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閑話 息子が職場にやって来た

 私の名前は市原美優、年齢は秘密よ。そんな私には可愛い息子がいる。


 のだけれど、息子は男子校の受験に失敗したショックで自殺未遂をした。


 幸い命が助かったので良かったと思ったのだけど、まさか平行世界のそれも150年前の同姓同名の市原春人と言う人物の記憶があると言うとんでもない事になっていた。しかも、私と暮らしていた15年間の記憶を全て無くしているのだ。


 当然この世界の常識なんてないので、対外的に記憶喪失と言う事で誤魔化している。


 だけれども、常識が無い故に息子は危ういのだ。あの顔だけで女性を虜に出来ると言うのに、女性に対して忌避感や恐怖感も無く、かと言って横柄であったり威圧的でもなく、正に全ての女性の理想の男性の様な存在なのだ。


 そんな息子が私の職場に来たのだ。


 と言うのも、私はデヴァイスを家に忘れたのだが、今日は幸い午前中は社で会議があるので、外回りは午後からの予定だった。なので、昼休みに家に取りに帰れば良いと思っていたのだが――


 「市原さん、受付の水上さんから息子さんが来ているって連絡が来たのだけど……」


 と上司である里方(さとかた)千由紀(ちゆき)から困惑した表情で言われて私の表情は強張った。


 「あの!?息子は何処に!!」


 「ロビーの受付で貴方を待っているそうよ」


 私の食い気味の答えに引き攣った顔で答えてくれた。上司に対する態度では無かったが、今回だけは許して欲しい。


 息子は私のデヴァイスを届けに来てくれたのだが……


 つい昨日、男性警護者を伴って初の外出を済ませたばかりなのに、まさか一人で家からタクシーに乗ってここまで来るなんて思ってもみなかったわ。


 しかも、手ぶらでお邪魔するのは悪いと思って途中でコンビニに寄って手土産を買ってきたと言う。


 そもそも男性が一人で外出するという事があり得ないのだ。だから、いくら治安が良いと言っても魔がさしたりして誘拐されたり性暴力の被害に遭ったりしたらとか――思ってもいないのだろうなぁ……そういう隙がある所が心配で心配でたまらないのだ。


 なんて事を考えていたら息子がとんでもない事を言い出した。()()()()()()()()()()


 止めて!!私に息子がいる事は一応プライベートな事なので秘密となっているが、上司や上層部は知っている。


 もし、春ちゃんがとんでもない優良物件だと分かったら大変な事になるのよ!!


 すかさず、話を聞いていた水上さんは逃がさないとばかりに里方課長に連絡しようか?と言った。覚えてなさいよ!!


 「母がいつも大変お世話になっております。息子の市原春人と申します。今後ともどうぞ母をよろしくお願いします」


 「いやいや、とんでもない。市原さん――お母様は大変優秀な部下で私の方がいつも助けられてますよ。こちらの方こそ()()()()よろしくお願いしたい」


 息子が立派に挨拶をしている。だけど、お互いに意図が分かっていない。春ちゃんは私をお願いしますと言っている。里方課長は()()()()()よろしくしたいと言っている。


 課長!歳考えなさいよ!!私より年上の癖に春ちゃんの妻になる気なの!!私より年上の課長の義理の母になる気はないわよ!!


 「あの~つまらないもので大変恐縮なのですが、宜しければこちらをどうぞ」


 春ちゃんはどうせ挨拶するからと言って私に渡したお菓子を再度回収して自分の手で渡した。


 「っっ!?これはこれはどうもご丁寧にありがとう。いや~よくできたご子息で()()()()もさぞ鼻が高い事だろう」


 シレッと私の事をお母様とか言ってるし……もし、お義母様の方だったら課長――貴方、社会的に殺しますよ。上司の立場を利用して息子に言い寄る女性として……


 流石に同僚の方に挨拶は必要ないと言ってサッサと帰らせたけど、課長と水上さんから春ちゃんの事が漏れて面倒臭い事になった。


 「い、市原さん、良ければ今度飲み会をしませんか?その~できれば市原さんのご自宅で……」


 「市原さん、息子さんがいらっしゃると聞いてね?良ければうちの娘と会って貰えないだろうか?」


 こんな申し出が急増したのだ。同僚は宅飲みにかこつけて春ちゃんに会う目論見だし、上層部は娘と春ちゃんを会わせて既成事実を作ろうとしている。


 春ちゃんが男子校の受験に失敗したのを知った時は誰もそういう申し出をしてこなかった。ありがたいと思ったけど、それは同時に春ちゃんは自分たちやその娘の候補にすらならなかったという事だ。これは少々穿った見方かもしれないけど……


 だから、今更になってそんな申し出をされても納得できる筈が無いので容赦なく断っている。それで、社内の立場が悪くなっても構わない。


 母親としては少々複雑だけれど、嵯峨根さんや太刀川さんみたいな子の方が応援したくなる。


 そうは言っても私の可愛い可愛い息子は簡単には渡さないんだからね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。


また、今回のお話で第一章完みたいなカンジで次回から高校入学編に入る予定です。ストックが尽きた事、ある程度の高校入学編の構想を練る為、取り敢えず3日お休みを頂きたいと思います。次回は1月19日6時更新とさせて頂きます。

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