚くほど粘ったと言うか抵抗した。あの姿を見て何も感じなければ男性警護者は辞めるべきだ。向いていないと思っていたが、彼女は自分自身で何かに気付いた様だ。


 「まぁ、それも何とかなりました。ですが、加藤さんがあそこまで言ったのは同族嫌悪と言うか過去の自分の黒歴史を見せられている気分になったからですか?」


 「教官……」


 私に言われ加藤は物凄い情けない顔をする。


 「貴方もそろそろA級の昇級試験を受けませんか?」


 「あ~なるほど…教官はあの男性警護者だけじゃなくて私の尻も叩くつもりだったんですね」


 情けない顔から一転して何かに納得してから今度は苦笑する。


 「一石二鳥だけじゃなくて他に何鳥も狙えるのなら有効活用しようとするのは当然でしょう?」


 「そうですね。正直私にA級は無理だと()()()()()()。教官はご存知の通り私はB級の昇級試験に4回も落ちてますし、B級に上がってからも目立った実績は無いですし何より、実力も飛びぬけている訳ではありませんから……」


 加藤は自嘲しながら言う。


 「思ってましたと過去形で言いましたね?それなら今は違うという事です」


 「あんな姿を見せられて魅せられちまったって所です。A級になって自分が警護したいと思える警護対象者を見つけたいと思いました。あと、あんな事を言ってしまったのはあの男性警護者に嫉妬したからです。もしあの時の私にこの訓練があればと……一応聞いておきますが、あの警護対象者役の男性警護者は?」


 「S級の嵯峨根幸那さんと太刀川愛莉さんです」


 「はぁ~教官がS級に認めた自慢の教え子ですか……」


 期待してなかったとは言え、S級の名前をしかも二人も聞いて加藤はガクッと肩を落とした。


 「私はあくまでS級への昇級を認めただけの事です。教え子なんて事はありませんよ」


 「教官があの男性警護者役の男性警護者にと推薦したんじゃありませんか?」


 「私がS級への昇級を認めた所為で苦境に陥ってしまったなら手を差し伸べたいと思うのは当然の事でしょう?しかも、その苦境は彼女たちの所為ではないのですから……」


 「教官が大勢に慕われるのはそう言う世話焼き気質な所があるからですよ」


 加藤は嬉しそうに言って部屋から退室した。

最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