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22話

 「失礼します。お二人との面談を希望された市原春人さんと男性警護者の羽立美智留さんがいらっしゃいました」


 番場さんが先に室内に入り俺と羽立さんが来た事を告げた。


 「どうも、市原春人と申します。本日はどうぞよろしくお願い致します」


 テーブルを挟んで長いソファーがあるので二人が掛けているのとは反対側に行きペコリと頭を下げて座った。


 「羽立美智留だ。今日は春人君の母親である美優の代わりに付き添いとして来た。よろしく頼む」


 自分は男性警護者ではあるがあくまで母さんの代わりに来ているというスタンスを表明するかの様に俺の隣に座った。


 さぁ、相手からも自己紹介があるかと思ったが…何も反応が無い。


 「あの~」


 「はっ!?失礼致しましたわ。私はS級の男性警護者をしております嵯峨根幸那と申しますわ」


 嵯峨根幸那と名乗った彼女は、昨日デヴァイスで見た資料の写真の通り美しい長い金髪に意志の強そうな黒色の瞳の女性だった。年は27、大学を卒業後たった5年でS級まで昇級した人物だ。幼い頃から護身術の一環として古武術を習っていたそうで武道歴で言えば20年近いそうだ。


 「ふぅー失礼しました。(せつ)は太刀川愛莉です。こちらこそよろしくお願いします」


 太刀川愛莉と名乗った彼女も昨日デヴァイスで見た資料の写真の通り髪は烏の濡れ羽色の様で黒い瞳を持つ古き良き時代の大和撫子の様だ。まぁ、貞操観念が逆転した世界だから大和撫子の意味は前世とは違った意味で使われてるかもしれないが……


 彼女の年は23、高校卒業後男性警護者の資格を取得し、3年でS級まで昇級した人物でS級までの最短記録保持者だそうだ。彼女も家が男性警護者一家だったので武道に触れる機会があり、幼い頃から剣道をしていたらしい。


 「太刀川さん、拙と言う一人称は確か目上の人間に対し自分を遜る際に使用するものだったと思います。太刀川さんと私は対等な立場の人間です。この場においては別の一人称を使用頂けますか?」


 そう、(せつ)と言う変わった一人称を使う二次元のキャラがいて、そんな一人称あるのか?と思って調べたので間違いないと思う。


 「っっ!?失礼しました。私と言わせて頂きます」


 重箱の隅をつつくような真似はあまりしたくないが、少しでも主導権を握りたいと思っての事だ。


 「ほぉ~春人君は物知りだな」


 羽立さんが適当な感想を言う。


 「そんな事はありません。それでは、私からお二人に説明をさせて頂きたいと思います」


 そうして改めて最低週五、最高週七の話をした。


 「ま、毎日通われるのですか?」


 俺の説明が終わると嵯峨根さんが困惑した声で問う。


 「学生の本分は勉強ですし、せっかく通うのですからキチンと毎日通いたいと思っての事です」


 「仮の話ですが、私と嵯峨根さんが市原様の男性警護者となった場合、私達は学校ではどのようにしたら良いとお考えですか?」


 今度は太刀川さんが尋ねる。


 しかし、この質問内容は……


 「そうですね……流石に一緒の教室にいろ等とは言いません。共学校ですから恐らく男性警護者が待機する部屋があると思いますのでそこにいて貰うか、私が登校した後は一度帰り下校時にまた来て貰うかと言うような事を考えています」


 「待機か一度帰る?」


 嵯峨根さんが小さい声でだが驚愕していた。


 「恐れながら、せ――私は市原様の傍で待機した方が良いと考えます」


 「そうですか。まぁ、その話は正式に決まってから話しましょう。逆にこちらからお二人に質問をしたいのですがよろしいですか?」


 「大丈夫ですわ」


 「どうぞ」


 「ありがとうございます。では、まず嵯峨根さんにお尋ねします」


 そこから何故男性警護者になったのか?とかこれまでの経験で一番印象深い出来事だったりなど面接で聞かれる様な事を尋ねた。同様の事を太刀川さんにも尋ねた。一応前世では社員として働いていた飲食店でバイトの面接もした事があるのでその経験が生きた。


 正直に言おう。ここまでは油断させる為の質問だ。


 「ありがとうございます。では、これで最後の質問です。まずは嵯峨根さんからお尋ねします。()()()()という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?」


