191話
本日は8月12日土曜日の午前9時30分である。
俺たち(俺と凛音と愛莉さん)は再びアメリカ大使館を訪れていた。要件は勿論エマさんに会って留学の件について相談する為だ。
「ミスター市原、この度の事は何と言って良いか分かりません。私から大使に正式に抗議をするようにお願いしたのですが……」
エマさんが開始早々に申し訳なさそうな顔で言う。
と言うか、日本政府がアメリカの抗議を気にしていないと言うのは前世から考えればあり得ない事だ。本来なら喜ぶべき事だが正直複雑だ。
「いいえ、もう終わってしまった事ですから……ですが、このままでは終わるつもりはありません。そして、改めてエマさん並びにアメリカ大使に感謝申し上げます」
「いえ…それでミスター市原本日はどのようなご用件でしょうか?私に相談したい事があると言う事は聞いていますが……」
エマさんが軽く流して本題に入った。
「はい、実は少々大掛かりな事をしようと思っているのですがそれを政府に知られたくないんです。それで、とある方にアメリカに留学するのはどうだ?とアドバイスを貰ったのですが、お恥ずかしい話ですが何分記憶喪失なものでして……」
こういう時は記憶喪失設定が役に立つな。
「ミスター市原が我が国に留学!?それは是非とも実現させたいですね!」
そんな興奮する事か?と正直引いてしまった。
「あぁ、いえ…留学する事を決めた訳では無いのです。あくまでそういうアドバイスを頂いたのでエマさんにお話を伺いたいなと思ったのです。いや、よく考えればそんな事で参事官であるエマさんに話を聞きに来るなんて失礼な事でしたね。申し訳ありません」
感覚がバグっていたが、アメリカ大使館の上から数えた方が早い人物に留学について話を聞きに行くって前世でなら非常識極まりない無い事だ。まぁ、前世でなら門前払い所かアポ取る時点で鼻で笑われて終わるだろうが……
「いいえ、構いません。ミスター市原に信頼して貰っている証拠だと思っておきますので…それで、私としましては大掛かりな事と言うのが気になるのですが……」
だよなぁ。そりゃあ気になるよなぁ……
「申し訳ありません。エマさんの事を信用していない訳では無いのですが、情報がどこから漏れるともしれないので……」
エマさんから大使に報告がいくのは確実だ。そして、そこからどこかを経由して日本政府に情報が洩れるなんてのは想定出来る事だ。だから、話す訳にはいかない。
また、エマさんだけに話すので黙っていて下さいと言うのは悪手だ。それはエマさんに祖国を裏切れと言うに等しい事と言えるからだ。
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