4話
早速ブックマークと評価を頂きました。本当にありがとうございます。
そして、この作品はフィクションですので……それを含めてご覧いただけたらと思います。
「大変失礼しました」
開幕は先生の謝罪からだった。
「所で、俺は何でこの病院に入院していたんですか?」
前の俺は多分心臓発作で病院に運ばれたのかそのままだったのかは分からないが、死んだんだと思う。
先生と母さんはお互いの顔を見て、母さんが頷いたのを確認して先生が話してくれた。
「睡眠薬を大量に飲んでの自殺……」
マジか……そんな思い詰める様な原因があったのか。
だけど――
「先生、確か睡眠薬を大量に飲んでも死ねない様になっているんじゃなかったでしたっけ?」
某有名歌舞伎役者の事件が衝撃的で調べた事があるが、一般的に出回っている睡眠薬では死ねない様にデザインされているとあった。ただ、その事件で使用された睡眠薬は高齢者には慎重に使うべきものらしいので一人だけ生き残ったのはそれが原因かもしれない的なものを見た覚えがある。
「詳しいのね……その知識がある――残っているという事は誰かに飲まされたのではなく、自分の意志で飲んだという事なのかしらね……」
えっ!?事件性があったの!?またヤベェ事してしまったのか……
「春ちゃんは男子校の受験に失敗してたの。そのショックで心療内科で処方されたお薬を飲んでいたの」
「あぁ……」
睡眠薬って言ってたけど本当は向精神薬だったのかな?向精神薬でも死ぬ確率は高くないけど、高くないってだけで死ぬ可能性はある訳だしな。
母さんは睡眠薬じゃなくて向精神薬だったって知ってたなら最悪の事態を覚悟したってのも納得かな。
だけど、自殺しようとした理由からも感じ取れる。ここは男女の貞操観念が逆転した世界だ。そして、恐らくだが男女比が偏っている為に男性は女性を恐れているのだろう。この辺も後程キチンと確認しておこう。
だから、この体の前の持ち主――面倒臭いな。春人とかにしとくか。自分でイケメンとか痛いとか言うなよ?今の俺じゃなくて前の俺の事だから……
ともかく、春人は男子校に落ちて共学とかに進学しないといけなくなったから?って事か?
だけど、これも疑問だな。
「高校って義務教育じゃないですよね?通わなくて良いんじゃあ……通信制とかもありますよね?」
俺がそう言うと先生も母さんも苦笑いを浮かべた。
「通信制でも課題を提出する為に登校はする必要があるでしょう?その辺は共学校と変わらないわね」
先生が答えてくれた。
「でも、毎日通うのと週一?月一?かは分からないけど頻度は違いますよね?」
「春ちゃん、共学校も男子は週一回、最低でも月一回は通わないといけないからそう変わらないのよ?」
あ~うん……これは俺が悪いな。
「ゴメン。俺、そう言う社会常識みたいなのも忘れてるみたいだ。そう言う基本的な事から覚えなおさないといけないみたいだ。小学校からやり直すとか出来る?」
なるべく深刻にならない様におどけて言う。
「申し訳ありませんでした。私が失念していました。記憶喪失だと分かっていたのだからキチンと確認しておかなければならなかったわね。検査まで時間があるし、その確認から始めましょう」
そこから始まったのは自分の名前、自分の年齢、家族構成、今西暦何年、等々を確認して言ったのだが、とんでもない事が判明した。
ちなみに、32歳の市原春人の記憶はあるが、正直に答えずに分からない。覚えてないで通した。
「2175年……」
そう、西暦で約150年先の未来だったのだ。
今日は2175年の2月18日だそうだ。俺がこの病院に搬送されたのは3日前の2月15日だそうで、32歳の市原春人が倒れた日(10月の第3日曜)とは日付が違う。
と言うか、3日も眠ってたのか……あと、向精神薬を大量に飲んでと言うなら依存症とか後遺症とかが怖いな。今の所は若干怠い位だけど。この辺も調べて貰おう。
そして、ここからは母さんと先生に聞いたこの世界の話をざっと説明していく。
まず、やはりと言うべき男女の貞操が逆転した世界で男女比も偏った世界だった。
男女比は1:5の様だ。コレを聞いて確かに偏りはあるけど、そこまでか?もっと1:50とか1:100とかもっとヤバイと思ってた……
ってのは罠だ。この男女比は所謂数字のマジックらしい。と言うのも、日本の総人口を男女比にするとというヤツらしい。
アレだよな。厳密には違うかもだが、分かりやすい例としては日本人の男性の平均年収が500万とか600万って言われてまぁまぁの人がそんなに貰ってねぇよ的な?
