7話
家も普通の平屋の一軒家だった。ただ、セキュリティはしっかりしてそうだった。
監視カメラもあったし、塀も高くて上の方に有刺鉄線があった。あと、家の門の所に警備会社のシールが貼ってあった。
男の俺がいるからセキュリティがしっかりしているのは当然の事なのだろう。
家の中に入って俺の部屋に荷物を運んだ後にリビングに降りた。母さんに話しておかないといけない事があると思ったからだ。
そう、俺がこの体の本当の持ち主ではない市原春人であるとカミングアウトする為だ。
記憶喪失って事にしておいて転生の事まで話す必要はないとも考えたのだが、俺の記憶が戻る事は恐らくないのに記憶が戻るかもとぬか喜びさせるのは罪悪感が半端じゃない。それに、やはり協力者と言うか全面的に信じれる人間は必要だと思うのだ。
「母さん、大事な話があるんだ」
俺は覚悟を決めて話しかけた。
「大事な話?」
母さんが可愛く小首を傾げる。
「俺は――その……」
話すと決めたのにその後が続かない。
「言いにくい事なら無理に言わなくて良いのよ?」
気遣うような表情で母さんは言う。
「俺はこの体の持ち主の――市原春人じゃないんだ」
言った。優しさに甘えてしまいそうになったが言った。
「え~と……」
今度は困った表情で母さんは言う。
「信じて貰えないかもしれないけど――」
俺は時間を掛けて自分がこの体の持ち主の市原春人ではなく別の平行世界の約150年前の市原春人だと説明した。
「そう……」
俺の話を聞き終えた母さんはそう一言呟いた。
「突拍子もない話だけど信じてくれるの?」
「そうね。確かに突拍子もない話だけど、只の記憶喪失と言われるよりは信じられる話ね」
そうだろうか?
「母さんなりに俺の話を信じる根拠があると思うんだけど……」
「只の記憶喪失とは思えなかったと言うほかないわね」
「あ~確かに睡眠薬の知識とかはマズったなとは思ったね」
アレはエリザベス先生が誤解してくれたから良かったものの痛恨のミスになりかねなかった。
「それもあるのだけどね……」
うん?何か言いにくそうだけど何の事だろうか?
「その~春ちゃんの態度とか対応がね……」
はぁ?態度?対応?何の事だ?
「え~と……ね――」
えっ!?そんな言いにくい事なの!?俺、何かしたっけ?
「優しかった」
「はい?」
優しかった?何が?態度がって事だよな?
「優しかった?良く分かんないんだけど……」
「フフッ。春ちゃんの高田先生や中村さんに対する態度とか対応がって事」
「言葉としてはそうなんだろうけど……そうかなぁ?普通だと思うよ。普通の入院患者が先生とか看護師さんにする態度じゃない?」
特別な事なんかしてない。
「普通の男性患者とは違うって事」
あぁ……そう言う事ね。
「その~普通は横柄とかって事?」
「そう言う人もいるわね。あと、触られるのを嫌がったりとかね。だから、男性の医師に変えろって言うのが一般的じゃないかしら?」
「ほぇ!?男の医者っているの!?」
いや、ほら、その…ね……精液渡せば働かないで済むらしいから男の医者なんていないと思ってた。
「あの病院にいなくても男性の医師がいる病院に転院したいって言うと思ってたんだけど、それどころか普通に退院までいたんだもの」
苦笑いしながら母さんが言う。
「ええっ!?それなら言ってよ!!」
別に嫌な思いをした訳じゃなくて逆にエリザベス先生とか中村さんが過保護で……
食事を食べさせようとしたりとかニ、三時間所か十分毎に見回りに来たりとかね……
食事は腕を怪我した訳じゃないから普通に食べれますと断ったし、ニ、三時間ならともかく十分毎に来る必要はありません。何かあればナースコールで呼びますって言ったし。
「俺が男だからVIP待遇かと思ったけど、普通の男性患者にはそうしないと寧ろクレームとか貰うからあそこまで過保護だったのか……」
「さぁ?どうかしらね?」
母さんが意味深に微笑んでいた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。