37話
入学式って言ったら普通、クラス発表の掲示板を見て自分の名前が書かれたクラスに行くと思う。
ところがどっこい、俺はそういう訳にはいかないのだ。何にも知らないクラスメイトや他の生徒が混乱するので、まず職員室に来るようにと事前に言われていた。
「失礼します」
なので、職員室に突撃する。ちなみに、ここから嵯峨根さんとは別行動だ。嵯峨根さんは俺が職員室に辿り着いたのを確認して男性警護者の待機室に向かった。
突然聞こえてきた男の声に視線がこちらに集まるが気にする事なくその場に佇む。
「あっ!?市原君ですね?こっちこっち」
手でおいでおいでとジェスチャーをする女性の下に向かう。
「いや~まさか本当に入学式に来るなんて驚きです」
「いけませんでしたか?」
喧嘩を売っているとかそういうニュアンスのものを感じた訳ではないので、率直な感想を返す。
「いけないなんて事は無いの。我が校始まって以来レベルの事なんじゃないかな?男性――男子生徒が入学式に出席するなんて……あっ!?自己紹介がまだでしたね。私は市原君のクラスである1年3組の担任の真清田綾子です。これから3年間よろしくね」
「はい。よろしくお願いします。真清田先生」
男子生徒への配慮としてクラスメイトと担任は3年間変わらないそうだ。まぁ、なるべく接する女性の数を減らす為の措置と考えれば納得は出来る。
「それでね……市原君には悪いんだけど、入学式は教職員達の席に座って出席して欲しいの」
おぉ!?何かいきなりぶっこまれたぞ?
「え~と……理由をお伺いしても?」
「そうだよね~理由、気になっちゃうよねぇ~」
「それはまぁ……」
「え~とね……何て言えば良いかなぁ?う~ん…皆ね、男の子に慣れてないの」
「まぁ、そうでしょうねぇ。僕たち世代は男女比1:10みたいですしね……」
「だからね、市原君が女子生徒たちの近くの席で入学式に参加すると何が起こるか分からないの」
困った顔で俺に言う。
「あ~何となく真清田先生が――いや教職員の先生方が危惧した事を理解しました。最悪の事態を想定しての事ですね?」
俺は言葉に出さなかったが伝わったと思う。俺に緊張して気絶するとかなら良いが(良い訳ではないが)、最悪の事態としてセクハラとか性暴力とかに発展してしまう可能性はある。
「察してくれてありがとう。だからと言ってわざわざ来てくれた市原君を出席させないなんて言う訳にもいかないしね……」
本音としては何が起こるか分からないから出席させたくは無いが、わざわざ男子生徒が入学式に出席する為に来たのに参加させなかったとなれば後から問題になった時に面倒な事になる。それなら、教職員の席で参加して貰うと言う折衷案になったんだろうなぁ。
「自分としても学校側にご迷惑を掛けるつもりは無いので、リモート参加?みたいな直接参加しない方法でも構いませんよ?」
初っ端からヘイトを買うのもアレだし別に我慢できない事と言うか譲歩できない事でもないし、ここは恩を売るのも一つだと思って提案したのだが……
「気持ちはありがたいのだけど、今からそれに変更をして後で文句を付けられるとこちらとしても困るから……」
まぁ、面倒なクレーマーはどんな些細な事でもクレームを付けるからな。付け入る隙を与えない事がクレーマー対策になる訳だ。
そんで、嫌な事実を知ってしまったな。開黎高校には学内で派閥闘争の様なものがあるのかもしれない。
だって、元々は教職員の席での参加だったのに当日急に俺がリモート参加した事にいちゃもんを付けるのは、どう考えたって事情を知っている内部の人間だけだろう。
「余計な事を言ってしまい申し訳ありませんでした」
マジか……中々面倒な学校を選んでしまったのかもしれないなぁ。偏差値の高さと家からの近さで選んだのは少々失敗だったのかもしれない。
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