58話
10分時間が経ちパーティー会場に音楽が流れ始めた。これが訓練開始の合図なのだろう。
「人は来ませんね。あっ!給仕ロボが来ました。市原さん、打ち合わせ通りにお願いします」
そう、前世でもファミレスで見た事があるのと似ている配膳ロボが俺の目の前に来た。西田さんと話した通り、料理には手を付けず喉が渇けば検査キットを使って安全なのを確かめて飲む。
とは言ってもこれはあくまで訓練なので、給仕ロボが持ってきた皿やグラスには料理や飲み物は入っていない。
するとビービーとけたたましい音がする。
「侵入者あり侵入者あり」
けたたましい音の後、そんな放送?声が聞こえた。
「西田さん」
俺は西田さんに声を掛けどうすれば良いか指示を仰ぐ。名前を呼んだだけだが、ニュアンスは伝わっただろう。
「壁を背にして下さい。後、給仕ロボから武器となりそうなフォークやナイフ、皿、グラスを取って下さい」
西田さんの指示通りにする。
「私と襲撃者との戦闘に巻き込まれない様に気を付けて下さい。お恥ずかしい話なのですが、C級ですのでそこまで気遣える余裕がありません」
なるほど…戦闘力と言って良いのかは分からないが、それにそこまで自信が無いので戦闘に巻き込まれない様に俺自身に注意をして欲しいと言った訳だ。
私に全て任せて下さいとか見栄を張りたくなるだろうに素直に自信が無いと――巻き込まれないように注意をして欲しいと言えるのは素晴らしい。
「了解しました。僕も戦闘に割って入る様な援護はしませんと言うか出来ません。西田さんに当たってフレンドリーファイアになるのがオチでしょう。西田さんを抑えている間に僕の方に来る襲撃者に専念します」
「市原さんは本当に只の警護対象者役ですか?これではある意味訓練になりませんね」
西田さんは俺とのやり取りに苦笑しながら言う。
「来ました!!数は5!!」
西田さんが俺の方を振り向かずに言う。そりゃあそうだ。襲撃者から目を離すなんて舐めプが出来るほどの実力があるなら俺にあんな事を言う筈が無い。
「くっ!?」
西田さんが苦悶の声を上げる。
「なるほど、4と1に分かれると……」
当然、西田さんの方に4人、俺の方に1人だ。
俺はてっきり全員で西田さんを無力化して俺の方に来るかと思ったのだがな。
「舐められたものだ」
襲撃者が俺の目の前まで迫っている。本当は怖い。しかし、恐れない様に敢えて強気な言葉を紡ぐ。
落ち着け。相手はナイフを持っている。訓練だから本物じゃないだろう。だけど、本物と思って対処しなくては……ある意味では俺にとっての訓練でもあるのだ。
「来るな!!」
俺は手に持っていた皿をブーメランのように投げる。
ナイフって事は射程と言うか間合いが短い。なら、近づけさせなければ良い。相手が銃なら即、投了だったな。
「っっ!?」
襲撃者は一瞬驚いた表情をするものの危なげなく躱す。
「ふん!!」
次はグラスを投げつける。
これも当然躱される。
「くっ!?」
そりゃあ当たればラッキーとは思ったけど、当たらないのは悔しい。
「どうしたものかな……」
もう手元にあるのはナイフとフォークだけだ。投げても良いが、当たるか?
だけど、ナイフとフォークで敵のナイフを受けられるかと言われれば100%無理だ。一回くらいなら奇跡的に受ける事が出来るかもしれないが、二回目は無い。
「やるだけやってみるか」
これは訓練だし、仮に訓練では無かったにしても、貴重な男性――しかもイケメンDK(自分で言うのは恥ずかしいが)を殺す事はないだろう。
良い意味で開き直りが出来た。
ピーピーピーピーとけたたましい音が響き渡る。
これは俺が腕にしていたけたたましい警報音がするリストバンドの音だ。
「っっ!?」
一瞬、襲撃者がけたたましい音に驚くのと同時に不快感で顔を顰める。
「そこだ!!」
ナイフを投げる。次に時間差でフォークを投げた。
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