57話
制服に着替えた俺は番場さんと共に訓練場に向かう。
「ここがシチュエーションのパーティー会場ですか?」
かなり広い空間ではあるが、何もない空間なのでパーティー会場とは思えない。
「それはこうするんです」
ブワっと音がした後、パーティー会場になった。
「なるほど、空間投影ですか」
「はい。シチュエーションを挙げればキリがありません。それだけの数の訓練場を用意するのはどう考えても不可能ですからこういう事になっています。それでは、今日の市原さんの男性警護者を紹介します。西田さん、こっちに」
「はい!!C、C級男性警護者のに、西田諒です。本日はよろしくお願いします!!」
うん。ガッチガチだね。
「警護対象者役を務める市原春人です。こちらこそよろしくお願いします」
「では、今から10分時間を設けるのでさらに詳しい自己紹介等をして仲を深めた後、実践訓練に移りたいと思います。私もその間に準備をしますので……」
そう言って番場さんは一旦退席した。
「では西田さん、こういう場合男性警護者の方はどうするんでしょうか?約束事を決めたりとかしますか?」
俺は普段通りに行動して良いと言われたので、嵯峨根さんと太刀川さんに警護して貰う時の事を思い出しながら取り敢えず約束事を決める事からだと思い提案する。
「約束事ですか?それはどう言うものでしょうか?」
「そうですね……例えば食事に手を付けないとかですかね」
「なるほど、それは助かります。薬や毒が混入されている可能性は十分にあり得る事ですので」
あくまでシチュエーションではあるが、真剣にしないと意味が無い。
「飲み物は難しいですね。空腹は我慢出来ても、どうしても喉が渇くのを我慢するのは……こう~銀のスプーンじゃないですけど、毒とか薬とかに反応するものは何かないですか?」
「簡易の検査キットの様なものはあります。ただ、それをパーティー会場で行うのは……食事は好き嫌いがあるので手を付けない方もいらっしゃいますが、飲み物を飲まない方はいませんし、飲み物にそんなものを使うと言うのはパーティーの主催者を信用してないという事で面子ぶち壊しになりますから……」
うん。至極尤もだ。だが、一部の隙も無い訳では無い。
「仰る事は至極尤もです。只ですねよく考えて下さい。男性はあまり外出をしません。なのに、パーティーには参加している。と言う事は、パーティーの主催者との関係は良好なのではないでしょうか?それなら、僕が検査キットを使っても問題無いのではないでしょうか?それに、仮にパーティーで毒殺や睡眠薬を使った誘拐を許してしまう方が問題だという方向に持っていけば?」
「っっ!?イケるかもしれません」
「では次に身を守る術ですね。武器等は持ち込めないでしょうからフォークやナイフや皿を投げたりですかね?」
「う~ん……男性警護者としては避難をして欲しいのですが――」
「避難の最中にパーティー客として潜り込んだ犯罪組織の構成員に何かされる可能性が高いですから、西田さんの傍にいるのが一番安全だと思います」
「市原さん……お任せ下さい!この命に代えてもお守りします!!」
まさかリアルでそんな事を言われるとはな……
「いいえ、お気持ちは非常にありがたいのですが、西田さんが命を投げ打つ事はありません。僕は男ですから毒殺されない限りは――例えば拉致等であれば命は助かる筈です。ここで命を投げ打つより生き残れば何人の男性を警護する事が出来て救えるのかを考えて下さい」
「市原さん……」
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