26話
今回は初めてと言う事で男性専用の大型複合施設の食品売り場に行く事に決まった。
確かに初の外出だからある程度安全が保障されている男性専用の施設に行くのが正解だろうな。ここで近場のスーパーにと言って無理をさせる気は無い。
「それじゃあ、実際に外出するに際しての注意事項とか約束事について話をしたいです」
「そうですわね……春人さんの前を太刀川さんに、後ろは私という形で春人さんを間に挟んで警護するつもりですわ」
「拙が前なのは太刀を持った男性警護者がいるという威嚇や抑止力と言う面があります」
「なるほど……続けて下さい」
ここまでの説明で不満等は無い。
「続けてと言われても困りますの……」
何故か嵯峨根さんが困った顔で言う。
えっ!?俺を間に挟んで警護するって事しか話してないじゃないか。
「逆に春人さんから何かありませんか?」
太刀川さんからこんな事を言われる始末だ。
「えぇ……それじゃあまず、私がトイレの時はどうするんですか?小の時は近くにいて貰っても構わないですけど、流石に大の時は……」
「ト、トイレですの!?」
「小の時はいても良いのですか!?」
ちょいちょい思ってたけど、太刀川さんって結構アレだよなぁ……見た目は綺麗な大和撫子なのに中身の残念感が凄い。
「まぁ、小の時は10秒20秒で済みますから……それに、男子トイレの中に痴女が隠れているかもなんて事は誰でも想像できる事ですしね」
「で、ではその……大の時は個室の前で待機で良いですの?」
逆に嵯峨根さんの方が今みたいに恥ずかしそうに言うのは新鮮だ。男慣れしてるって番場さんが言ってたんだがな。
「間に合いそうにない時等の緊急事態以外ではまず個室を調べて貰えると助かります。いっその事小の時も個室でしましょうか。次は万が一、はぐれてしまった場合ですね。お二人のデヴァイスの番号を登録しておいて直ぐに連絡をするつもりではありますが如何でしょうか?」
「拙たちにデヴァイスの番号を教えて宜しいのですか?」
「万が一ではありますが可能性はゼロではありませんから、何かあった時の為に手を打っておくのは当然の事でしょう」
「そう言っていただけるのはありがたいですわ。男性警護者の名に誓って春人さんのデヴァイスの番号を悪用致しませんわ」
「拙も太刀川の名に誓います」
二人ががばっと頭を下げた。大袈裟過ぎないか?
「後は男性専用の施設に行く訳ですから当然他の男性がいる可能性があります。仮にですが、私と他の男性が何かトラブルになった時お二人は?」
実は一番危惧しているのはコレだ。相手が女性なら二人は男性警護者として堂々と制圧できるだろう。だけど、相手が男性だとそうはいかないんじゃないか?と思っての事だ。
「春人さんの懸念は尤もですわ。私達、男性警護者は基本的には男性同士の問題には不干渉となっていますの」
「相手の男性が明らかに春人さんに対して暴力を振るおうとしている状況でしか男性警護者として手を出せないのです」
予想通りだな。
「そうではないかと思っていました。口論だと思って手を出すと話をしていただけだと言われて逆に問題にされるからって所ですかね?」
「その通りですわ。それに、その方が逆に男性を守る事にもなりますの。極論、男性同士のトラブルはS級と言うか強い男性警護者を連れている方の男性の主張が通るという事になりかねませんの」
あぁ、確かにその通りだな。金の力でS級とか数を多く揃えてとかになると理不尽が罷り通る事になりかねないって訳だ。
「分かりました。最後にですが、私自身の自衛として武器――は言い過ぎにしても何か道具を持ちたいと思っているのですが……」
「武器の類は推奨しませんの」
俺の発言に顔を険しくして嵯峨根さんが言う。
「拙も同じくです。相手を刺激しますし、武器を持っているから安心だと油断が生まれます」
太刀川さんも顔を険しくして言う。
「そして何より、男性同士のトラブルで春人さんだけ武器の類を持っていると相手に対する害意を抱いていたとして不利な判断をされかねませんの」
なるほど、自衛の為の所持とは認められない訳だな。まぁ、相手は素手で俺の方が武器の類を持っていたらそう判断されてもおかしくは無い。たとえ相手から吹っかけてきた喧嘩であってもな……
「分かりました。ただ、けたたましい警報音が出る防犯ベルみたいなものは持っておきたいと思いますが、これはどうですか?」
「そちらに関しては良い判断だと思いますの。私が持っているものをお渡ししますので何かあった時は遠慮なく使って欲しいですわ」
そう言って嵯峨根さんから腕輪型の機械を渡された。俺はてっきり卵型と言うか引っ張ったら音がするタイプを想像していただけに一瞬面くらった。
「これを腕に巻くんですよね?」
使い方を一応聞いておく。
「えぇ、そして、何かあった時にこのボタンを押せばけたたましい警報音が鳴り響きますの」
良かった。そこら辺は一緒だな。
「分かりました。ありがとうございます。拝借します。私からは以上ですが、お二人からは何かありませんか?話している最中にこれは言っておかないとと言う事が出てきたりしてませんか?」
「私からはありませんわ」
「拙からもありません」
何と言うか積極的では無いよな?お試しだからと言って手を抜くと言うカンジの人達では無いだろうし違和感がある。
「本当に何もありませんか?私は記憶喪失ですから私にとっては今回が初めての外出になる訳です。只でさえ常識を知らない上に初めての外出です。もっとこう何かあると思っていたのですが……」
僕は困惑していますアピールをする。
「なるほど……常識が無いという事は逆にこういう事態を招く事もあるのですわね」
嵯峨根さんがそんな事を苦笑して言う。
「拙は春人さんの様にここまで綿密に相談された事は初めてなのです」
ちょっと待て……この程度で綿密?だと?
「綿密でしたかね?最低限の事をどうしますか?って打ち合わせたと言うか相談したと言うかそんな認識でしかなかったのですが……」
「他の男性と比べると綿密と言って良いと思いますの。何の話もする事もなくただ警護をするなんて事はざらにありますわ。勿論、男性警護者同士での打ち合わせはありますの」
嵯峨根さんの爆弾発言に太刀川さんもうんうんと頷いていた。
「あの~男が外出するって危険な事なんですよね?なのにそんな適当で良いんですか?」
実際、極端な例とは言え太刀川さんの警護対象者は犯罪組織に誘拐されたって番場さんに聞いたぞ。
「拙は無理難題を言われる位なら何も言われない方がマシと思っています」
「私も同意ですの。こちらが良かれと思って提案した事でも余計な事はするなと言われる事もありますわ。ですので、私も基本的には何も言いませんの」
それで口数が少なかったと言うか、俺から言われた事に返答をするって形を取っていたのか。
「あの~本当に大丈夫ですよね?」
そんな話を聞かされると不安になるじゃないか。
「春人さんは大丈夫だと思いますわ。私が警護してきた中でもしっかりとした方で、私たちの事を信用してくれていますもの」
「拙も同意です。S級二人が付いていて尚且つ向かうのは男性専用の施設だから何があっても大丈夫などと楽観していない時点で十分かと思います」
何だろうなこの微妙に居た堪れない気持ちは……褒められてる筈なのに褒められてる気がしないんだよなぁ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。