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23話

 「えぇ、とんでもない逸材が現れたと思いました。私は迷いなく二人共S級に昇級出来る様に推薦しました。ですが、S級になってからの二人の話を聞いて私は居た堪れなくなりました。まだ、S級に昇級するのは早かったのだろうか?私が推薦してS級になってしまったからではないか?そんな事を思っていました」


 任命責任とは少し違うかもしれないが、番場さんは番場さんで後悔していたと……


 いやいや、待て待て待て…サラッと流しそうになったが、S級の昇級の実戦試験の試験官?って事は当然この人はS級かそれに準じる人な訳で……


 羽立さんが昨日、只の職員じゃないって言ってたのはセンター長補佐って言う肩書だけじゃなくてそういう意味もあったのか。


 「はぁ~分かりました。まぁ、何と言うか前向きに検討したいとは思うんですがね……コレが問題なんですよ」


 俺が乗り気じゃなかったのはS級の男性警護者尚且つフリーで特殊案件でなんて途轍もなく面倒臭そうな人間に警護して貰うのは……と思っていたからだ。手の平返しって言われるとアレだが、後は実際にお試しで警護して貰ってのカンジで決めたいと思う程にはアリだと考えている――がコレと言った時に手で親指と人差し指をくっつけたお金のジェスチャーをした様にお金の問題がある。


 「なるほど……市原様は私にどうしろと?」


 「今回の件の謝罪で賠償金を頂きたいです。その賠償金で二人を雇うと言うのはどうです?勿論、お試しで警護をして貰って相性に問題が無ければと言う前提での話ですが……」


 番場さんが実は陰の実力者と分かったのならば敵対は愚策だ。思い付いた秘策を上手く活用するとしよう。


 「そうですね……私が市原様に説明も同意も得ずにした事ですので、こちら側に完全に非が有ります。ですが――」


 「えぇ、分かっていますよ。最低で数十万、高くても百万位でしょう?」


 俺は言いにくそうな番場さんの言葉を遮って言う。


 「仰る通りです。裁判にでも持ち込めば男性有利ですから額は増えます。ですが、時間や労力を考えると示談と言う形で額は少ないですが示談金を受け取る方が良いかと思います。そうなると、住み込みの条件でも数か月分にしかならないでしょうが……」


 「せ、拙は市原様にお仕えできるのであればお金は要りません!!」


 太刀川さんがそんな事を言う。


 「私も言い方は悪いですが、お金には困っておりませんし市原様の男性警護者をしていれば他の男性から依頼は無条件にお断りできますので私もお金は結構ですわ」


 嵯峨根さんまでそんな事を言い出した。


 「いやいや、流石にそれはマズいです。そこでですね……俺に秘策があるんですよ。番場さん、額が減った分()()()()で補填して頂きたいと思っているのですが如何でしょう?」


 「それは……市原様が仰る()()()()の内容によります」


 簡単にうんとは言わない姿勢に好感が持てる。


 「俺を雇ってもらえませんか?」


 「はい?市原さんを雇う?」


 あっ市原さんに戻った。


 「春人君がこの人材派遣サービスで働くのか?」


 羽立さんも首を傾げながら言う。


 「ここで働くのは事実ですが、恐らく考えている仕事内容が違います。番場さん、フリーの男性警護者はどうやって勘を鈍らせない様にしているんですか?」


 「それはセンター(ここ)で訓練をしたり、職員や他のフリーの男性警護者に警護対象者役をやって貰って実際に出掛けたりっっ!?まさか市原さん!?」


 気付いた様だな。俺が考えた秘策とは――


 「恐らく予想した通りですよ。実際の男を警護した方が緊張感も違うでしょう?俺の休日の外出をその訓練という体で利用できれば三方良し所か四方良しなんですよ」


 俺は昨日羽立さんからフリーの男性警護者だと仕事がほとんど来ないと聞いた時に、じゃあフリーの人たちはどうやって腕が錆びない様に――感覚が鈍らない様にしているのだろうか?と思ったのだ。


 そこで思い付いたのが秘策()()()()()()()()()だ。分かりやすさ重視なので語呂が悪いのには目をつぶって欲しい。まぁ、名前から分かるよな?前世のレンタル彼女、レンタル彼氏からパク――発想を得た。


 そして四方良しと言うのは、①俺は言うまでもなく警護して貰うのにお金が掛かる所か逆にお金が貰える。②俺の男性警護者は何事も無ければ一日休める。③フリーの男性警護者は本物の男の警護対象者を警護する事で緊張感や同性相手では得られない経験が出来る。④番場さんがいる人材派遣サービスは俺にお金を支払う事にはなるが、本物の男性相手の訓練で貴重な経験が出来るという事をアピール出来る。それはどこの人材派遣サービスでも出来る事じゃなくて番場さんがいる所(ここで)だから出来る事と言う唯一無二と言って良い付加価値が生まれる。


 「ハハハハハハハ、とんでもない事を考えるなぁ春人君は」


 羽立さんは大笑いする。


 「それに、たまの休日にする事であれば俺の負担はそんなに無いし、不定期とか月一とかになれば只でさえ貴重なものが更に価値が上がりますよね?」


 「素晴らしいお考えですわ」


 嵯峨根さんも褒めてくれる。


 「更に本当はこういう使い方はしたくないんですけど……休日な訳ですよ。つまりですね――男性警護者と警護対象者の休日の警護という名のデート?みたいなね?」


 「「「「っっ!?」」」」


 俺以外の四人全員がその場で飛び上がった。


 「と、とんでもない事ですわ!?全男性警護者の夢と言っても過言ではないシチュエーションなのですわ!?」


 「せ、拙も!!市原様と警護という名のデートを!!」


 「ハハハハハ、ゲホッゲホッ、本当にとんでもない事をよくもまぁ思い付いたものだね春人君」


 「イケメンDKとの休日デート――これはとんでもない事になりますよ……」


 四者四様の反応をする――がそう簡単にはいきませんぜ?


 「てな事を考えたんですけど、コレ次第ですね。あんまりな額だと他に話を持っていきますよ?例えば……羽立さんが勤めている警備会社とか?」


 「なっ!?」


 「ほぉ~それは有難い話だね」


 「お、恐ろしい方なのですわ……本当に15歳ですの?」


 「正しく深謀遠慮…拙の目に狂いは無かった様です」


 ふぅ~はったりでやり切ったぜ。デート?前世でモテなかった俺に出来る訳が無い。あくまで、あくまでそういう主観的な物事の捉え方もあるよね?って言う話だから……実際にデートをする訳じゃあない。ちゃんとデート?みたいな?って言ってるしな。あくまで俺の休日の外出の警護を訓練として利用するだけだから。


 取り敢えず、明日から嵯峨根さんと太刀川さんにお試しで警護して貰って、なるべく早く契約を結ぶかどうか結論を出すという事で今日の話は終わった。 

最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。


今年の更新は本日で最後とさせて頂きます。次回の更新は来年の1月4日の6時からです。その間に少しでもストックを書き溜めておきたいと思います。それでは、皆様良い年末と新年をお過ごし下さい。


そして、新年も拙作を引き続き応援して頂けたらと思います。よろしくお願いします。

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