59話
当然、その程度の小細工で鮮やかな逆転勝利等という事は無く、ナイフを首に突き付けられたので降参と両手を挙げれば、リストバンドの警報音を止められた。
「まさか警護対象者役の方がここまで粘るとは……」
襲撃者役の人が苦笑しながら言う。
「市原さん、すいません……」
西田さんの方が俺より早く無力化されたらしい。まぁ、4対1だからなぁ…普通に考えれば負けは確定だろう。
「いえ、こちらこそすいません。戦闘に巻き込まれない様に気を付けてと言われてたのに、自分の方に手一杯でそんな余裕ありませんでした」
仮に西田さんが銃をぶっ放してたら、跳弾とか流れ弾が俺に当たっていたかもしれない。
まぁ、訓練だったから相手もこちらも銃を使わなかったのだろうけど……
「市原さん、西田さん、訓練お疲れさまでした」
番場さんがこちらに歩いてきながら言う。
「ここからは見ていた私と襲撃者役の男性警護者からの講評を聞いて貰います。それでは、加藤さん、日高さん、お願いします」
加藤さんと言うのが西田さんと相対した4人の襲撃者のリーダー役で、日高さんと言うのが俺の方に来た襲撃者役の人だ。
「B級の加藤だ。まぁ、訓練だから銃を使えなかったのはそちらもこちらも同様だ。それを差し引いての事だと言うのは先に言っておこう」
「「はい」」
俺と西田さんが同時に返事をする。
「警護対象者役の方の講評をするつもりは無いのだが……」
何故か返事をした俺に困った表情でそんな事を言う。
「コホン、男性警護者役は自分に自信が無かったからか警護対象者役に戦闘に巻き込まれない様に気を付けてと言ったそうだな?これは論外だ」
怖い顔で西田さんに言う。
「えっ!?」
驚いた声を出したのは俺だ。正直に言ってくれたのは良かったと思ったのだが……
「ふん。そんなのはこの警護対象者役だけだろうさ。普通の警護対象者なら何を無責任なと激怒するぞ。クビだと言われても不思議じゃない」
あ~なるほど……確かに訓練だからって言う甘い意識がどこかにあったんだな。
まぁ、嵯峨根さんと太刀川さんに言われたらブチギレると言うよりは、『えっ!?S級なのに?』と困るとは思う。
なので――
「あの~西田さんの擁護と言う訳ではありませんが、出来ない事を出来ると言うよりは良いのではないでしょうか?それに……こういう言い方は失礼かもしれませんが、西田さんはC級なのですよね?A級やS級でそんな事を言われればふざけるなと思いますが、C級の人がそう言うのは寧ろ誠意なのではありませんか?」
思った事を言う。
「そうか……あなたは本心でそう言っているのだな。善人だな。だが、それはあなただけだ。世の男性――警護対象者はそうは思わんだろう」
フンっと鼻で嘲笑された。
そんな辛辣な言葉に俺は頭をぶん殴られた気持ちになった。俺の価値観がごく少数――マイノリティだと言う事を失念していた。
「番場さん、講評をと言ったな?ならハッキリ言おう。こんなものは訓練でも何でもない。男性警護者と警護対象者のごっこ遊びだ。こんな事、やる意味も価値も無い」
ごっこ遊び…ね……
「フハハハハハ」
俺は笑い声をあげた。
「何が可笑しい?」
加藤は険しい顔で俺を睨みながら言う。
「いや、滑稽だと思ってね。人を笑わせる才能を持つあなたは男性警護者よりコメディアンの方が向いてそうだ」
「何だと!?」
「分からんか?あんたは揶揄したがごっこ遊び、それの何が悪い?あんたアレか?学校の避難訓練は真剣には行われないならやらない方が良いとか言うタイプか?アホが…アレはやる事自体に意味があるんだよ。真剣さ?んなもんそんな状況になれば否応も無く真剣にならざるを得ないだろうが?真剣になっても何をすれば良いか分からない方がマズいんだよ」
東北大震災で被害が甚大だったのはこれまで津波の被害や経験がなかったからだ。つまり、どう対処すれば良いか――避難すれば良いか分からなかった。それと被害や経験が無かった故に津波を甘く見たのだ。恒常性バイアスという言葉を災害ではしばしば聞く。そんな事起こる筈が無いと子供どころか大人ですら…な……
前世の2020年代に津波を甘く見る日本人はほぼいないだろう。東北大震災の津波の映像を見たり被害を知ったからだ。
「そこまでです。講評をとは言いましたが、喧嘩――議論をしろなどとは言っていません。次、日高さん、どうぞ」
えっ!?この流れで言うのと困った表情をした日高さんを見て俺は少し落ち着いた。
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