つまり、高齢者含めての男女比だって事らしい。若い世代になればなるほど男性の数は少なくて俺くらいの世代だと感覚的ではあるが男女比は1:10くらいまで差が広がっているらしい。
そんで、何で男女比が偏るようになったのか?理由は色々あるが、大元は150年前に突然流行したコロナの所為だった。俺、メチャクチャその時代の人間なんですけど……と思いながら聞いていた。
コロナの所為と言っても大まかに言うとであって理由はコロナに掛かった後遺症とワクチンを打った事による遺伝子レベルの影響と言うのが現在の研究で判明している事らしい。
確かに後遺症で内蔵逆位症の赤子が増えた的なのは聞いた事があるが、それは無いらしい。
これを聞いた事で俺がいた世界の150年後の可能性は低いんじゃないかと思った。なので、平行世界――パラレルワールドの日本の150年後の世界の様な気がする。
ワクチンについてはね……噂レベルではあったけどそれがこんな事に影響するのかと思わざるを得なかった。
まぁ、でもなぁコロナ初期は毎日死者何百人とか酷い時は何千人とか報道されてたし恐怖だったもんなぁ。ワクチンを打ってコロナに罹りたくないっていう心理が悪いものの筈が無いよな。
それに、卵が先か鶏が先かではないがコロナのワクチンを打った人でもコロナに罹った人はいるので後遺症の所為なのかワクチンを打った所為なのかと言うどちらの所為なのかと言う事は今となっては分からずじまいと言う事らしい。
まぁ、厳密な原因の特定云々より男女比を何とかしなければと言う研究の方が大事だとは俺も思う。原因も分かってないという事でもないしな……
そもそも、日本は少子化だったので、明確に男女比が偏っていると気付いたのは2070年代になってかららしい。まぁ、そもそも俺が生きていた2020年代でも若干女性の方が多いって言われてたからそれに少子化もあったなら男女比が偏っていると気付くのに時間が掛かっても仕方が無い気はする。
いや、寧ろ時間が経たないと徐々に男性が減ってるって気付かなかったのは当然なのかもしれない。
ともかく、男女比が偏っていると判明した以上対策は取らないといけない。少子化もあったのだから当然の話だ。いや、とんでもないダブルパンチだよ。
でだ、男性の出生率が減ったのはコロナが原因って事は分かった。なら、少子化の原因は?ってなるとこれはまぁ色々ある訳なんだが、ある一つの法律と言うか罪に注目が集まった。
それは不同意性交等罪だ。これもタイムリーだなと思いながら聞いた。これはネットとかSNSでも話題になっていたから知っている。
これの所為で男性の性行為への及び腰が更なる少子化に拍車をかけたと政府は判断して同じ2070年代に大々的に改正をした訳だがもう遅かった。
ただでさえ結婚や子供を産んで育てるのはリスクなんて言われていたのに、今度はその子供を産む前の性行為で下手をすれば一発で犯罪者だ。そんな多大なリスクを負ってまで子供を産んで育てようと思うかと言うと……しかも、徐々に男女比は偏っていた。
お察し頂けると思うが、大半の男性が及び腰ならまだ良い方で女性や性行為に嫌悪を抱いていたのだ。まぁ、当然だろう。女性の気持ち一つで犯罪者になってしまうんだからな。美人局や冤罪が横行して2040年代に一部改正されたとは言え2070年代に大々的な改正があるまで50年だ。その50年の間に溜まった――積もった男性側の恨み辛みは尋常なものではない。
それが今現在でも女性に対して恐怖や嫌悪などの悪感情を感じる原因の元だろうと言われているらしい。
しかし、だからといって日本のひいては人類の存続を諦める訳にはいかない。そこで、2080年代に政府は大胆な法を成立させた。それが男性特別措置法だ。
これはまぁ何と言うかアレなんだよねぇ……超簡単に言うと、性行為しなくて良いから精子を寄越せって法律らしい。男性の住民税を無くす代わりに精子を提供する義務が生じる。これは18歳からの義務らしい。
これで少子化と男女比の問題も少しは良くなるかと思われたが……結論から言うと少子化はどうにかなりそうだった。人工授精が主流になったからだ。
だが、男女比はどうにもならなかった。寧ろ男女比が1:4近くになると余計に酷くなったらしい。
原因は?となると一つで男女の性行為から生まれたかどうかと結論付けられた。人工授精と男女の性行為の出産で男性の赤子の出生率を調べてみると有意差は20倍近いと判明した。
人工授精は神の領域を侵す行為だからだとかやはりコロナの所為だとか学説は多岐にわたるらしいがこれだと言う理由は未だにはっきりしていない様だ。
じゃあ男女の性行為の出産に切り替えられるかと言うと……まぁ、俺でも分かる。無理だ。
だって、不同意性交等罪で男性のヘイトを買って更にお前らには期待しないから精子だけ寄越せからのやっぱり性行為お願いします――だろ?
無理無理同じ男で話を聞いただけの俺でも無理だと思ったもん。
最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。