 この最後の質問が本命とも言える。


 「「「「っっ!?」」」」


 俺以外の四人全員がピクリと反応した。決まりだな。


 「さて、まずは嵯峨根さんからお尋ねしますと言いましたが……番場さん、ご説明願えますか?」


 「はぁ~市原さんを侮っていた様ですね」


 番場さんが両手を挙げて降参のポーズをしながら言う。


 「羽立さん、一応聞いておきますが貴方は知っていましたか?」


 「いや…もしかしたらとは思っていた。しかし、誓って言うが私は知らなかった」


 羽立さんも昨日の部屋でのやり取りを()()()()()()()()()()()()()と考えてはいたんだな。


 「市原さん、どうして気付いたんでしょうか?」


 「ずっと気になっていた事があったんですよ……何で今日、()()()()()()()()()()()()()()と言う事です」


 そう、普通なら一対一で会って話をしたいと思うだろう。ましてやこの二人は警護対象者に条件を付ける程なのだ。何で?と率直に思ったのだ。


 「あくまで鎌かけです。確信があった訳ではないです。ただ、もし昨日のやり取りを聞いていたなら二人別々に会って話をするとなると知らない筈の事を知っていたりとボロが出るかも知れないと考えて二人同時に会うとでも考えたならまぁそうおかしな事でもないかなと思ったんですよ」


 あと、嵯峨根さんは俺が思っていた様な高飛車なキャラじゃなかったし、太刀川さんに至っては最初から拙と言っていた。こちらは癖であっても、最初の仮に二人が男性警護者だった場合の話とか何故か好感度が高いと言うか俺の男性警護者になる事に乗り気だったのは昨日のやり取りを聞いて少しは好印象を持ったからじゃないか?とも思ったのだ。


 勿論、陰謀論と言うか俺の考え過ぎでただ単に時間を無駄にしたくなくてとか他の可能性もあった。だから、鎌をかけたが見事に掛かってくれた。


 「わ、私がお願いした事なのですわ」


 震える声で嵯峨根さんが言う。


 「私の前では上手く取り繕っている男性もいるのですわ。だから、私を男性警護者にと言う依頼がある時は番場さんとのやり取りから知りたいとお願いをしましたの。市原様、大変申し訳ありませんでしたわ」


 「なるほど、そう言う事でしたか……そういう事情があるのであればお気になさらないで下さい。私もまさか聞かれていたとは思わずに面倒臭い人とか不良在庫などお二人の事をよく知りもせず貶める発言をしてしまいました。大変失礼を致しました。申し訳ございませんでした」


 勿論、盗聴は良くない事だが本人たちがいないと思って貶める発言をした俺に非が無い訳ではない。キッチリと90度体を倒して3秒間頭を下げた。


 番場さんが言っていたもんな。警護対象者に言い寄られる事は想像出来ると……


 「市原様にそう仰って頂けるなら幸いですわ」


 そこで輝くような笑顔で言わないで頂けますかね……おじさんには眩しすぎる。


 「ありがとうございます。では、太刀川さんはどう言う事情があっての事ですか?」


 「拙は盗聴していた訳ではありません。昨日、番場さんから連絡を頂いた時は本当はお断りするつもりでした。ですが、番場さんから市原様とのやり取りを聞いて私の事を恐れず理解しようとしてくださった市原様に興味を持ちました。そして、今日のここまでのやり取りで拙は市原様にお仕えしたいと思いました。嵯峨根さんと二人で市原様と会って話をすると言うのは番場さんから嵯峨根さんの希望だと伺いました」


 えぇ!?番場さんから話を聞いただけで興味を持った?今日のやり取りで仕えたいと思った?この子、チョロ過ぎやしませんかね?おじさん、心配です。


 「市原様、私は昨日少しお話をさせて頂いてこの二人を任せられるのは市原様しかいないと思いました。この度は私の独断でご不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした」


 番場さんの俺の呼び方が市原様に変わり何とこの場で土下座したのだ。


 「ちょっ!?番場さん!?立って頭を上げて下さい」


 流石に土下座するとまでは思ってもいなかった。


 「見ましたか?市原様は他の男性とは違います。普通であれば私の頭を踏みつける位の事はします」


 すると、今度はスクっと立ち上がってそんな事を言い出した。


 「あの~何かさっきこの二人を任せられるのは的な事が聞こえたんですけど……」


 普通逆じゃねぇ?何で俺に任せるとか言ってんの?


 「そうか……番場、確かお前がこの二人のS級の昇級の際の実戦試験の試験官だったな」

最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。

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