60話
あの後、雰囲気があまりよろしくない状態で訓練が終わってしまった事を俺は西田さんに謝罪した。
「いいえ、謝罪どころか市原さんには感謝しています。実は私、B級への昇級試験に2回落ちていて伸び悩んでいたんです。D級、C級と順調に昇級していただけに余計にくるものがあったんです……」
「それは…あの~何と言ったら良いか……」
「気にしないで下さい。何で2回も落ちたのか分かりましたから。今日の市原さんを見て分かったんです」
西田さんはそんな俺の困って言葉になっていない返答にカラッとした表情と声で言う。
「そうですか……西田さんなりに得るものがあったのなら僕としては救われた思いです」
ごっこ遊びなんて揶揄されたのでどうだっただろうかと不安に思っていたが、安心した。
「それでは、私はこれで失礼します」
「今日は西田さんの警護対象者役をやれて良かったと思っています。西田さんのこれからのますますの活躍をお祈りしています」
俺は本心からそう思って言葉を紡いだ。
「番場さん、お話ししたい事があります。お時間を頂戴できませんか?」
西田さんが去った後、番場さんに話し掛けた。
「そうですね……今からでしたら時間を取れますと言うか取ります。それで宜しいですか?」
「はい。大丈夫です」
番場さんも俺が何の話をするのか察したのか表情はあまり良くない。しかし、わざわざ時間を取ってくれると言うのだからありがたい。
俺の返事を聞いて番場さんが歩き出したので俺はその後を付いて行く。
そして、嵯峨根さんと太刀川さんと話をした部屋に到着した。
「まずはお掛け下さい」
「失礼します」
番場さんがソファーに座り、俺もその対面のソファーに座る。
「それで市原さん、話をしたい事と言うのは何でしょうか?」
これは別に韜晦と言う訳ではないな。話題は分かってもそこからどんな話になるのか分からないって所か?
「単刀直入に言います。警護対象者役をするのは辞めた方が良いでしょうか?」
「っっ!?驚きました。訓練場ではあそこまで言っていたので……」
「勿論、本心ではありますが、アレは西田さんがあそこまで言われるのはどうなのかと思っての事です。プロの男性警護者がごっこ遊びと言うのならそうなのでしょう。それに、僕自身はごっこ遊びと言われた事を怒った訳ではないので……」
俺の主張は間違っていなくても、論点ずらしと言われてもおかしくは無い。だからこそ番場さんに聞いてみたかったのだ。
「私は辞めるべきだとも辞めない方が良いとも言いません。市原さんの気持ち次第だと思っているからです」
逃げの姿勢の様に見えるがどうなんだろうか?気になる事もあるし尋ねてみよう。
「もし、僕が辞めた方が良いと判断したら辞められるんですか?契約金を2000万も支払ったと言うのに……」
今日の報酬はともかく、払った契約金の分の元を回収するまでは辞めないで欲しいと番場さんは思っている筈だ。つまり、本音で話せと言った訳だ。
「あの契約金は他の所でしないで下さいと言う事とアイデア料込みでの金額です。こちらとしては男性に警護対象者役をやって貰うと言う中々思い付かない様なアイデアを教えて頂いた事で元は取れていると私は思います。何せ市原さんが今日やった事は世界初だと断言できます。なので、ギ○スに認定されてもおかしくはありません。そして、そんな日本初や世界初と言うのは非常に大きい事だと言えます」
そう言われると2000万って安く感じるな……まぁ、だからこそ辞めても良いと言うのだろう。今日1回だけとは言え行われた事は紛れもない事実だから、極論であるが後は俺じゃなくても他の男性であれば誰でも良い訳だ。
参ったなぁ……なんだかんだ言っても番場さんの手の平の上で踊っていた訳だ。
「なるほど……では、あの加藤という男性警護者を呼んだ今回の一連の騒動は番場さんが意図して起こした事ですか?」
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